TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」219

2020年04月28日 | 物語「約束の夜」

きっと、私を探していたんだわ。

なんて

先ほどの「誰だっけ?」の台詞を忘れ
ナタは、都合がいいように解釈する。

一晩でもいいんだけど、
運命の人、とかも、いいんじゃない?

ナタはニヤニヤする。

「あのさ」
「何?」
「砂一族って、みんなそうなの?」
「えっ、何の話?」

「そのニヤニヤとか」

「笑顔よ、笑顔!」

「ふぅん」

しばらくして、ナタは起き上がる。

「ねぇ、このまま砂一族の村にいたらいいんじゃない?」
「そう?」
「あんた、いい男だし」
「俺が他一族の諜報員とか思わないのか?」
「だったら何なのよ」

砂一族の刑を受けるぐらいだろう。

「だって、観光とかじゃないでしょ?」
「・・・・・・」
「どう?」
「するどいな」
「だから、ここにいたらって云ってるの」
「俺は、何かを求めて旅してる感じ?」
「当たってるでしょ?」
ナタは云う。
「ここに、あなたが探すものがあるわ」
「俺が何を探しているか、知ってる?」
「どうせ、居場所、でしょ」
「そうだな」

彼は遠くを見る。
窓から夜空が見える。

「ここは、星がきれいだ」
「ええ」
「どこよりも」
「ほかの場所は知らないわ」
「空に、あんなにたくさんの星があって」
「・・・・・・?」
「ほしいものは見つかるだろうか」
「何それ」
「見つけたいもの」
「目印を付けたら、いいんじゃない?」

