TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」194

2017年03月31日 | 物語「水辺ノ夢」

「真都葉」

杏子は、真都葉を呼ぶ。

真都葉は、おもちゃを持ったまま、杏子のもとへとやってくる。

「かあ」
「さあ、おもちゃはどこに片付けるか、わかるかしら?」
「まつばしってるよー」

真都葉は、おもちゃを箱へとしまう。

「よく出来たわね」

母親に褒められ、真都葉は笑顔になる。

「では、次」
「つぎなあにー」
「真都葉のコップはどこでしょう」
「わかるよー」

真都葉は台所へと駆けていく。

「かあ、こっち!」

真都葉は台所の、上の戸棚を指さす。

「あそこね!」
「そう。覚えてるのね」

杏子は、真都葉の頭をなでる。

「もし、お父さんがわからなかったら、教えてあげてね」
「うん!」

杏子が云う。

「いろんなことを、少しずつ覚えましょう」
「はーい!」

「ただいま」

「とう!」

扉を開けて、圭が入ってくる。

「お帰りなさい」
「・・・ただいま」
「おかえぃー!!」
「真都葉もただいま」

「じゃあ、夕食にしましょうか」

杏子は食卓を準備する。

3人で

いつも通り

食事を済ませ。

いつも通り、

真都葉は眠りにつく。

「圭」

静かな居間で、杏子はお茶を淹れる。

「どうぞ」
「・・・ありがとう」

杏子も坐り、真都葉の服を縫う。
次の季節のもの。
少し、大きめのもの。

ふと

圭が何かを取り出す。

「杏子は、」
「・・・・・・?」
「こう云うものを、触ったことはある?」
「え?」

杏子は手を止め、圭が持つものを見る。

刀。
それと、大きめの斧。

「いえ・・・」

杏子は首を振る。

「それは?」
「狩りで使うもの、だ」
「そう、よね・・・」

杏子は息をのむ。

「西一族はどの家にも、これが家にある」

そして

「男女関係なく、扱う」

圭は、杏子を見る。

「杏子、持ってみて」
「私、が?」

杏子は目を見開く。

「慣れないだろうけど、ほら」

杏子は、圭が差し出すそれを見る。
恐る恐る、手を出す。

「どう?」
「・・・・・・」
「杏子?」
「重い、のね」

圭は頷く。



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「水辺ノ夢」193

2017年03月28日 | 物語「水辺ノ夢」

誰かが外を歩いている。
ふと、聞こえた足音に
圭は顔を上げる。

作業小屋には圭が一人。
同じく小屋を使う村人は
圭とは時間をずらしているはずだ。

そうでなければ、
今日の作業はここまでだな、と
圭は様子を見る。

小屋の扉が開く。

「やはり、ここに居たのか圭。
 探していたんだ」
「………悟」

そうかもしれない、
ここ最近、圭は
悟に会わないようにと過ごしてきた。

「あれから、暫く経つが
 どうするつもりだ?」

思っていた通りの問いかけ。

圭はそれを恐れていた。
尋ねているのは杏子の事。

「鳥は、もう居ない。
 仕留めた」
「へぇ」

悟は頷く。

「圭がやったのか、感心だ」

「だから、もう」

もう、関わらないでくれ、
放って置いてくれ、と圭は懇願する。

「俺が独断でこんな話をしているんじゃないと
 分かっているだろう?」

悟の言葉は村人の代弁。

「じゃあ、どうしろと言うんだ。
 杏子を棄てろ?
 家から放り出せという事では無いのだろう」
「分かっているじゃないか」

物分かりが良いのは助かる、と
悟は言う。

「手を下したくないのか?
 まぁ、子どもの母親だしな」

簡単な事だ、と。

「もうあの女はこの村には置いておけない。
 殺せないというのなら
 山に棄ててくれば良い」

「獣が居る中に
 杏子を一人!!?」

「悪い話じゃないと思うぞ。
 殺すより生きる確率は上がる。
 身を守る武器ぐらいは持たせても良い」

「杏子は西一族じゃない、
 狩りなんて出来ない」

何を言っているのか、と
圭は声を上げる。が。

「あまり色々と言うな。
 子どもを見逃しているだけでも
 かなり譲歩していると思うが」

「なっ」

圭は目の前が真っ暗になる。
悟は、村人は、
真都葉さえ殺せと言っているのか?

