TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」120

2018年11月30日 | 物語「約束の夜」


おねえさんが席を後にして

京子とチドリは、飲みものを飲む。
ワンドリンクは必須らしい。

「それにしても、谷一族の村なんて・・・」

京子は首を傾げる。

「なぜ、谷一族の村に行くのかしら?」

兄のことを思い浮かべても、
谷一族の村とは、何もつながらない。

「そもそも、それが京子の兄とは限らないぞ」

チドリが云う。

「あくまでも、情報のひとつだ」
「でも・・・」

何かしら、兄に繋がる情報なのかもしれない。

「私、・・・」
「何?」
「行く! 谷一族の村に!!」
「おお」

チドリは頷く。

「京子は兄を見つけたいんだもんな」
「ええ!」
「確かに、それも一理ある」
「そうでしょう」
「だが、」

チドリが云う。

「もう少し、北一族の村でも情報を集めないか」
「え?」
「谷一族の村は遠い」
「でも、」
「北で、もう少し様子を見るのもありだと思う」
「うぅう・・・」

京子は、持っていたグラスを置く。

「そうなのかしら・・・」
「まあ、慌てない、慌てない」

チドリが頷く。

「俺もまだ、切り札はある」
「切り札!?」

京子は、チドリを見る。

「何よそれ! 早く云いなさいよ!」
「だから、慌てない、慌てない」

チドリはにやりと笑う。

「もったいぶっているのね」
「ふふ」
「・・・なるほど。何かを得たければ、何かを(対価交換)」

京子は、ゴクリと飲み込む。

「その・・・切り札とやらの、交換条件は何?」
「やだなぁ、京子」
「私に出来ることなら!!」
「別に、そんな対価を求めてるわけじゃあ」

おもしろいな、と、チドリは笑う。

「まあ、でも。とにかくしばらくは北で、と云うことで」
「切り札があるのなら、仕方ないわね」
「うん。とりあえずは花屋に」
「花屋??」

??ながらも、京子は、ふと、先ほどの情報を思い出す。

「それにしてもさっきの・・・」
「さっきの?」
「谷に向かったって」
「ああ」
京子が云う。
「それが本当にお兄ちゃんなら、早く追いかけたいし」
「そうだよな」

チドリが頷く。

「そこで、いい考えがあるんだが」
「えぇえ?」

どうやら、このチドリ。
情報網も策も侮れないらしい。

「それって、どんな?」

「うん」

チドリは再度、頷く。

「満樹に行ってもらうんだよ」



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「約束の夜」119

2018年11月27日 | 物語「約束の夜」

「がっかり?」
「そう、がっかりした?」

遊郭に通じているというチドリ。
そんな自分をどう思う、と聞かれて。

いや、どうかと言われると。

「………普通?」
「普通!!?」

イエス、と頷く京子。

「特に、がっかりとかは!?」
「無いかなぁ。
 ほら、チドリ仕入れであちこちの店に
 出入りしているって言ってたし」
「そうきたか~」

うーん、と苦笑するチドリ。

「あ、私なにか
 失礼なこと言ってしまったんじゃ」
「大丈夫大丈夫。
 席に戻ろうか」
「そう?
 なら、良いけど」

京子の後を追うチドリに
お店のおねえさんが声をかける。

「チドリ、休憩用のお部屋、
 準備しておいたけどどうする??」
「相変わらず良く気がつく。
 だけど今日は遠慮しておくよ」
「残念ねぇ、それじゃあ次回」
「次があると良いがな」

