TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」17

2017年09月12日 | 物語「約束の夜」


夜の北一族の村は華やかだが
その分危ない場所も多い。
京子達は宿で夕飯を取る事にする。

「一年もすると
 手がかりは、全くないわね」

自然と話しは、
探している耀の事になる。

「あ、って思う人は居たのだけど。
 似ている他人だったわ」

京子は昼間の出来事を話す。

「ごめんなさい」

美和子が言う。

「私が期待させるような事を言ったから」
「ん?」
「似た人を見たって。
 もしかしてその人だったかも」
「あ、え。
 違うの違うの。
 そんな意味で言ったんじゃないのよ!!」

しまった。
話題選びを間違えた、と
私のバカ、と京子は唸る。

なんだか、合流してから
美和子の元気がないような気がするのに
追い打ちをかけるような事を。

「……ねぇ、美和子。
 買い物は出来た?」

京子は問いかける。

合流した時、
美和子は手ぶらだった。

「あまり良い物が無かっただけ。
 見て回るだけも
 結構楽しいわよ」

違う。

きっと、買い物などせず、
耀を探してくれていたのだ。

時々狩りの班が同じになるくらいで
あまり接点は無かったけれど
本当に良くしてくれている。

今日も耀が見つからなかった事を
京子以上に気に病んでくれている。

「………」

ふと何かが引っかかる。

京子が強引だった事もあるが
ただの顔見知りにしては
あまりにも協力的すぎないだろうか。

なにか、理由が。

「!!!!」

そして、ひらめく。

「ねぇ、美和子、
 違ったら申し訳ないんだけれど」
「なに?
 勿体ぶってないで、どうぞ」

あの、ね、と
京子は思い切る。


「もしかして、美和子。
 お兄ちゃんの事、好き、とか?」


ガシャーン、と
美和子が持っていたスプーンを落とす。

「あ、ちょっと、大丈夫美和子!?」
「大丈夫。大丈夫。
 まったくもって大丈夫よ」
「顔赤いわよ!」
「赤くない」

これは、と
確信の笑顔を浮かべ、
京子は美和子に迫る。

「ねぇ、お兄ちゃんの
 どこら辺がタイプ?
 具体的に!?ねぇ?どこ??」

違うったら、と
美和子が言う。

「普段は物腰柔らかなのに
 狩りの時だけ見せる
 鋭い眼差しが好きとか
 全然そんなんじゃないんだからーーー!!」

今日一番の大声が
宿中に響く。




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「約束の夜」16

2017年09月08日 | 物語「約束の夜」

満樹と戒院は、北の外れに出る。

「務めの手がかりはあったのか」
「いや」

満樹は振り返り、歩いてきた通りを見る。
時間のある限り北の村を回ったが、これと云った情報はない。
日はすでに落ち、月が出ている。

「時間切れかー」

戒院は息を吐く。

辺りには、誰もいない。

「俺は東に戻る。お前は?」
「・・・・・・」
「大将には何と云われているんだ?」
「それは・・・」

成果がなかったので、満樹は谷一族の村へと向かいたかった。
けれども、
大将からは、北で情報収集後、東に戻るようにと云わている。

「満樹。俺は明日、実習日だから」
「なら帰れ」
「お前も帰ろうって」
「ひとりで帰れないのか」
「そう云うことじゃなく」

満樹は、戒院を見る。

うーん、と、考えるように戒院は頭をかく。

まさか

「俺、満樹と東に戻るよう云われているんだよ」
「・・・やっぱり」

何だよ、と、満樹は呟く。

「大将もお前のことを心配しているからな」
「も?」
「あと、お前の父親」
「・・・・・・」
「な?」
「いったい、何を心配しているんだ」
「それは知らねぇよ」

戒院は帰るよう、満樹を促す。

「ほら」
「・・・・・・」
「満樹」
「・・・・・・」
「満樹!」
「待て」

満樹はあたりを見る。
辺りには誰もいない、はず。

月夜。

「誰だ」

満樹は声を出す。

どこからともなく、人。
ひとり、ふたり、・・・

「何だよ・・・」

戒院も、声を出す。

全部で5人。

ひとりは、

「お前昼間の!」

思わず、戒院は指を差す。

昼間
西の女からバックを盗んでいた者。

「うん。ああ、無事だったんだ」

「俺たちが何をしに来たか、判るか」
「さあ?」
「敵討ちだよ」
「は?」

戒院が云う。

「怪我しない程度にしてやっただろ」
「俺がな」

満樹は口を挟む。
放った矢には、矢じりはなかった。
ただ、当たっただけ。

そもそも、他人のバックを盗んだやつなのだ。

これは、云いがかり。

「思い知らせてやる」
「思い、知らせる?」
「俺たちが誰だか知っているのか」
「知らない」

「裏一族、だよ」

