TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」163

2016年11月29日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は透に案内され、
村の作業小屋を訪れる。

「透、ここ」

「まぁ、本格的に稼げる仕事じゃないけれど、
 どうだろうか?」

狩りで仕留めた動物の骨や
鳥の羽根を使って細工物を作る場所。

出来上がった品は村の土産物になる。

「手の込んだ物ほど人気だろう。
 圭はそういうの得意って
 沢子から聞いているから合うと思うんだが」

生活して行くには十分ではないかもしれないが
何か糧になる物があるのはありがたい。

それに、これなら
家に持ち帰り作業をすることも出来る。

「ありがとう。
 透達には本当に助けられてる」

圭が居なくなったこの村で
杏子の事を助けてくれたのは
沢子や透だという。

細かい作業が得意だという
圭の事も
杏子から沢子経由で聞いているのだろう。

「沢子がいつも
 子どもを見に行っているだろう。
 邪魔ばかりしていて悪いな」
「いや、助かるよ。
 杏子も話し相手が必要だ」

そこまで聞いて、
沢子のことでなぜ透が謝るのだ、と
圭は首を傾げる。

「……杏子から、 
 俺達の事、聞いてない?」
「何が」
「俺と沢子、付き合ってるんだけど」

…………。

「そう、だったのか」

気がつかなかった。
全然気がつかなかった。

自分のこういう所はいけないな、と
圭は反省する。

「透もこの仕事、したかったんじゃないのか」
「確かに、
 小遣い稼ぎには割が良いからな」

まぁ、でも、と
透がいう。

「頑張っているやつには
 協力したいと思うだろ」
「透」

ほらほら、と
透が圭の背を押す。

「じゃあ、後は
 前任のやつと、引き継ぎをしてな」

人気の仕事には枠がある。
だから、仕事が回ってきたのは
空きが出来たという事だ。

「そいつ、村を出るんだってさ」

上手くやれよ、と
透が手を振る。

「透、前任って」

圭はため息をつき、小屋の扉を開ける。
村人に疎い圭でも知っている。

細工物に携わっていたのは。

「来たか」

中には広司が居る。

よく考えれば
狩りで班を組む事が多い透なら
広司に話を通すことも出来るだろう。

「話は手短に済ませるぞ」

淡々と、必要最低限で
広司は仕事の内容を圭に伝える。
この調子では二度教えるつもりは無いらしい。

村人には疎まれる事が多いが
またそれとはどこか違う所で
広司とは合わない。
昔から。

「……村を出るのか?」

だが、
圭は問いかける。

広司はどこから聞いた、と
呟いた後に言う。

「ああ、北一族の村に行く」

なぜだろう、と
圭は思う。

広司であれば、
狩りの腕で充分暮らしていける。
圭が逃げるように南一族の村に行ったのとは違う、
自分で選んで、
行きたいから、北一族の村に行く。

「そうか」

「言っておくが」

広司は言う。

「お前以外にも
 狩りが出来ない西一族は居る」
「知っている」
「皆、それでも
 何か生きていく手段を探す」

西一族の村で生きていくために、
他の村人からも認められるために。

「狩りで手足を失った者、
 髪や目が黒い者」

純粋な西一族とは少し違う
毛先が少し黒い広司の髪が揺れる。
それでも、
広司の髪の色で何かを言う者は居ない。
狩りの腕が立ち、何度も功績を挙げている。

「お前は遅すぎる」

ただ、出来ないと立ち尽くすのではなく。
やれば出来たはずだ、と
広司は言う。

「子どもには同じ事を繰り返すな」

広司が北一族に行くというのも
きっと理由がある。
何か考えがあって
圭に役を譲ると言ったのかもしれない。

「後は自分が好きなようにやれ。
 今日はこれで終わりだ」

一通り話し終えると
追い払うように広司は言う。

「じゃあな」

こうなると話は終わりだ。
小屋を出ながら、
入り口付近に積まれた角材に圭は目を止める。

「広司」

圭は言う。

「あの木を少し貰って帰っても良いだろうか」

広司は振り返らずに答える。

「好きにしろ」

広司とはもう会わないかもしれない、と
そう思い圭は言う。

「それじゃあ、
 元気で、広司」


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「水辺ノ夢」162

2016年11月25日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は部屋を行き来して、荷物を片付ける。