やれやれ、と
チドリも席に戻る。

「と、言うわけで、
 西一族の耀という人を知らないか」

京子は紙を取り出す。

「こういう顔なのだけど」

「西一族のお客さんは結構来るけれど、
 常連でもなければ
 ひとりひとりの名前や顔は」
「そうよねえ」

「もしかして北一族の格好をしているかも」

「そう言う人は逆に目立つから
 分かると思うのだけど」

「そうなの!?」

京子はチドリに問いかける。

「そうだな、
 他一族の目は誤魔化しやすいが、
 北一族にしてみれば
 自分の一族と西一族の区別は付く」
「えぇえ、お兄ちゃん大丈夫かしら」

裏一族から逃げているなら
もっと、しっかり変装しないと。

「どうしたのお兄さん。
 もしかして逃避行中??」

逃避行。

「………間違ってはいない、かも」

近からずとも遠からず。

「あらぁ」

1人のおねえさんが
そういえば、と話し出す。

「そう言う人いたわよねぇ。
 居場所が知られたから、場所を移すとか」
「ああ、確かに」
「あれ本当だったのねぇ」
「お店に来なくなる
 断り文句だと思っていたわ」

え?と
京子はチドリと顔を見合わせる。

「それ、お兄ちゃん!?」

「申し訳無いけど
 その人かどうかは分からないけど」
「けど!?」

チドリはスッと紙幣を取り出す。

「取っておいてくれ」
「あら、ありがとう」

しっかりと懐にしまい込んで
おねえさんは答える。

「北一族の村は出なければ、と」
「それで、どこに!?」

僅かに屈み、
京子の耳元で彼女はささやく。

「谷一族の村、
 そこに向かうと言っていたわ」




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「約束の夜」118

2018年11月23日 | 物語「約束の夜」

「いらっしゃい」

受付のおねえさんが現れる。

「今日はどうされるのかしら?
 あら、ふふふ。二人で休憩していく?」
「ええっと?
 そうね、休憩です!!」
「京子、違う。
 そういう休憩ではない」

チドリはため息をつきつつ、
カードを出す。

「今日は“おしゃべり”に来たんだ。
 席を準備してくれないか」
「はぁい。
 2名様ご案内」

京子はチドリの後に着いていきながら
辺りを見回す。
煌びやかな雰囲気の店内だが
大騒ぎしている人は居ない。

「こういう所は
 初めて入るわ」
「そう。
 まぁ、折角だから楽しんでいけば」

ここ、結構料理も美味しいから、と
チドリが腰掛け、
京子も続いて座る。

「こんにちは」

と、数人のおねえさんが
飲み物や料理を持って現れる。

「あら、その子、西一族ね。
 チドリが女の子連れてくるなんてめずらしい」
「京子って言うんだ。
 かわいいだろ」
「だからって、からかっちゃダメよ。
 ふふ、京子ちゃん、こんにちは」
「こ、こんにちは」

凄いなぁ。
綺麗な人達だな、と
京子は雰囲気に圧倒される。

満樹やツイナが来たら、
ツイナははしゃぎそうだな、と
思い少し可笑しくなる。

「チドリ、最近どうしていたの?」
「どうも何も」

ふぅん、と、彼女たちの会話を横で聴く。
何だかチドリは通い慣れてる。
もしかして結構な頻度で来ている?

