TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」241

2020年09月29日 | 物語「約束の夜」
「こっちよ、こっち」

オトミとノギが導く方に
皆、歩みを進める。

ふと足をついた瞬間、
ぐらり、と辺りが歪む感覚。

「あ」
「ここは」

北一族の村の裏路地。
一つ筋を抜けた大通りからの
喧噪が遠くに聞こえる。

「戻って、きたの?」

京子は辺りを見回す。

「今、境目を抜けたの」
「ううん?」

どういう事、と問いかけるヨシノ。

「今のはただの通り道。
 魔術でここに繋がっているだけ」
「本当の裏一族のアジトはもっとどこか遠くにある」
「どこかって?」
「さあ?」

オトミもノギも
どこか諦めたように呟く。

「俺達はそれすら知らされていなかったって事」

きっともう、
再び裏一族のアジトに向かおうと思っても
道は開かれないだろう。

「あぁあ、
 魔法が使えるようになると思っていたのに」

オトミは肩を落とす。

「いや、でもさ」

ツイナが言う。

「さっきのセンとか翼の話を聞くと、
 俺達で魔法使えない組って
 使えないんじゃなくて、逆に」
「魔法を打ち消す魔法を使っているって事!!?」
「…………そう、かも、なんて」

「え、それって、
 凄いわ!!かっこいいわ!!」

「可能性として、あの、多分、メイビー」

「よし、皆、
 それぞれに思う所はあるだろうが」

満樹が声をかける。

「まずはマサシを医者に診せよう!!」

は、と皆が
満樹にもたれかかっているマサシの事を思い出す。

「そうだった、
 ごめん俺、加護の魔法は使えるけれど
 治癒系はイマイチで!!」
「「薬草使う!?」」(ヨシノ&ノギ)
「ご遠慮願いたい」

絞り出すように声を出し
首を振るマサシ。

「大丈夫よ、長男だから耐えられる。
 長男、だから!!」

次男だったら、どうなっていたと言うのか。

「まだ裏一族の動きが分からない。
 お前達は先に宿に戻っていろ」

一箇所に身を固めていてくれ、と
満樹が指示を出す。

「ツイナ、皆を頼んだぞ」
「がってん!!」

「京子も」

満樹が振り返る。
京子は静かに裏路地を見つめている。

「………」

つい数時間前、
この道を辿ったとき一緒だった
耀やチドリは今、此所にはいない。

「お兄ちゃん………」

「京子」

満樹が声をかける。

京子は耀に貰ったネックレスを握りしめ、
顔をごしごしとぬぐった後
皆の方へ振り返る。

「大丈夫か?」
「ええ」

行きましょう、と京子は答える。

「オトミもノギも一緒の宿に。
 それに、そう、
 夕飯もまだだったわね、私達」
「そうだね、
 落ち着いたらおなか空いてきた」
「満樹やマサシが帰って来たら
 宿で食事にしようか」

さあ、と京子は
オトミとノギの腕を引く。

「ゆっくり話しをしましょう。
 聞かせて欲しいのあなた達の村の話」

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「約束の夜」240

2020年09月25日 | 物語「約束の夜」
それほど、長い時間ではなかったと思う。

8人の者たちは、それぞれを気遣った。

力を使い切った者。
怪我を負っている者。
どうすればいいのか、戸惑う者。

ただ

みんな、生きている。

「よかっ、・・・た」

京子は声を詰まらせる。

「これで、帰れる」

満樹は頷く。

「ねぇ、」

京子は耀を見る。

「・・・・・・」
「お兄ちゃん」
「・・・そう、だな」

満樹も、耀を見る。

耀の表情は、読めない。

そうだろう。

京子や満樹にとっては、終わったこと。
けれども

裏一族であった、耀やチドリには?