満樹と戒院は顔を見合わせる。

「裏?」
「一族・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「どうだ。謝るなら、」

「ぷっ、」

満樹と戒院は声を出して笑う。

「そんな判りやすい裏がいるかよ!」
「裏があの程度の盗みをするのか」

「・・・っ!」
「お前らっ!!」

戒院は笑いが止まらない。

「東をやっちまえ!」



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「約束の夜」15

2017年09月05日 | 物語「約束の夜」


「驚いた」

各一族が集まるというこの村では
本当にいろんな事がある。
まるで嵐のようだった。

東一族。

この村で見かける事は何度もあったが
あんなに近い距離で話し、
助けて貰う事になるとは。

「まき」

1人はそんな名前で呼ばれていた。
確か、矢を射た方。

あの人混みの中、
あそこまで正確に矢を射る事が出来るのは
西一族でも片手で数えるほど。

「そういえば
 お礼言ってない」

西一族は失礼なやつだ、と
思われなかっただろうか。

今度会う事があれば。

「……それは、無いか」

東一族は西一族が敵対している一族のひとつ。

今は冷戦状態で落ち着いているが
京子の祖父母の時代には
大きな争いも起きている。

お互い、接触を避けているのだから
同じ人とまた会うなんて
とてつもない奇跡だ。

転んだ時の服の汚れを払いながら
待ち合わせの場所に戻る。

「ふふっ。
 なんて話そう」

先程の出来事を思い出しながら
京子は吹き出す。
あんなハラハラした事はそう起こらない。
大冒険をした気分だ。

「美和子、驚くだろうな」

「私がなんだって!?」
「おわ!!美和子!!」

待ち合わせ場所に立っていた美和子に
ぶつかりそうになりながら
京子は立ち止まる。

「凄いのよ美和子。
 あのね、実は」

「耀、見つかったの!?」

「………あ」

急に申し訳ない気分になって
えーっと、と京子は尻込みする。

何しに来ていたのか忘れたつもりじゃない。
けれど、
少し浮かれていたかも知れない。

「見つからなかったわ」
「そう、私の方もよ」
「いいのよ。
 空振りはもう何回もだから」

京子は美和子の手を引く。

「夕飯は、何を食べようか?
 美和子は北一族の
 豆乳料理とか平気!?」

2人はそのまま宿へ向かう。

さっきの出来事は
話す雰囲気では無い気がして
このまま誰にも話さず秘めておこう、と
京子は、そう、思った。



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「約束の夜」14

2017年09月01日 | 物語「約束の夜」

「おい」

走り出そうとする京子を、誰かが制止する。

「勢いで追いかけるなよ」
「いやいや、でも!」

京子の視線の先は変わらない。
盗人の姿は遠くなっていく。
バックを取り返さないと、西に帰られない。

「私の大切なっ」

「俺たちが取り返してやるよ」
「急がないとっ!」

「まあ、待てって。な、満樹」
「仕方ない」

他一族の村内では、武器や魔法の使用は控えるよう云われているが。

京子は、そこで、はじめて
自分を静止した者たちを、見る。

・・・東、一族?

満樹は弓を出す。
それと、矢。

「ちょっ!? 危ないでしょ、それ!」

満樹は矢じりを外す。

矢を構える。

人通りの多い中、盗人は走り続ける。

「無関係の通行人に当てたら、」
「当てたら?」
「宗主様の尋問だ」

戒院の言葉に、満樹は笑う。

「当てないって」

満樹の手から、矢が離れる。

わああぁあ!?
ええぇええ!!?

人々の悲鳴。

矢は

行きかう多くの人々の間をすり抜け

走る

盗人の背中へ。

「ぐっっ!?」

盗人は

――倒れる。

「・・・!!」
「な?」
「さすが」

歓声。

「おい。盗人が倒れたぞ!」
「取り押さえろ!」

「私のバック!!」

京子は走り出す。

「返しなさいよ!!」

そこに、多くの人々が集まっている。
気絶している盗人から、京子がバックを取り上げる。

「本当に、油断も隙もない!」
「よかったなぁ、嬢ちゃん」
「北の大通りで盗みを働くとは!」
「許さんぞ!」

盗人は、北の商人たちにどこかへと連れられて行く。

京子は息を吐く。

これで一安心、と。

「いやぁ、しかし、東のもんはすごいなぁ」
「西の嬢ちゃんでも助けてやるとは」
「めずらしいことだ!」

気付けば、集まっていた人々は、いない。

北一族の、いつもの大通りの風景。

「・・・あれ?」

東一族の姿も、もはや、ない。



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