「ところで、京子は人捜しで
 北一族の村に来ていて―――」

ふと、チドリの言葉にハッとする。

「待って!!
 ちょっと、ストップ!!」
「「「!??」」」

京子はチドリをひっぱり
席を離れる。

「???
 どうしたんだ、京子。
 兄を捜しているのだろう」

「そうだけど」

分かっている。
チドリは情報を仕入れようとしてくれている。

けれど。

「けど?」
「あの」
「うん?」

「お兄ちゃんがこう、
 もし、このお店に通ってましたよ~って情報なら
 ちょっと心の準備が必要というか」

「そこ!?」
「そこよ」
「耀だって男だぞ」
「分かってるわよ!!」

でも、そこは大事だもの、と京子は言う。

「じゃあ、聞くの止めとく?」
「うああ」

暫く一人で自問自答して
京子は深呼吸する。

「情報は聞いておきたい。
 もう大丈夫。うん。
 なんであれお兄ちゃんはお兄ちゃん」

よし、戻りましょ、と
気合いを入れ直した京子とは反対に
チドリはその場に留まる。

「チドリ?」

「なぁ、それなら
 俺はこういう店に通い慣れてる訳だけど」

なんだかとても距離が近い。

「がっかりした?」


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「約束の夜」117

2018年11月20日 | 物語「約束の夜」

「…………」
「…………」

北一族の通りを歩く、京子とチドリ。
の、目の前には。

「………遊郭」
「そうだね」

市場の街として栄える北一族の村。
各一族があちこちから集い、
時には長期に渡り滞在する場所には
こういう所もある。

「こっちの遊郭は会員制。
 上品なお客が多く、お値段もそれなり」

建物の造りも品があり、
入り口からして落ち着いた雰囲気。

通路を挟んで反対側。

「あちらは、まぁ、うん。
 見ての通り」

ギャンギャンライトが光っているし
建物のカラーが原色。
客引きのおねぇさん達も
あはんうふんな感じを醸し出している。

各種お客のニーズに合わせて
多種多様に広がる
北一族の遊郭ビジネス。

「まぁ、北一族の村にしか無い
 って訳でも無いけど」

と、チドリ。

「ええっと、そう、ね」

なんとなく、固まってしまう京子を前に
悪かった、とチドリが謝る。

「こういう所には
 行かないように言われてただろ」
「……ごめん。聞こえていたのね」
「俺も京子の嫌なことはしたくないし。
 他を当たろう」

表通りの商店とかに、と
言いながら少し残念そうにチドリ。

「本当は、こういう所が
 一番情報が集まるのだけど」
「そうなの!?
 いや、そうよね、満樹も確かにそんな事を」

す、と真面目な顔になるチドリ。

「また満樹の話だね」
「え?」
「………2人は恋人同士ではないって聞いたけど」

もしかして、
そういう関係?と首を捻るチドリ。

「違うわよ!!!
 満樹にはちゃんと恋人がいるのだから!!
 私達は!!旅の!!仲間!!」
「うん、満樹もそう言ってた」
「だったら変なこと聞かないでよ」

もーう、と慌てた京子に
チドリは言う。

「でも、そう思っているの
 満樹だけかもしれないじゃないか」
「えぇ?」
「京子はどうなの?
 満樹のこと、どう思ってる?」
「…………」
「本当は、気になってる?」

「………ただの、旅の仲間よ」

「それなら、これ以上聞かないけど、
 東一族と西一族の男女だろ。
 一緒に歩いていると、そういう目で見る人は多いと思うよ」
「………」
「………えっと」

変な空気にしちゃったな、と
チドリが謝り、話しを戻す。

「表通りで出ない情報は
 裏通りにしか無いのだけど、
 遊郭は、今度、俺が聞き込みをしておくよ」
「チドリ」
「結構歩いたよね。
 観光客に人気のカフェがあるのだけど、
 そこで少し休憩を」

むむむ、と
京子が立ち止まり頷く。

「行くわ!!」

「………ん!?」

「遊郭に、行くわ!!」

「え?」
「もしかして、男性限定なのかしら!?」
「いや、そういうことは無いというか、
 男性向けのサービスの他に
 若い男女カップルが一夜を………あ、いやいや」
「???」
「行くなと言われていたんじゃ」