そして、

翼には。

チドリは、ただ坐り込んだまま。
見つめている。

センだったものを。

「帰らせてもらいましょう」

マサシが云う。

そして、チラリと翼を見る。

ツイナも翼を見る。

翼は動かない。

「とにかく、動こう。外に出なければ」

満樹の言葉に、皆、頷く。

終わった。

でも、ここは、裏一族の場所。
何が起こるか判らない。
翼でさえ、使おうとしていた秘術を諦めたのか、判らない。

ただ、何も云わないうちに。

「お兄ちゃん」

京子は、耀の手を引く。

「お兄ちゃんってば」
「京子」

耀は、首を振る。

「先に行っていてくれないか」
「え?」
「先に、・・・頼む」
「何を云っているの?」
「俺たちは裏一族だったんだ」
「・・・っ!」
「少し、時間をくれ」
「お兄ちゃんっ」
「頼む」
「・・・・・・」

「京子」

満樹が首を振る。

「・・・・・・」
「必ず、また、戻る」

耀が云う。

「だから頼む」

「お兄ちゃん・・・」

「行け」

耀は、ちらりと翼を見る。

「翼の気が変わらないうちに」

京子と満樹。
満樹に支えられて、マサシ。
ツイナとヨシノは、動きだす。
オトミとノギも、続く。

何度も振り返る京子の姿は
やがて、耀から見えなくなる。

そこに、残された者は。

「・・・・・・?」

ふと、耀が気付く。

「セン、は?」

「・・・・・・」

「どう云うことだ」

翼は息を吐く。

「逃げたな」

センの遺体が、消えている。





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「約束の夜」239

2020年09月22日 | 物語「約束の夜」
「ばかな」

センは無意識に手を伸ばす。
それは何かを求める様に。

「俺が、こんな奴らに」

長い月日を
巻き戻す様に記憶が流れる。

チドリを拾った時の事。

翼が生まれた時の事。

初めて
禁忌とされる術を使った時の事。

今は居ない
共に裏一族を作り上げた者達の事。

遡る。

センがまだ、
ただの西一族であった頃。

血を吐く、一人の東一族。

西一族で秀でた能力があると
言われたセンでも、
かなり手こずった相手。

それならば、と
彼の大切な者を手にかけた。
使える手は使う。

疲れたな、と血を払うセンに
息もまばらな彼はこう呟く。

「いずれ、お前も倒れる時が来る」

悪あがきをと
あざ笑うセンに、
だが、東一族はこう返す。

「お前を……倒すのは!!!」

ぐん、と意識が今に戻る。
目の前に迫るのは
あの時の東一族。

「いや、違う」

満樹が眼前に迫る。

「俺、は!!」

再び、センの体を剣が貫く。
それは
確実に致命傷となる傷。

倒れ落ちたセンに
目をくれることも無く、
満樹や京子達は
傷を負ったマサシに駆け寄る。

「………」

「セン!!」

ツイナ達の足止めを振り切ったチドリが
横たわるセンに駆け寄る。

「今、治癒術を」

チドリが術を発動する、が。

「クソッ!!
 血が、止まらない。」
「チドリ」

センは呟く。

「無駄だ。
 術で治る範囲を超えている」
「それなら」

杖を握りチドリは言う。

「禁術を、」

人を若返らせ、蘇らせるという
その術を。

「いや」

無理だ、と答える。
チドリも分かっている。
生け贄にするべき数が足りない。

「なら、数を揃える
 このアジトに居る人を集めれば」
「チドリ」
「大丈夫だ、すぐにこの傷を癒す」

「チドリ……もういい」

その声に、
チドリは杖を下ろす。

「ああ」

センは横たわったまま上を見上げる。
見えるのは星空ではなく、
暗い天井。

何時までも無限の命があると
思っていた訳では無い。
いつか終わりが来ることは分かっていた、が。

「こんな、幕引きか」

その様子を満樹達は見守る。
もう命を終えようとしている、
裏一族の創始者。

「俺には似合いの最期という事か」

すう、と長く息を吐き
センは瞼を落とす。


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「約束の夜」238

2020年09月18日 | 物語「約束の夜」
動かない手。

動かない身体。

「・・・・・・っっ!!」

センの身体は、すでに、満樹と翼の剣が貫いている。

「!!?」

