取り込んだ洗濯物を抱えて、杏子が部屋に入ってくる。
「圭」
圭は、顔を上げる。
「杏子・・・」
「もうすぐ、ご飯ですって」
「・・・わかった」
杏子は、たくさんの洗濯物を広げ、畳みだす。
圭は、その様子を見る。
圭の視線に気付いて、杏子は手を止める。
「どうしたの?」
「・・・いや」
杏子が云う。
「ねえ、圭」
「何?」
「近いうちに、おばあさまのお墓参りに行けるかしら」
「あ、・・・」
「連れて行ってもらえる?」
「杏子・・・」
「手を合わせに行きたいの」
「・・・うん」
「圭、ご飯よ!」
圭を呼ぶ声に、圭は居間への扉を見る。
「杏子。ご飯だって」
杏子は圭を見て、洗濯物を再度畳みだす。
「私は、遠慮しておくわ」
「そう?」
圭が訊く。
「調子、・・・悪い?」
杏子が首を振る。
「調子が悪いと云うより、食欲がないだけ」
杏子が苦笑いする。
「疲れているのかしら。・・・でも、大丈夫よ」
「杏子・・・」
「圭、食べてきて」
圭は、杏子を見る。
杏子は洗濯物を畳んでいる。
圭は部屋を出る。
杏子は閉められた扉を見る。
その向こうから、圭と家族が話している声が、聞こえる。
家族の会話。
笑い声。
杏子は、前を見る。
「ねえ」
杏子は話しかける。
「私は、また、・・・置いていかれるのかな」
云う。
そこにいる、光に。
「また、哀しい想いを、するのかな・・・」
「杏子・・・」
「光、」
杏子は、手を、握りしめる。
「どうして、いなくなってしまったの?」
「・・・ごめん」
「一緒にいて、」
光は首を振る。
「だって、圭は」
杏子は、涙を流す。
「もしかして」
光が云う。
「あいつは、誰でも良いのかもしれないね」
一緒にいてくれさえすれば。
誰でも。
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