TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」31

2017年11月28日 | 物語「約束の夜」

「落ち着いたか?」
「えぇ、なんとか」

宿の部屋に
2人は荷物を下ろす。

「さすがにここまでは
 襲ってこないだろう」
「……何だったのかしら、
 あの人達」

「恐らくだが、裏一族」

その言葉に京子は顔を青くする。

「裏一族に恨みを買うような事なんて
 していないわよ」
「俺も、心当たりはない」

先程の彼らの言葉を思い出す。

「俺達二人をつけているといっていた。
 あれはどう言う意味だろう」

満樹は首を捻る。

「一族も、性別も何もかも違う。
 南一族に足を踏み入れた
 村人を狙っているのか?」
「もしかして、美和子も襲われたんじゃ」

どうしよう、と
動揺する京子に満樹は言う。

「気持ちは分かるが、
 今から探しに出るのは止めた方がよい」
「でも」
「そうだとはっきりした訳じゃない。
 まずは自分の身を護れ」

あ、う、と
暫く口ごもったあと、
京子は頷く。

「分かった。
 でも、明日は朝一で探しに行く」
「それがいいだろう。
 俺達が狙われた理由も
 分かっていないのだから」

ありがとう、と
京子は礼を言う。

「私達が狙われた、理由か」
「共通点でも分かれば」
「………」
「京子?」
「……ねぇ」

京子は顔を上げる。
視線は満樹の右手。

「そのアザ、どうしたの?」

言われて満樹は自分の掌を見る。
親指の付け根にある赤いアザ。

「これか、
 元々付いていた物だ」

ケガしたのかと心配しているのだろうか。
安心させようとして答えた言葉に
京子は更に考え込む。

「見て」

京子は手袋を外す。
いつも狩りの時に付けている
指先が出ているお気に入りの手袋。

その掌に、
同じ形のアザが付いている。

「そのアザ、私にもあるの」

いや、と
驚きながらも満樹は答える。

「偶然だろ」

そのアザは
何かの模様をかたどるように浮き出ている。

「このアザ。
 お兄ちゃんにもあったのよ」

「兄?」

暫く話しを聞き、満樹はため息をつく。

「失踪した兄、か」
「ええ。
 私達お兄ちゃんを捜しに来ていたの」
「今の所、共通点はこのアザか。
 それだけでは何とも言えないな」
「そうよね、ーーーっくしょい!!
 あ、ごめんごめん」