杏子は、その様子を見ながら、
先ほど取り込んだ洗濯物をたたむ。

ほとんどが、子どものもの。

杏子は、横で眠る真都葉を見る。
呟く。

「帰って、きたね」

そう、ほんの少し微笑む。

「杏子、」

圭が杏子の横に立つ。

「・・・えっと」
「圭、一息ついて」

杏子は立ち上がり、お茶を淹れる。
圭に差し出す。

「・・・ありがとう」

「家のことはいいの」

圭が云おうとしたことを、杏子はわかっている。

「少し休んで」
「杏子」
「家のことは、明日からでも大丈夫だから」

圭は、杏子の横に坐る。
お茶を手に取る。

「ありがとう」

「いいえ」

杏子は圭を見る。
云う。

「こちらこそ、ありがとう」

杏子は立ち上がり、真都葉に近付く。
真都葉は、旧い椅子に布を敷き、その上に寝かされている。
落ちないように、杏子が工夫している。

「真都葉」

杏子は、真都葉を抱き上げる。
真都葉は目を開いている。

「起きていたんだ」
「ええ」
「すごい・・・」

「え?」

「いや、起きていることに杏子が気付いたこと」

「ああ」

杏子は、真都葉をあやす。

「あの、・・・杏子」

圭は、お茶を置く。

「何?」

「真都葉を、抱いてもいい?」

杏子は頷く。

「もちろん」

杏子は、真都葉を圭に抱かせる。

「ほら、首を」
「こうかな」
「そう」

真都葉は目を見開いているように見える。

「えっと」
「真都葉、よかったわね」

杏子が云うと、真都葉は笑う。

「これからも、たくさん抱っこしてあげてね、圭」



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「水辺ノ夢」161

2016年11月22日 | 物語「水辺ノ夢」

「もう、こんな時間」

もうそろそろ、日が沈む。
肌寒さを感じて
杏子は立ち上がる。

真都葉は眠っている。
今は静かだが
すぐにまた泣き出すだろう。

扉を開け真都葉の様子を見られるようにして
庭に出て、急いで洗濯物を取り込む。

僅かな間だが、
こうやってそばを離れる時も
何か起きるのでは、と
少しも目を離す事が出来ない。

「………」

ドサッと何かが床に落ちる音が聞こえる。

「真都葉!!」

もしかして、真都葉が落ちたのでは、と
慌てて杏子は家の中に駆け戻る。

「真都っ……!!」

真都葉は先程見たときと同じ
静かに眠っている。

今の音は、
荷物が床に落ちた音。

そこに、人が立っている。

「………圭」

圭は、驚いた顔で
杏子と真都葉を見ている。

「え?杏子!!なんで?」

驚いたのか、
圭が大きな声を上げかけたので
杏子は慌てて静かに、と
人差し指を唇に当て
そして、真都葉の方を見る。

「あ、ああ、
 ……ごめん」

落ちた荷物は
圭が持ってきた物だ。
今、帰って来たのだろう。

本当に、

帰って来た。

「杏子、あの」

圭は必要以上に
声を潜めて杏子に話しかける。

余程驚いたのか、
今まで見たことが無いと言うくらい
目を見開いている。

「圭」

圭が病室を尋ねてきた時
自分もこうだったのだろうか。

杏子は言う。

「おかえりなさい」

圭は、思わず言葉を無くす。
それから、
部屋のあちこちを見回し、
杏子がここで暮らし始めたのは
昨日今日の話ではないと知る。

「巧の所に居るんじゃ」

杏子は首を横に振る。

暫く黙り込んでいたが、
絞り出すように圭が尋ねる。

「杏子は、良いのか、……ここで」

杏子は答える。

「ここが、良いわ」


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「水辺ノ夢」160

2016年11月18日 | 物語「水辺ノ夢」

「杏子、入るわね!」

扉を開けて、沢子が家の中へと入ってくる。

「沢子」
「ほら、布を持って来たわ」
「ありがとう」

沢子は、子どもを見る。

「あら、おとなしく起きているわ」
「ええ」

杏子が云う。