センは血を吐く。

その剣の傷と、毒と。

「やった!?」
「油断するな!」

センの身体が崩れ落ちる。

距離を取り、満樹と翼はセンを見る。
センは魔法を使うことが出来ない。
治癒の魔法など、もってのほか。

この傷が、この場で治るなど、あり得ない。

「くっ・・・、誰かっ」

「誰も来ないよ」

センの言葉に、翼が云う。

「こう云う場だ。下の者には動かないよう伝えてある」
「何を」
「そもそも、この場所はある程度以上の者しか知らない」

翼はちらりとチドリを見る。

「な、チドリ」

チドリは杖を握りしめる。

「だが」
「何だ」

「俺がいる!」

そう、センに杖を向ける。

「お前ら、まだっ!」

治癒の魔法。

「!!?」

・・・・・・。
・・・・・・。

「何!?」

「はは。もう一度ぐらい役に立つよ」

ツイナが立ち上がっている。

「ツイナ!」

けれども、その足下はふらふらとしている。

「無理をするな!」
「大丈夫っ!」

ツイナは笑う。

「ヨシノが手伝ってくれるから!」

チドリの周りを、光が囲む。
術封じ。

「私だって苦手なだけで、ちょっとは出来るんだから!」
「ナイスヨシノ!」
「まぁね!」
「俺たちナイスカッ、」
「気を付けろ!!」

ツイナの言葉は、満樹にかき消される。

「チドリがこの術封じに負けるとは思えない!」
「判ってる!」

ツイナが云う。

「先ほどと同じだよ! 足止め程度なんだから!」

「ラストチャンスか」

翼が云う。





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「約束の夜」237

2020年09月15日 | 物語「約束の夜」
ふう、と
センは深いため息を付く。

傷口から流れる血。

それは致命傷ではない。

だが、

「もう、いいか」

そう呟くとともに踏み込み、
距離を取っていた満樹に迫る。

「!!」

満樹はとっさに、持っていた剣で受ける。
躱すというよりは
なんとか剣先を逸らしながら
受け身をとりつつ距離を取る。

「満樹!!」

その隙にマサシがセンの背後に回る。

が、

「ダメだ、マサシ!!」

「!?」

センの短剣がマサシを捉える。

「うあ、」
「マサシ!!」

京子の悲鳴に近い声が上がる。

「だいじょ、ぐっ!!?」

倒れ込むマサシを
センが踏みつける。

「………マサっ」
「待て、京子、」

駆け寄ろうとする京子を
満樹が引き留める。
先ほどとは格段に違う動き。

迂闊に近寄ってはいけない。

センは顔を上げる。

「貴重な生け贄だ、と、手加減してやるとこれだ」

自身の血を見ながら
センは言う。

「もういい。
 不要なものは捨てる。
 残ったものだけ使う。
 足りなければ、数を揃えれば良いだけだ」

マサシの傷口から血が流れていく。
どうにかセンから引き離さなければ、と
満樹は剣を構える。

その横で京子は祈るように呟く。

「お願い………早く、早く!!」

その様子を見てたチドリは
耀に声を掛ける。

「諦めた方がいい」
「うん?」
「センが本気を出す前に
 止められなかったお前達の負けだ」

「…………そうだな」

耀は、構えていた剣を下げる。

「確かに、もう、遅い」

そう言う様の口元が上がる。

「もっと早く、
 治癒の術をかけてやるべきだったな」

「なにを?」

チドリは耀の後ろに目を凝らす。

ヨシノ、
そして、気を失ったはずの
オトミとノギが目を覚ましている。

「………」

ヨシノとノギ。

そして、京子は“早く”と言った。

マサシを助けて、
そういう意味ではないとしたら。

「!!」

チドリは目を見開く。

「セン!!!」

カラン、と音を立てて
短刀が床を転がる。

それは
マサシに振り下ろされようとしていたもの。

不思議そうにセンは
自身の掌を見つめる。

僅かに震える指先。
痺れるような感覚。

「これ、は」

「は」

翼が笑う。

「やっと効いてきたか」

「まさか!!」

京子が投げた短剣。
そして、翼はこう言っていた。

剣先に気をつけろ、と。

「毒、か!!!」

今しか無い、と
満樹が動く。
翼もそこで初めて剣を抜く。


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