「あまりお前が動かないようなら
 不満を抱えた村人が
 いつ、何をするか分からないぞ」

「…………そんな」

「東一族を棄てたのならば
 村人も納得する」

待ってくれ、と
圭は必死に弁明する。

「俺達は何もしていない。
 東にも通じていない。
 目に触れるなというなら
 家に籠もって過ごす、俺達は」

その様子に、悟はため息をつく。

「もし、その女が
 生きて帰って来られたら
 その時はもう咎めない、これでどうだ」

圭の返事を聞く前に
悟はそう言って、小屋を去る。



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「水辺ノ夢」192

2017年03月24日 | 物語「水辺ノ夢」

「お帰りなさい」

戻って来た圭と真都葉を、杏子が迎える。

「かあー!」

真都葉はニコニコとして、圭から身を乗り出す。
杏子は、真都葉を抱きかかえる。

「病院はどうだった?」
「せんせーにいろがみあげたのー」
「そう」
「せんせーよろこんでたのー」
「よかったわね」
杏子が笑う。
「先生は、痛い痛いはしたの?」
「してないよー」
「あら、診察はしてないのかしら」
「してないのかしら」

真都葉は杏子の言葉を繰り返し、下へと降りる。

持って帰ってきた色紙を、自分の箱の中に片付ける。
また、別の小道具を取り出す。

杏子は圭に向く。

「圭。高子は何と?」
「ああ、真都葉の怪我は心配ないみたいだ」
「よかったわ」

杏子は、真都葉の寝る支度をする。

「かあ、ごほんよんでー」
「そうね。どのご本にしましょうか」
「まつばこれね」

真都葉は本棚から、いくつか本を取り出す。
圭は、灯りを小さくする。

「さあ、真都葉、隣の部屋に行きましょうね」
「とう、やすみなさい」
「おやすみ、真都葉」

真都葉は手を振る。
圭は居間の椅子に坐ったまま、手を振り返す。

杏子と真都葉は、隣の部屋に行く。

杏子は、真都葉に布団を着せる。

「じゃあ、このご本からね」
「うん」

「昔々、水辺の真ん中には、・・・」

真都葉は本を読んでもらうのが好きだ。
寝る前は、必ず3冊は本を読んでもらう。

「水辺と山には大きな獣がいて、」
「けものこわいねー」
「そう?」
「まつば、みずべもやまもこわいよ」
「人と動物は仲良くなれるのよ」
「なれる?」
「お母さんが昔いたところは、人と動物が仲良しだったのよ」
「ふーん」

「さあ、これでおしまい」

「もいっこ、もってくればよかったー」
「また明日にしましょうね」
「はーい」

真都葉は、杏子を見る。

「かあ」
「なあに?」
「すてるのどうする?」
「え?」
「とうとせんせーが、おはなししてたの」
「真都葉?」
「すてるの、かなしいね・・・」
「真都葉・・・」
「みずべにも、やまにも、かいじゅーいるね」

「・・・・・・」

真都葉は、眠っている。

杏子は、真都葉を見る。
頭をなでる。



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「水辺ノ夢」191

2017年03月21日 | 物語「水辺ノ夢」

「高子の所まで話が来ているのか」

村人に疑心が広まっている。
あれは脅し文句では無かった。

もう、悟達を説得したら解決する話では
無くなっているのかも知れない、と
圭はため息をつく。

「圭」

高子が言う。

「もしかして、
 逃げることを考えている?」

圭は否定もせずに
高子を見つめる。

「……考えているのね」
「1つの手段だと思っている」

現状では、圭にはなんのつても無いが。

「おそらくあなた達は監視されているわ。
 村の警備が強まっている。
 特に湖の付近はかなり厳重よ」

高子は圭に言い聞かせるように言う。

「今、勢いで行動してはダメ。
 失敗したら、どうするの?」

そう言う意味では
西一族のしくみは上手く出来ている。

誰かが裏切る事が無いように。
それと繋がりがある者が
枷の役割をする。

もし失敗したら、
杏子だけではない。
圭も真都葉も殺されるだろう。

南一族の村に居る圭の両親や
兄の湶に至っては、
逃亡が成功しても失敗しても
どういう処分が下されるか分からない。

「湶の事、心配?」
「そういう話はしていないでしょう」
「……ごめん」
「誰か、信頼できる人に相談して、
 杏子にも何が起こっているか伝えるべきよ。
 何も知らないままでは」