京子は鼻水をすする。

雨に濡れて体が冷えている上に
混乱することが続いている。
京子の顔色は良くない。

「今日はとりあえず
 風呂に入って休もう。
 あとは、また明日」



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「約束の夜」30

2017年11月24日 | 物語「約束の夜」

雨の中。

京子に背を向ける形で、満樹が立っている。

そして

その先に

誰かがいる。
ふたり。

姿がよく見えない。
闇に紛れるような

そんな恰好をしている。

「満樹・・・?」

一歩踏み出そうとする京子を、静止するように
満樹が後ろ目で見る。

「動くな」

「え・・・??」

京子は状況がわからない。
けれども
けして、いい雰囲気ではない。

「えっと、」
「ずっと後をつけられていた」
「後、を??」

満樹は前に向き直す。

「お前の知り合いか?」

云われて京子は、そのふたりを見ようとする。
はっきりとはわからない。

でも

「いえ」

知るはずもない。

「なぜ、俺たちをつけている」
満樹が云う。
「俺たちの、どちらをつけている」

「・・・ふ、」

雨音の中、そのふたりは笑う。

「・・・どちら?」
「・・・どちらも、だよ」

満樹は眉をひそめる。

「どう云うことだ」

「・・・人を探している」
「・・・それだけだ」

瞬間、ふたりの姿が消える。

「――!!」

声にならない声を、京子は上げる。
すぐ横に、そのふたり。
とっさに携帯している護身の短刀を掴もうと、する。



強い力で引っ張られる。

満樹、が

「・・・何を!」
「・・・おい!!」

京子を抱えて、跳ぶ。

「っううう!?」

思わず閉じた目を、京子は開く。

雨が打ち付ける。

横にいるのは、満樹。
あのふたりは、いない。

すぐ横の満樹は、静かに、と首を振る。
京子は足元を見る。

――木の上。

満樹は、京子を支える。

「・・・どこへ行った!」
「・・・出てこい!」

ふたりは、満樹と京子の場所を把握出来ていない。

「・・・無理だ。雨が強い」
「・・・深追いは出来ない」

ふたりは声を出す。
満樹と京子に聞こえるように、

「・・・おい、聞け!」
「・・・我々は、お前らのような奴らを探している」
「・・・よく考えろ!」
「・・・俺たちの仲間になる方が、徳だと!」

雨が降る。

ふたりの姿は、ない。

満樹は、枝を掴みなおす。
首を傾げる。
「お前らのようなやつって、いったい何だ?」
そう云って
「降りるぞ」
満樹は、枝を蹴る。

地面に降りる。

「わっ!」

腰が抜けていたのか、京子は地面に転ぶ。

「大丈夫か?」
「ええ、少し動揺しただけ」
「いや。訳も分からず追われたから、動揺するだろう」
「はは、」

京子は、息を吐く。

狩りでは冷静に、と、云われている。
どんな状況でも、落ち着いていなければ。

が、

立ち上がろうとした京子は、さらに驚く。

満樹が差し出した、手のひらに。



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「約束の夜」29

2017年11月21日 | 物語「約束の夜」

「どう、ですか!?」

京子はカウンターに身を乗り出して問いかける。

「うーん
 申し訳無いけれども
 美和子という名の泊まり客は居ないよ」

宿屋の主人は
難しい顔で答える。

「じゃあ、私の名前で予約は」
「それも無いねぇ」

この宿にも美和子は居ない。
京子はため息をつく。

「……三件目を探すか」

でも
今日はこの宿に泊まった方が良いと
満樹が言っていた。

悩んでいた所に
おや、と主人か問いかける。

「もう一件を見てきたのなら
 他は無いよ。
 この村には二件しか宿屋が無いからね」
「そうなんですか!?」
「宿じゃないなら
 村人の家に泊まっているのかもしれない。
 この村はおもてなしが大好きだから」
「あ、あぁ。なるほど」

先程までの記憶が蘇り、
妙に納得する。

宿ならともかく、
この時間に家を訪ねて回るわけにはいかない。

「仕方ないわね、こういう事情だし」

少し心配だが、今日はここで腰を落ち着けよう。

「えっと、それじゃあ。
 今から2名、泊まれます?」
「もちろん。
 お部屋を準備するよ」
「良かった~」

先に宿帳を書き込みながら
京子は首を捻る。

「えっと、まきって言ってたわね。
 まきってどんな字かしら?」
「お連れさん?
 なんだか東一族の様な名前だね」
「そうなの?」
「東一族は“樹”が付く名前が多いらしい。
 ……おっと、すまないね、西一族にこんな話」
「ふふふ、それが実は」

ざぁっと急に雨音が強くなる。

「わっ!!
 本降りになってきた」

いけない、と
京子は慌ててペンを置く。

「外で待たせてるの、
 もう1人を呼んでくる!!」
「ほら、これを使って」

宿屋の主人から
体を拭く布を預かり、
京子は宿の外に飛び出す。

「ごめんなさい、満樹!!」

元々灯りが少ない所に
雨が降り出し
視界が悪い。

京子は暗闇の中に満樹を探す。

「……え?」



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「約束の夜」28

2017年11月17日 | 物語「約束の夜」

小雨。

暗闇の中を、京子と満樹は進む。

「場所は判るのか」
「ええ」
京子は頷く。
「大体の場所は美和子から聞いたから」

南一族の村の、広大な畑を通り過ぎ
中心部へと向かう。

少なくとも、そこに店や宿屋が集まっているはずだ。

が、

もちろん、夜中。

たどり着いても、ほとんどの店に灯りはない。

「南一族は早く寝るのか・・・」
満樹の呟きに、京子は続ける。
「朝の畑仕事のために?」
「ありうる」
「うちも、狩りの当番のときは早く寝るけど」

京子の言葉を、ふぅんと満樹は流す。
他一族の情報として、
出来るだけ、聞かないように。

「北一族の村なら、夜通し明るいんだが・・・」
「そうよね」
「・・・・・・」
「そんなに何度も、北に?」
「あなたこそ、・・・あ!!」

京子が指差した方を、満樹は見る。

宿屋。

「美和子!」

京子は走る。
満樹も追う。



京子が宿屋に入ったのを確認して、そこで立ち止まる。

待つ。

この宿屋に、連れがいたのなら、京子は出てこない。
それならばそれで、いい。
もし、連れが、東一族の自分を見たら驚くだろう。
場合によっては、
西一族から、京子は咎めを受けるかもしれない。