「お腹がいっぱいなのね」
「抱いてもいい?」
「もちろん」

杏子は、受け取った布をしまう。
台所へ行き、お茶を運んでくる。

「ああ、真都葉。かわいいわね」

沢子が云う。

「早く、目が見えるようになるといいわねー」
「そうね」
「笑っているみたい」

杏子はお茶を淹れる。

「沢子、よかったら」
「ありがとう」

沢子は、真都葉を抱いたまま、椅子に腰かける。

「本当におとなしいわねー」
「今だけよ」
「泣くの?」
「しょっちゅうね」

「どっち似ているかしら」

沢子は杏子を見る。

「杏子かな?」
「寝顔は圭かしら」

杏子は笑う。

真都葉を受け取り、抱く。
沢子はお茶を飲む。

しばらく、たわいもない話をする。

「あら、こんな時間」

沢子は外を見る。

いつのまにか
真都葉は杏子の腕の中で眠っている。

「長居しちゃったわ」
「いいのよ」
「また来るわね」
「ええ」

沢子は立ち上がり、真都葉の頭をなでる。

「じゃあ、また」

沢子は荷物を抱え、家を後にする。

杏子は、真都葉を寝かせる。

部屋を見渡す。
少しずつ、家の中を片付けているのだ。

ここは、人の家。
あくまでも、留守の家。

けれども、おそらく、この家の住人は戻ってこない。

そう、云っていた。

ひとりを、
圭を、のぞいては。

杏子は再度、真都葉を見る。

片付けをはじめる。
住人の物は、ほとんどない。
部屋の隅の埃を払う。

沢子が運んできてくれるいろんな布を縫い合わせ、
カーテンやクロスを作る。

真都葉が泣きだすと、その世話をする。

そんな日々の繰り返しに

少しずつ

慣れてきている。



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「水辺ノ夢」159

2016年11月15日 | 物語「水辺ノ夢」

「困ったものだわ」

西一族の村の病院で
医師の高子がため息をつく。

「先生、どうしました?」

医師見習いの男がカルテを整理しながら
目線は向けずに尋ねる。

「杏子が、圭の家に居るらしいの」
「・・・・・・あんず」

医師見習いの男は、
少し頭を整理させて言う。

「あの、東一族の女ですね」

「その言い方は止めなさい。
 ウチの患者なのよ」
「気をつけます」

そう返事はするが、
見習いの男に反省の色は見られない。
東一族は西一族と敵対する一族。

村人達の杏子への態度は
今の彼の返答に現れている。

「でも、誰だって東一族は嫌でしょう。
 巧も保った方じゃないですかね」

「そういう風には見えなかったわ」

高子も杏子の事は気にはかかるが
一人だけを集中して見る事は出来ない。
この村の医師は不足している。

「一人っきりなんて。
 圭の家には誰も居ないじゃない」

あぁ、そういえば、と
医師見習いの男が言う。

「先日、圭が来ていましたよ」
「圭が、いつ??」
「東一族の女が退院する
 数日前だと思いますけど」

先生がちょうど
外出されていた時です、と
男が付け足す。

「そういう事は
 ちゃんと報告して!!」

「すみません」

「圭は、杏子に会いに来たのね。
 子どもが生まれた事を
 聞いて来たのかしら」
「いや、まさか生まれているとは知らず
 尋ねて来たとう感じでしたよ」
「それから」
「その日のうちに、南一族の村に
 帰ったそうですよ」

高子はほおづえをつく。

「圭は、戻ってくるかしら」

子どもの顔を見たのならば、と
高子は圭を信じたい。

「どうですかね。
 あそこは母親が強いですから」

それに、と医師見習いは言う。

「帰って来てどうします。
 出て行く前と同じでしょう。
 圭に誰かを養う事が出来るんですかね」

「出来る出来ないの話じゃないの。
 もう、子どもは生まれているのだから、
 どうにかするしかないのよ」

おや、と男が答える。

「先生が一番厳しいな」


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