彼は笑う。

手を出す。

「ほら」
「何?」
「手のひらのアザ」
「うん」

ナタはそのアザを見る。

「ケガをしたの?」
「いや、違う。俺の目印だ」
「あら、判りやすい」

「これまで生まれた子どもも、みんな、このアザがある」

「そう」

ナタは云う。

「何? 子だくさんなの?」

「さあ、どうかな」

「どう云うこと?」

「母親たちに、任せっぱなしだからだよ」

「ふうん」

ナタは、ツバサにまとわりつく。

「私が産む子も、アザがあるのかしら」
「あると思うよ」
「目印とかいいから、この村にいてよ」
「どうしようかな」

ツバサは呟く。

「他にやることもあるしな」

ナタは、首を傾げる。

やがて

ナタに子どもが出来たと判ったころ。
彼は、砂一族の村から姿を消した。

「あーあ、いい男だったのになぁ」

自身のお腹をさすり、その子に云う。

「あんたも、いい男になるんだよ」




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「約束の夜」218

2020年04月24日 | 物語「約束の夜」
今日の洗濯当番。

日が傾き、干した洗濯を取る。
適当に畳む。

所定の場所に置いておけば、必要な者が各自取りに来る。

ナタはやれやれと、洗濯物を置く。
今日の当番はおわりだ。

「お疲れー」
「じゃあ、また明日」

手を挙げて、ナタは訊く。

「今日はどこに泊まる?」
「あ~、あいつのところかな」
「ふぅん」

持ち家もあるんだか、ないんだか。
皆、適当に夜を過ごす。

「そいつ、見張り当番じゃなかった?」
「当番交代じゃない? どこかにいるよ」
「そっかー」

一緒に泊まろうと思ったが、別の者のところに行くなら、悪い。
遠慮しないと。

「じゃあね」
「はーい」

ナタはひとり、歩き出す。

ポツポツと人通り。
どこに泊まろうか。
意外と最近、友だちは組み合わせが出来ている。

「あーあ」

本当に人通りがなくなって、ナタは伸びをする。
ひとりで、朝まで過ごすのも淋しい。

「あれ?」

ナタは、誰かに気付く。

知ってる。

この前の

「ねぇ!」

ナタは走り寄る。

「まだ、砂一族の村にいたのね!」
「ああ」

いわゆる、一晩の彼、だ。

彼は首を傾げる。

「えっと、・・・会ったことあった?」
「はぁ、もう忘れちゃったの?」

私よ、私!
と、ナタは云うが、彼はいまいち、ピンときていないようだ。

「まあ、いいわ」
ナタは云う。
「今夜も一緒にどう?」
「いいよ」
「なら行きましょう。どこか空いているわ」

彼の手を引き、ナタは泊まる場所を探す。

「また会えるなんて、ね!」
「そうだな」
「ねぇ、他一族さん。あなた、どこの一族?」

その言葉に彼は笑う。

「一族? まずは名まえじゃなく?」

あはは、と、ナタも笑う。

「どの一族の人、なんて、悪い癖ね」
ナタは改めて訊く。
「名まえは何?」

「翼、だよ」

「そう、ツバサ」

ナタは頷く。

「で、何一族なの?」
「西一族だ」
「西!?」

西一族と云えば、砂漠の遥か先の
水辺のさらに先の

遠い遠い一族ではないですか。

「め、珍しい・・・」

云いながら
いけないいけない、と、ナタは口元を拭う。

「ねぇ、ツバサ。今夜も相手してよね」
「恋人はいないのか?」
「今はツバサが恋人」

ナタは、ツバサの腕をとり、にこりとする。





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「約束の夜」217

2020年04月21日 | 物語「約束の夜」
水辺から遠く、離れた土地。

広大な砂漠が広がる。

乏しい、緑。
渇き。

そこに住むのは、砂一族。

水辺周辺に住む8一族の中でも、文化が特殊な一族。

好戦的で
薬作りが大好きで
家族感、価値観が独特で

そして

そして

「食事取りに行こうよー!!」

知り合いに呼ばれ、ナタは手を上げる。

「今行くー!!」

当番の、洗濯物を放り出す。
食事が終わったら、またやればいい。

「時間遅くない?」
「間に合うよ」
「食事当番、ちゃんとやってるかなぁ」
「やってるでしょ。長が食事はちゃんとやれって云ってたし」

薬という名の毒が、うっかり入っていることが多い。

他一族なら、それですぐに中毒を起こしてしまうだろう。
けれども
砂一族は毒、もとい薬は日常茶判事。

悪くて、ちょっとお腹が緩くなるぐらい。

ふたりは、食事の場所でお腹を満たす。

砂一族は、生活、を、家庭では行わない。
食事、洗濯など、当番制で
一族の分をまとめてやる。

そもそも、家庭の概念がない。

ともに暮らすのは、幼い間母親とのみ。
父親、は、ほぼ、誰だかわからない。
互いがきょうだいであることも、把握していなかったり。

そう云う一族なのである。

「で、なんだっけ。さっきの話」
「だからさ、いい男がいてさ」

食事を頬張りながら、ナタは云う。

「誰よ」
「それがさ~、わっかんないんだよね~」
「そんなことある?」
「つまり、他一族?」

云いながら、自分で首を傾げる。

「でも、いいのよ~、いい男だったし」
「まだ、どこかにいるのかしら?」
「さあ?」

一夜の見知らぬ男だろうと、何だろうと
基本、他人に興味はない。

「聞いといてよ」
「何を?」
「どこの一族なのか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それ、実験!!!」