だから、満樹は宿屋へと入らなかった。

小雨が降る中、満樹は待つ。

「・・・・・・」

満樹は首を傾げる。

京子が、宿屋から出てくる。

「連れはいなかったのか?」
「・・・ええ」
「なら、ほかの宿を探してみよう」

満樹は歩き出す。
京子も続く。

小雨。

京子が呟く。
「美和子、どの宿屋にいるのかしら・・・」
その顔は不安げだ。

満樹は歩く。
少しずつ、歩みを早める。

「ねえ。どうしたの? 急ぎ足」

満樹は指差す。

「あれ、宿屋じゃないのか」
「本当だ!」
京子は満樹を見る。
「中を見てくる!」

満樹は頷く。

「連れがいるといいけど」
「ええ」
「もし、連れがいなくても」
満樹が云う。
「そのまま、その宿に泊まればいい」
「・・・え?」
「このままだと、雨が強くなるかもしれない」
「そう、か・・・」

京子は考える。

「じゃあ、あなたの部屋もないか見てくるわ!」
「俺は大丈夫だけど」
「見てくるから!」

京子は宿屋の中に入る。

満樹は、その姿を確認する。

小雨。

まだ、夜は明けない。

満樹は振り返る。
云う。

「そこにいるのは誰だ。なぜ付いてくる?」

ゆっくりと、誰かが姿を現す。

雨に紛れ

足音を消すように。

「お前、・・・」

誰かが云う。

「東の満樹、だな・・・?」



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「約束の夜」27

2017年11月14日 | 物語「約束の夜」

飛鳥とその子ども達が眠りに就くと
南一族のその家は
やっと静寂が訪れる。

「いや、いびきがうるさい」

満樹は用意された部屋で
誰にでも無く一人呟く。

母親の弥生も子どもを
寝かしつけるため
横になって居るのだろう。

というか、
飛鳥、子どもの就寝時間と同じって。

満樹は窓から外を眺める。
雨は小降りになっている。

「………どうぞ」

そんな小さくなった雨音に紛れて
聞こえたノックの音に
返事を返す。

控えめな音はこの家の住人ではない。

「こんな時間に、ごめんなさい」

西一族の京子が
おずおずと顔を出す。

東一族を警戒してか、
部屋には入ることなく、探るように問いかける。

「あの、覚えて無いかもしれないけど、私」
「北一族の村で会った子」
「ええ、あの時はありがとう」

京子は安堵の息を吐く。

「お礼が言えて良かった」

気にすることは無いのに
律儀だな、と
満樹は感心する。

「それで、行くのか」
「……えぇ」

京子は荷物を抱えている。
とても
これから就寝するという格好ではない。

「出て行くなら、今しかないな」

現に、満樹も
同じ事をしようとしていた。

「ご飯、美味しかったし、
 一生懸命してくれて、いい人達ってのは
 分かっているのだけど」
「どうせそうやって
 出れなくなったんだろう。
 はっきり断らないと」
「いや、あなたこそ」

すごく、捕まっていたじゃない、と
反論する京子に満樹は笑う。

「満樹だ」
「京子よ」

「さ、行こう」
「家の人に、手紙は置いてきたわ」
「完璧だ」

入り口を静かに開け、
二人は外に出る。

「じゃあ元気で」
「どこに行くんだ?」
「美和子、宿屋に居ると思うのだけど」

来ないという連れの事だと
満樹は理解する。

それにしても
京子の所在は分かっているだろうに
向こうから探しに来ないというのも
気に掛かる。

「そこまで、送るよ」
「いいわよ」
「こんな時間だし、夜だ」
「……そう、だけど」

この雨の暗闇を
一人で進むのと
敵対している東一族に送って貰うのは
どちらが危ないのだろう、と考え

この人なら大丈夫かしら、と
京子は判断する。

「それじゃあ。
 お願いします」



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