「………」
ふむ、とチドリは何かを考え込むように、
少し遠くを見つめる。
「ごめんなさい。黙っていて」
「何かを隠していたのは知っていた」
「え?」
「突き詰めて尋ねていると、
返答に困っている所があっただろ」
「………うう」
「出会って間もないし、
それぞれ隠しておきたい事もある。
仕方無いとは思っていたが」
重くため息を付く。
「裏一族とは
随分物騒だな」
「えぇ」
「つまり、君の兄は裏一族、なのか?」
「……それは、分からない」
違うと京子は信じたい。
自分と同様に裏一族に狙われているのだと。
「ただ、美和子は
お兄ちゃんの事を何か知っているみたいなの」
「耀は、裏一族に何か関わりがある、か」
よし、とチドリは言う。
「美和子に接近してみよう」
「あ、あの、チドリ!!」
京子は驚いて問いかける。
「裏一族は、危険よ」
「そうだな、気をつけて行こう。
京子は俺の後ろに」
「ありがと」
怒って、立ち去っても
仕方無い事だったのに。
「み、わこ!!」
意を決して
京子は美和子に声をかける。
あら、と振り返り、
一緒に居るチドリに気付く。
「京子、久しぶりね。
……その人は?」
「この村で知り合った人」
ふうん、と
美和子がチドリの手に視線を向ける。
掌のアザを確認しているのだと
京子は気付く。
やはり、印になるのはアザ。
だが、チドリの掌にはアザがない。
違うと分かったのか、
残念そうに京子に向き直る。
「他の2人はどうしたの?」
「今、ここには居ない」
「まあ良いわ、
一緒に来る気になったって事?」
「いいえ。
お兄ちゃんの事を聞きに来たのよ!!」
うーん、と美和子はチドリに言う。
「ねぇ、あなた。北一族さん?
私、京子と2人きりで話しがしたいのだけど」
だが、チドリも笑顔で
美和子に返す。
「残念だけど。
俺、京子の守り役なんだ。
一緒に聞かせてもらう」
「あら、それじゃあ話は聴いてるのね。
京子、彼まで巻き込んだの?可哀想に」
裏一族を敵に回すなんて、と。
う。と
その言葉に京子は罪悪感を覚える。
チドリを危険な目に合わせているのは間違い無い。
「何度も言うけど、裏に来なさい。
そうすれば全部教えてあげるわ」
が
大丈夫、とチドリが京子の肩に触れる。
京子も頷き、美和子に言う。
「行かない!!」
まったく、と美和子が呆れる。
この会話も何度目かの繰り返しだ。
「交渉ならもっと上手にやりなさいよ」
何かの合図なのだろうか、
美和子が腕を上げる。
「私1人ならどうにか出来ると思ったのかしら。
北一族の村は裏の縄張りだって、分かっている?」
美和子がチドリを見る。
「東一族が居ないなら好都合。1人連れてきた所で同じよ。
彼を危険な目にあわせたくなければ
大人しくしなさい」
「ずいぶんと舐められたものだ」
トン。
同時に、チドリが杖を地面に立てる。
ぐん、と周りの景色が変わる。
何か薄い膜のような物に3人が包まれる。
「………紋章術?
これ、東一族の術じゃない!?」
どういう事、と
美和子が身を翻す、が
「ああ。
転送の術を応用して、転送手前で止めている。
俺達は今、周りから見えていない。
もちろん、術を解除するまで誰もここから出られない」
「デタラメだわ」
「北一族は水辺最高位の魔術の一族。
俺はそうじゃないと思ったのか?」
「それでも、
こんな術使いなんて、そうそう居るわけ」
あれ、チドリって凄い人?
京子は1人会話に置いてけぼりになる。
チドリが美和子に迫る。
「北一族の村は北一族のものだ。
さぁ、京子の質問に答えろ裏一族」
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