ふたりは、笑う。
いや、普通は笑えない。

他一族で、自分オリジナルブレンド(毒)を
すぐに試したくなるのも、砂一族の性。

まぁ、それもいいかもね、なんて
ナタは云うものの、

また、会えるなんて
思ってもいなかった。




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「約束の夜」216

2020年04月17日 | 物語「約束の夜」
生まれたばかりの赤子を抱えて
シズクは司祭に告げる。

「この子の名前は、ユウト」

他の誰にも言わないけれど、と
シズクは言う。

「ユウヤの子どもだったらなぁ、って」

そうだったら、と
願って彼女だけが呼ぶ名前。

「でも、ほら」

シズクはユウトの手のひらを触る。

「違ったみたい。
 このアザ、同じだもの、あいつと同じ」
「シズク」

司祭はそれが誰とは尋ねない。

多分聞かれても
よく分からない。

忘れたいのだろうか
シズクにはその時の事が
断片的にしか思い出せない。

覚えているのは
手のひらのアザ。

シズクはその子の手のひらをそっと握る。

静かに呼吸を整えて、
目を閉じて、それでも見える物は何も無い。

自分に関係のある者は視る事が出来ない。

けれど分かる。
分からないけれど分かる。

「この子も、先視になるのね」

「………」

「普通の海一族として
 生まれてくれたら良かったけれど」

「シズクの力を
 強く引いていると言うことだ」

司祭になるべき者は
本名では無い、仮の名前を使う。

本当の名前が隠された裏の名前ならば
それは表の名。

本当ではないけれど
その者の性質を示す名前。

「この子の表の名はね、ツイナ」
「ツイナ?」

厄を祓うという言葉に
同じ響きの物がある。

シズクは首を振る。

「違うけれど、
 同じ響きの言葉はちゃんと意味がある。
 大丈夫よ、この子は」

そう、彼女は願う。

先視の力は自分には働かない。
何でも見通すことが出来る彼女は
自分の事は何も分からない。

「ツイナ………対名。
 この子は二つ名前があるの」

「もう一つ名前があるの。
 子どもが生まれたら
 その名前を付けろって、あいつが言っていた」

それはおぼろげに覚えている。

もちろんその名前を呼ぶつもりは無いけれど、
その子に、と、与えられた物。

与えられた以上は
もうその子の物。

捨てるも拾うもその子次第。

「いつか、きっと
 それを選ばないといけない日が来るんだわ」

先視はお互いに未来を見る事は出来ない。

だから、これは
母親からその子への願い。


「どうか、選んだその先が
 しあわせでありますように」



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「約束の夜」215

2020年04月14日 | 物語「約束の夜」
「お前、子どもができたな」

ユウヤがシズクに言う。

「あ、そう、その」
「誰の子だ」
「………え?」
「どこのどいつだ、
 言ってみろ」

「そんな、なんてこと言うの。
 この子はユウヤとの」

「ふざけるな!!」

ユウヤはテーブルを叩く。

「他の奴とそんな関係だったのか?」
「違う違う」

シズクは首を振る。

「ああ、そうだよな。
 俺よりそいつは優しかったろうよ」

「………そんな事言わないで」

ユウヤのことが見れないまま
シズクは肩を震わせる。

「お願い、信じて。
 この子はユウヤとの」

「………頭を冷やしてくる」

「待って、ユウ」

出て行こうとするユウヤの手を
縋るように掴む。

「え?」

一瞬。

黒い影のような物が脳裏を横切る。
今までも何度か見たことがある。

「あ」

「なんだ?」

「行かないで、行っちゃダメ。
 ユウヤお願い。
 今日はここにいて」

「離してくれ、一人になりたいんだ」

「あ、でも、今日は、
 本当にお願い」

先視の決まり。
人の死期は見えても言ってはいけない。

なんで、こんな時に。

「このままだと、良くない事が。
 ユウヤにそういうのが、見えて」

「は」

ユウヤが呆れたように笑う。
今まで酷いことは何度も言われたけれど、
こんな顔を見せたのは初めてだ。

本当に、見下して、見果てたように。

「そこまでして、
 俺を引き留めたいのかよ」

強く腕を払うと
ユウヤはそのまま家を出て行く。

「ま、待ってユウヤ、本当なの」

行かないで。

シズクも後を追いかけるが
すでに、ユウヤの姿は見えない。

「ユウヤ!!」

追いかける。港だろうか。
それとも
自分の家だろうか。

あちこち歩き回るけれど
ユウヤの姿は見えない。

シズクは座り込む。

いつものように走れない。
気分が優れない。吐き気を感じる。

「ユウヤ」

急いで彼を追いかけないといけないのに。

目の前が真っ暗になる。

自分は、何か間違えたのだろう。
でも、
どこで間違えたのだろう。
何がいけなかったのだろう。

先視の力。
凄いねって皆が褒めてくれた。

今までの中でも
特別に力が強い、とも。

嬉しかった。
皆の役に立っているのだって。

それでも。

本当に必要な時に
どうして役に立たないのだろう。

自分の事は見れない。
他人の先視でも
自分に関係のあることは見えない。

例えば、恋人とか。

でも、ユウヤの未来が見えてしまった。

彼の未来とシズクの未来は
なんの関係も無いという事。

「………」

「シズク」
「………」
「シズク、ああ、良かった目が覚めたか」

声を掛けられ瞼を開ける。

「司祭様?」

見慣れない、ベッドに寝かされている。
ここは司祭の家だろうか。

「見回りの者が見つけてね。
 具合が悪いのに、あちこち歩き回っていたのだって?」

「………」

「シズク。
 後から聞くだろうから、私から話しておこう」

落ち着いて聴きなさい。
手を握る司祭の指先は冷え切っている。

「ユウヤの舟が戻らないんだ」

他の者が舟を出して居るんだが、
司祭の言葉が右から左に抜けていく。

「気をしっかり持ちなさい」

ああ、

「シズク!!」

「分かっています」

静かに、ただ、静かに
シズクは涙を流す。

「ユウヤは、海に召されたのね」


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