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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」21

2017年09月26日 | 物語「約束の夜」

「考えたのだけど」

狩りの帰り道。
美和子が提案する。

「いっそ、逆を探してみたら」
「逆?」
「私達、北一族の村とその往復しか
 探してないじゃない」
「ええっと、
 ………南一族の村、って事!?」
「そう」

と言われても、
なぜそこで南一族の村になるのか
京子は首を捻る。

「うん?」

「例えば、
 耀が自分の意志で失踪したなら、
 行き先はあえて逆を伝えるかもしれない」

「………」
「………と、思うのだけど。
 私の考えすぎ?」
「凄い美和子。
 確かにそうかも!!」

思いつきもしなかった。
誰かと共有できるって素敵だ、と
京子は嬉しくなる。

「今度、出かけるならいつ?」
「そうね、次は―――」

数分後には、日程も決まり、
じゃあ、当日の朝に馬車乗り場でと
約束をして二人は別れる。

手を振って、ほう、と
京子は感嘆のため息を漏らす。

「美和子と居ると。
 計画がどんどん進んでいくわ」

突っ走る事の多い京子だが、
躊躇っていたり
どうしようか、と悩んでいる事も多い。

美和子が2つ年上なのもあるが、
ぐんぐんと
引っ張ってくれている。

「南一族の村。
 小さい頃に旅行に行って以来だな」

母と兄と、
一泊二日の小旅行だった。

大きな観光地があるわけではないその村で
ゆっくりと過ごすだけの旅行だったが
とても楽しかったのを覚えている。

「あえて、南一族の村、か」

そう言えば、と
その足で京子は病院に向かう。
予防接種を延期したまま
済ませていなかった。

なんとなく、だけど
出かける前には
色々と用事を済ませておきたい。

「あ、京子久しぶり」

受付にいた医師見習いに
京子は、うわぁと嫌悪の声を上げる。

「この前の事は謝るから
 京子、その顔、止めて」

笑われた事を京子は忘れていない。
根に持つタイプだと自覚している。

ごめんって、と謝る医師見習いに
それじゃあ、と京子は言う。

「例えば、の質問なんだけど」

兄の、耀ぐらいの年頃の男性の考えは
京子には分からない。
だから、聴いてみる。

「この村を出て行きたいほど
 嫌な事って何だろう」

考えつかなかったのもある
けれど、
考えたくも無かった事でもある。

耀が

自らの意志で

失踪する、なんて事。

耀の事だとは、すぐに察したのだろう。
きわめて冷静な声で
医師見習いは答える。

「見切りを付けたいほど、嫌な事なんて、
 あげればきりがないよ」

「………」

「ただ、逆もあるんじゃないか」
「逆」

今日はそればかりだ、と
京子は思う。

「大事だから、
 行き先を告げずに、行かなきゃいけなかった」
「なにそれ、例えば?」
「そこまでは分からないけど」
「説得力が無いわね~」

これでも一応慰められているんだ、と
京子は気付く。

「そうね。
 そう考えてみるわ」



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