TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

今年もお世話になりました!!

2013年12月31日 | イラスト
今年一年、このTOBAブログにお越し頂き
ありがとうございました。



(イラストは「水辺ノ夢」の圭くん)

今年は8月より
「水辺ノ夢」連載、と
色々試みたTOBAですが

ひとえにお越し頂いている皆様のおかげです。

お見苦しい点もあったかと思いますが
まだまだ水辺ノ夢は連載中です。
よろしければもう少しお付き合い下さいませ。

それでは、今年もあとわずか
よいお年をお迎え下さい。

TOBA
 ともえ&ばしょ



「水辺外伝・成院と晴子」

2013年12月27日 | 物語「水辺ノ夢」
成院(せいいん)が晴子(はるこ)を訪ねてきたのは
天気がよい、ある日の事。

「戒(かい)?」

最初、家を訪ねてきた成院を晴子は別の人だと思った。
彼がもう一度訪ねてきてくれる、と
期待していたのかもしれない。

「……あ、成院。ごめん、私ったら」

成院は玄関から動かない。
ちょうど晴子からは逆光で成院の表情がよく見えない。

「成院 どう、したの?
 ねぇ、具合悪いんじゃ」

「晴子、あいつが、俺」
「成院?」

成院の言葉はおぼつかない。
やがて、深く息を吐いて
天を仰いだ後、改めて晴子の方を向いた。

そこでやっと成院の表情が見えて
あぁ、少し落ち着いたみたい
と、晴子は少しほっとした。

「戒院(かいいん)が死んだよ」

突然、彼の名前が出てきて
晴子は動きを止める。

「え?」

「あいつ、流行り病だったんだ
次期宗主様と同じ」

「ねぇ、成院、冗談は止めて」

「晴子」

成院はすがるように晴子を見る。
本当の事、だと。

「うそ」

そんな事があるわけがない、と。
晴子は首を横にふる。

「そうだな」

成院は言う。

「戒院は、いつも、ほんとの事なんて
はぐらかして言わないやつだったから」

戒院の兄である成院は
彼と、戒院と同じ声で言う。

「晴子の事、キライになった、とか
もう、会いたくない、とか
他に気になる人が出来た、とか」

全部、嘘だったのになぁ、と。
目が合った成院は
不思議な表情をしていた。

きっと、泣いてしまいそうになるのを
我慢しているんだ、と
晴子は思った。

「なのに」

「どうしてこれは
嘘じゃないんだろうな」


ある、晴れた日の。
東一族の話。



「水辺外伝・カイとヨツバ」4

2013年12月26日 | 物語「水辺ノ夢」

飲物売りが、また、私の前を歩いていった。
温かかったお茶は半分以上残っていたけれど
とっくの昔に冷え切っていた。

私は中身をこぼして、カップも捨てた。

『カイ』は来ない。

もう、夕暮れ時になる。
これ以上待つ事に意味はないような気がした。
町を歩いていると、どこかの誰かが、
『カイ』の村の話をしていた。

 あの村で、病が流行ったらしいぞ。
 伝染病で何人も死んだようだ。
 なかには、これ以上被害が広まらないように、
 殺された者もいるらしい。

『カイ』はどうなったのだろう。
それとも、単に
『カイ』は私をからかっただけで
彼の村でいつも通りに過ごしているかもしれない。

どちらにせよ同じ事のような気がした。
きっともう、私が『カイ』に会う事は無いのだろうから。


私の村へ続く道を歩き始める。
今なら馬が出る時間には間に合うだろう。

『カイ』から以前貰った飾りは腕に付ける物で、
男物だからだろうか、私の腕には少し大きい。
いつも、滑り落ちそうになる。
今度会ったら長さを変えてもらおうと思っていたのに。

町はずれの橋に近づくと、見慣れた姿が見えた。
あの人だ。

「―――?」

私が名前を呼ぶと、
あぁ。と手をふって答えた。

「仕事は終わったの?」

私が尋ねると、
彼は頷いてふぅ、と長いため息をついた。

「今回の仕事は疲れた。
 早く村に帰って、ゆっくりしたい」

そうねぇ。と答えながら、私は何気なく後ろを振り返った。

そこにはただ、
夕日にてらされた私達の影が長く長く伸びていた。



   『水辺外伝・カイとヨツバ』完

「水辺外伝・カイとヨツバ」3

2013年12月25日 | 物語「水辺ノ夢」


「私の村に来てみない?」

その日、私は『カイ』にそう言った。

『カイ』は驚いたような表情を一瞬見せて、急に静かになった。

「……そうだな」

とても静かな午後だったと思う。
『カイ』はそれからもしばらく黙りこけて、
なかなか返事をしなかった。

額に手を当ててしばらく唸った後、今度は空を見上げた。
手を胸の前で組んでいたので、
一瞬だけ、神様に祈る時の姿に見えた。

「あぁ、そうだな」

『カイ』はどこか自分に言い聞かせるように、
消え入りそうな声で答えた。

「―――そうしよう」

私は次にこの町に来る日取りを『カイ』に教えた。

私たちの話は
どこまで本当で、どこからが冗談か
自分達でもよく分かってなかった。

それとも『カイ』は
何か目的があったのだろうか。
私たちの村に来て、
やり遂げたい何かが、あったのだろうか。

結局それは聞けなかったけれど。

上手くいったら、
今度は私が『カイ』の村に連れて行って貰おうと思った。
そこに行きたかったかというと
そうでもない。
どんな所かは気になる程度の事。

でも、私が居なくなったら、
あの人は心配するだろうか。

なんて。


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「水辺外伝・カイとヨツバ」2

2013年12月24日 | 物語「水辺ノ夢」


私が装飾品を並べている店の前で立ち止まった時
『カイ』は面倒臭そうに
「何か買うの?」と問いかけてきた。

「これ、これが良いわ」

私は最初に目に止まった物を手にとって『カイ』に見せた。

「そう?……作りも雑だし、止めた方が良いよ」

『カイ』は別に声をひそめる事もなくそう言ったので、
店主が私達の方をチラリと見た。

「でも、こんな作りの物は初めて見たし。
 珍しいからお土産に」
「村で待っている、ヨツバの彼、に?」

私は、頷く。
今頃あの人何しているんだろう。そう考えながら。

そんな私を見ながら少し考えるそぶりを見せた後、
『カイ』は自分の袖口をまくって見せた。
私が買おうとしていた品と
同じ作りの装飾品が じゃらり と揺れた。

「この飾りは、俺達の村の物。
 多分それは模造品かな。出来が悪い」

そうして、自分の腕から一つを外して私にくれた。

「欲しいならヨツバにあげるよ。
 俺はいくつも持っているし」
「でも、私はこれ、彼にあげるかもしれないわ」

だって、お土産だし。そう答えた。

「好きにしたらいいよ」

気にする様子もなく『カイ』は答えた。
そして、私が持っていた模造品の方を奪い取ると、面白そうに笑った。

「これは俺が買って帰ろう
 偽物なんて面白い。逆に良いお土産だ」

どこかイタズラをしようとしている子供のようで
私は、あぁそうか、と思った。

「それは、村で待っている彼女への?」

『カイ』は返事をしなかった。
店主がその土産を包装紙で包んでいたから
私の声は聞こえなかったのかもしれない。

だけど、『カイ』は店主でも私でも、その土産でもなく
どこかずっと遠くの方を見つめていた。


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