「でもここでしか
 情報が手に入らないなら」

兄の耀の新しい情報が聞けるかも知れない。
それに裏一族の事も。

「チドリは私の嫌がることは
 しないのでしょう」

なら大丈夫よ!!と
ずんずん進んでいく京子。

「情報入手度合いとお財布的には
 どのお店が良いのかしら!?」

おおっと、と
京子の後を追いながらチドリが言う。

「京子!!
 男の、何もしないから大丈夫は
 あんまり信用しない方がいいぞ!!!!!」


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「約束の夜」116

2018年11月16日 | 物語「約束の夜」


「ありがとう、ツイナ」

「うん!」

ドキドキグルグルのツイナ。
本当に大丈夫なのか、それ!
病み上がりなのか、毒なのか。

「俺、あんまり花は詳しくないけど、喜んでもらえたのなら!」
「ふふ。ジギトキシンね!」

与篠がうれしそうに云う。

「大切にするわ」
「よかったよ~」
「あらあら。あなたにも、少し分けてあげるわね」
「ええ?」
「葉っぱをほんの少しね」
「それは、どうなる?」
「うふふふ」

与篠は口元を抑える。

「ミキサーにかえてね。苦みが気になるときはリンゴとか一緒に入れて」
「健康青汁的な!」
「・・・・・・」
「ね!」
「判った、与篠の云う通りに!!」

「いやいや、云う通りに、じゃないし!」

やっとのことで、満樹がツッコむ。

本当にもう、何から突っ込んでいいのか。

「山と海は、敵対だろう!?」
「満樹、それ何回目?」
ツイナが笑う。
「花の渡し合いとか、おかしいし!」
「うふふ」
「ツイナ、それ。ジキタリス(花の名まえ)、だからな!」
「ええー??」
「ジキトキシンは、ジキタリスが持つ成分名だ!」
「えぇえ~??」
「うふふ」

トキシン=生物毒
ジキトキシン=強心配糖体

真似したら、絶対ダメ!!

「とにかく、京子とチドリを探そう!」
「あっ、そうだったね!」
「京子が心配だからな」
「あら!」

与篠は満樹をのぞき込む。

「それって、いいのかしら?」

え、どう云うこと??

「なんだか、おふたりでいい雰囲気だったら、悪くない?」

そうよねー? と、与篠はツイナを見る。

「俺は、平気だよ!」
「何がっ」

おいっ、と、満樹。

「よくはないんだが、いい雰囲気への気遣いも大事!」

この場合、どっちを優先するべきなのか。

「ふふ。面白い人」

与篠は満樹の手をがしっと掴む。

「こんなにいろんな一族の、楽しい人たちに会えるなんて!」
「ええ、ちょっとー!」

なぜだか、その上に、ツイナも手を重ねる。

「私たち、きっと縁があって巡り合ったんだわ!」
「うん!」
「ほら、水辺童話にもあるでしょう」
「水辺童話って、」

「各一族から選ばれし8人が、世界(水辺)の平和を守るのよ!」

「知ってるそれ!」
「知ってる、けど」

この世界では有名な童話です。

「ほら、伝説のハエ叩きを探すのよ!」
「そうそう! 確か、それを受け継ぐのは海一族と云う伝えだよ!」

ツイナ、胸を張る。

「そして、水辺に住む伝説の聖獣(?)ギャーズンド、」
「もう終わりー!!」

「ええ~!?」
「つまらないわ、満樹!」

満樹のストップに、ツイナと与篠は、ほっぺを膨らませる。

「いったん放そう、この手!!」

「いいえ!」

放さない、与篠。

絶妙に手を取り合う、この3人を
北一族の通りを歩く人々が、じろじろ見ながら通り過ぎる。

「いや、もう、本当にっ!」

恥ずかしいのだけど!

「じゃあ、認めて。私たちは縁で出会ったって!」
「そうだよ、満樹!」
「あと、メンバー的に足りない一族は?」
「えーっと、谷と砂?」
「じゃあ砂一族の村へと急ぎましょう!!」
「谷一族は!?」

南一族も忘れているよ。

「このまま3人で砂一族の村へ向かいましょう♪」
「長旅になりそうだね!」
「毒にしか興味ない笑顔・・・」
「だって、満樹」

与篠は満樹にグイっと近付く。

「うっ!」
「与篠!」

それを見て、慌てて、ツイナも近づく。

大接近、3人。

「私は山一族なのよぅ」
「いや、・・・近いし」
「西のお嬢さんとは合わないの、判っているでしょう?」
「あ、そう・・・」
「満樹だって、西のお嬢さんと一緒はまずいんじゃない?」
「まあ、それは」

確かに、ごもっとも。

東と西。
山と西。
海と山。

とにかく、隣接する一族は、仲が悪い。

「いや、でも、砂か・・・」

東と砂も、ダメ。

しかも、今のところ、砂一族で裏の情報が得られる可能性は
低い。

「さあ、準備しましょう!」

与篠はお構いなしだ。

大接近3人。

ところで

本日
地球歴2018年11月16日
月と火星が大接近ー!!

夜空を見てみよう☆



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