は、と圭は薄く笑う。
皮肉気味に。

「杏子に?
 なんて言えばいいんだ」
「圭」
「お前を殺せと言われている、と!?」

「とう?」

「あ」
「真都葉」

真都葉が二人の側にいる。

「とう、ケンカめ、よ」

いつの間にか声が大きくなった圭に
真都葉が言う。

圭は真都葉を抱き上げる。

「ケンカじゃないんだよ。
 ごめんな」

真都葉は出来上がった色紙を高子に差し出す。
高子は表情を切り替えてそれを受け取る。

「せんせー、はい」
「あら、上手に出来たわね、男の子かしら」
「これね、おとも」
「お伴?」
「そう、まつばのともだちよ」

高子は真都葉を抱きかかえる圭を見る。
その手は震えている。

小さな声で、圭に向けて言う。

「そんな話になっているの?」
「棄てろ、と」

高子もため息をつく。

「一人で抱え込まない方がいいわ」

だから、どうすればよい、と
答えが出た訳では無い。

「心配してくれてありがとう」

圭は、診察室を出る。

夜勤なのか、医師見習いの男とすれ違う。
こんばんは、と
彼は声をかけるが、向けられる視線から真都葉を庇うように
圭は足早に病院を立ち去る。



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「水辺ノ夢」190

2017年03月17日 | 物語「水辺ノ夢」

「真都葉行くよ」

また、数日経って。

圭は、出かける準備をする。
怪我の経過を見せに、真都葉を病院に連れて行くのだ。

「真都葉、何か持っていくの?」
「いろがみー!」

真都葉は、手にいろいろと持っている。
持っていくつもりなのだ。

「まあ、そんなに」
「せんせいにみせるのー」

杏子は、真都葉にカバンを持たせる。

「ほら、これに入れて。ね?」
「うん!」

圭は外を見る。

日は落ちようとしている。
辺りには誰もいない。

「さあ、真都葉」
「いってきまーす」

圭は真都葉と手をつなぎ、歩く。

「おそと、くらいねー」
「そうだね」
「おつきさまくるの」
「うん」

真都葉は、久しぶりの外に、うろうろしようとする。

が、
圭は出来るだけ、真都葉を歩かせようとする。

真都葉は、人に見られてはいけない。
急がなければ。

「つかれちゃったよー」
「仕方ないな」

圭は、真都葉を抱き上げ、歩き出す。

足早に病院へと入る。

圭は、高子の診察室へと向かう。
中には、高子しかいない。

「いらっしゃい」
「せんせー!」
「真都葉、怪我はどうかしら?」
「いたくないよー」

云いながら、真都葉は色紙を出す。

「これね、せんせーに」
「あら、何かしら」
「真都葉、診察が先だ」

圭が止めるのも聞かずに、真都葉はどんどん色紙を出す。

「こっちがおはなで、こっちがけーき!」
「真都葉が作ったの?」
「うん!」
「すごいわね」

高子は云いながら、真都葉の診察をする。
その横で、真都葉はおしゃべりを続ける。

「高子、すまない」
「いいのよ」

高子が云う。

「家族以外の人に会う機会が少ないだろうから」
「・・・ああ」
「誰か、ほかの人と接したいんだと思うわ」
「・・・・・・」

「せんせーこれね!」
「真都葉、たくさん作ったのね」
「こっちがへびで、こっちがふうせん!」

「はい終わり!」

てきぱきと高子は、診察を終わらせる。

「もう、大丈夫そうね」
「よかった・・・」
「傷口の痕は、出来るだけ清潔にするようにして」
「わかった」

高子は、真都葉を見る。

「真都葉、新しい色紙は持って来たのかしら?」
「もってきた!」
「何か作ってもらえる?」

その言葉に、真都葉の顔が明るくなる。

「せんせー、ここでつくってもいい?」
真都葉は、机を指さす。
「いいわよ」

真都葉が色紙に夢中になっているのを見て、
高子は圭に向く。

「圭」
「・・・高子?」

「よくない噂を、聞いたのだけど」

「・・・噂?」

「ほら。覚えてる?」

高子の表情は硬い。

「いやな予感がするって、云ったこと」



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