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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」23

2017年10月03日 | 物語「約束の夜」

南一族の村へ向かう日。
日も昇らぬうちに馬車は動き出す。

「……眠い」
「眠れなかったの?」
「うんうん。早起き苦手なのよ」

あくびを噛み殺しながら京子が答える。

朝一番の馬車とあって
乗り込む人は少ない。

「着いたら起こしてあげるから
 寝てなさいな」

いや、それは美和子に悪い、と
思いながらも
馬車の振動がよい具合に眠気を誘う。

うつらうつらしながら
美和子が誰かと話している声を
子守歌代わりに聴く。

「あら、悟(さとる)も南一族の村へ?」
「俺は家へ帰るのに乗せて貰ってるだけ」
「あなた村境近くの家だものね。
 村の中心からだと、結構歩くでしょう」
「そうでもないよ」

朝帰りか。
恋人の家に泊まっていたんだろうなぁ、と
京子は少し羨ましくなる。

悟の恋人は、京子の1つ下の
四ツ葉(よつば)という子だった気がする。

いつか

耀が無事に見つかって
京子にも素敵な恋人が出来て
以前のように暮らしていけたら。

「………うぅう」

耀が失踪している事と
京子に恋人が出来ない事は
全く関係が無いのだけど。

分かってるのよそれは、と実感して

もういっそ眠ってしまおう、と
ぐっと目を閉じる。

「京子、起きて。
 着いたわよ!!」
「んん?」

美和子に肩を揺さぶられながら
京子は目を覚ます。

「ホントだ、着いてる」

辺りを見回すと
大きな畑が見渡す限り広がっている。
道すがら歩く人達は
白髪、黒髪が混在していて、頬には逆三角形の印。

久しぶりに見る、南一族。
そして数年ぶりの南一族の村。

「ごめんなさい。
 ずっと寝ていたみたい」
「どうせ夕べは眠れなかったんでしょう。
 良い夢見れた?」
「うーん」

寝る前にいろんな事を考えていたせいか
なんだが妙な夢だらけだった気がする。

同年代の中で、一人結婚できないとか。
友達としては楽しいけど
恋人にするにはちょっと、と言われる夢とか。
兄を発見したのに、なぜか耀じゃないとか。
南一族の村で食べ過ぎてお腹壊すとか。

「変な夢ばっかり、見た」
「馬車は寝心地イマイチだものね」

うなされてたわよ、と
美和子が笑う。

「そういうときは、起こして欲しいわ」

もう、と返しながら
京子もつられて笑う。

馬車を降りながら、ふと思う。
途中で降りると言っていた
悟の姿はもう無い。

あれは夢だったのだろうか、
横を通り過ぎるとき
悟が何か言っていた気がする。

それこそ、京子にしか聞こえないように
呟くように小さな声で。

……に、気をつけて、と。

肝心の何に気をつけないといけないのか
その部分が思い出せず、
京子は首を捻る。



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