TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」114

2014年10月31日 | 物語「水辺ノ夢」

取り込んだ洗濯物を抱えて、杏子が部屋に入ってくる。

「圭」

圭は、顔を上げる。
「杏子・・・」
「もうすぐ、ご飯ですって」
「・・・わかった」

杏子は、たくさんの洗濯物を広げ、畳みだす。
圭は、その様子を見る。

圭の視線に気付いて、杏子は手を止める。

「どうしたの?」
「・・・いや」

杏子が云う。

「ねえ、圭」
「何?」
「近いうちに、おばあさまのお墓参りに行けるかしら」
「あ、・・・」
「連れて行ってもらえる?」
「杏子・・・」
「手を合わせに行きたいの」

「・・・うん」

「圭、ご飯よ!」

圭を呼ぶ声に、圭は居間への扉を見る。

「杏子。ご飯だって」

杏子は圭を見て、洗濯物を再度畳みだす。
「私は、遠慮しておくわ」
「そう?」
圭が訊く。
「調子、・・・悪い?」
杏子が首を振る。
「調子が悪いと云うより、食欲がないだけ」
杏子が苦笑いする。
「疲れているのかしら。・・・でも、大丈夫よ」
「杏子・・・」
「圭、食べてきて」

圭は、杏子を見る。
杏子は洗濯物を畳んでいる。

圭は部屋を出る。

杏子は閉められた扉を見る。
その向こうから、圭と家族が話している声が、聞こえる。

家族の会話。
笑い声。

杏子は、前を見る。

「ねえ」

杏子は話しかける。

「私は、また、・・・置いていかれるのかな」

云う。

そこにいる、光に。

「また、哀しい想いを、するのかな・・・」

「杏子・・・」

「光、」
杏子は、手を、握りしめる。
「どうして、いなくなってしまったの?」
「・・・ごめん」
「一緒にいて、」

光は首を振る。

「だって、圭は」

杏子は、涙を流す。

「もしかして」

光が云う。

「あいつは、誰でも良いのかもしれないね」

一緒にいてくれさえすれば。

誰でも。


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「水辺ノ夢」113

2014年10月28日 | 物語「水辺ノ夢」

「ねぇ、圭」
祖母の葬儀が落ち着いて数日。
ふと圭の母親が言う。
「私たち、また
 南一族の村に戻らなくてはいけないの」

家の居間には圭と母親の2人。
父親と湶は祖母の書類手続きで出ており
杏子は外で洗濯を取り込んでいる。
突線の言葉に圭は一瞬戸惑って、そうなんだ、と返す。

「ずっとこっちに居るのだと思ってた」
その言葉に母親は申し訳なさそうに頷く。
「母さん達の諜報員の役目はまだ続いていて、
 村に戻ってくるとしても
 ―――何年も先になると思うわ」

「また……」

置いて行かれるのかと言いかけて、圭は止めた。
なんて事はない。以前の生活に戻るだけだ。

「圭!!」

母親が言う。

「一緒に南一族の村に行かない?」
「……え?」
「母さん達と、今度こそ、一緒に!!」

今度こそ。

その言葉に圭の心がわずかに揺れる。

以前も本当は連れていきたいところを村から止められ
圭は人質状態だった。
諜報員という事は家族にも明かせず、
そういう理由があったからだと
やっと分かってきたけれど、

それまでは
病弱な自分はいらないから捨てていかれたのだと
ずっと、ずっと思ってきた。

一緒に行こう、と言ってもらえる。

圭が人質になって居るという件は
両親が別の方法を取ったのだろう。
出来ないことをしようとは言わないはずだ。

自分が、南一族の村に?

「……急に言われても」

今の圭にはそんな言葉しか返せない。

「そうね、突然こんな事、驚くわよね」

母親は悲しそうな表情を浮かべる。
一緒に行くと言ってくれると思っていたのだろう。
そんな顔を見ると圭もつらくなる。

「―――あなたの病気。
 南一族の村で、違う治療法を試してみたいの」
「治療?」
母親は頷く。
「南一族ではまた違った医療が進んでいるの。
 見る目が変われば、もしかしたら」

あぁ。と圭は思う。
母親も、そしてきっと父親も、
両親は本気で圭の事を考えてくれている。

湶から少し聞いたが
諜報員になるとかなり色々な事が優遇される。
それだけ危険な仕事だ。
それでも諜報員の仕事を引き受けたのは
いずれ自分たちが居なくなっても体の弱い圭が1人でも生きていける様に
お金を貯めるためにだと。

「治療を受けてみて、
 もし、南一族の空気が合わないというのなら
 それから帰ってきたらいいじゃない」

圭は躊躇いながらも頷く。

「少し、考えさせて」

圭の返事にやっと安心したのだろう、
母親が笑う。

「あの子の事なら」

言いよどみながらも母親は言う。

「圭が背負うことないじゃない。
 あなたが連れてきた訳でもないのに」
「……それ、は」
「あぁ。もうこんな時間。
 夕飯の支度をしないと」

母親は台所に向かう。
圭はしばらく居間で立ち尽くしていたが
ふと、自分の部屋に戻る。

母親は圭が悩んでいるのは
杏子が気がかりだからだと考えて、ああ言ったのだろう。

でも

「俺……」

圭は思わず口元を押さえる。
母親に言われるまで、圭は杏子の事などすっかり頭になかった。



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「水辺ノ夢」112

2014年10月24日 | 物語「水辺ノ夢」

杏子は、ひとりで家の中にいる。

気を紛らわせようと、裁縫をはじめたものの、手が動かない。

そろそろ、葬儀も終わるだろうか。

せめて、墓前に手を合わせに行きたかったけれど
西一族が多く集まる葬儀の中、そう云うわけにもいかない。

それは、杏子自身がよくわかっている。
また、近いうちに、人目を忍んで、圭に連れて行ってもらえばよい。

杏子はため息をつく。

日が暮れるころ。
家の中に、人が入ってくる。

圭と家族が戻ってきたのだろう。

「圭、少し休みなさい」

そう、声が聞こえて、圭が杏子のいる部屋に入ってくる。

「あ、・・・杏子」
「お帰りなさい」

杏子は圭を見る。
圭の顔は、疲れ切っている。
身体だけではなく、精神的にも、なのだろう。

「少し、休んで」
「・・・そうする」

杏子は水を注ぎ、圭に渡す。
圭はそれを飲むと、横になる。

「杏子・・・」
「何?」

「いや・・・」

「圭。ゆっくり休んで」
杏子は云う。
「いろいろ考えるのは、あとからでも大丈夫よ」

圭は頷く。
それ以上何も云わない。

すぐに、寝息が聞こえてくる。

杏子は圭に、毛布を掛ける。

近くの椅子に坐り、もう一度、裁縫道具に手を伸ばす。
裁縫をはじめる。

しばらくして、居間から圭の両親が話しているのが聞こえる。

「大丈夫か」
「ええ・・・」
「無理はするな」
「大丈夫。覚悟していたことだもの」
「しばらくは、休養したらいい」
「そうする」
「落ち着いたら、ここを発とう」
「そうね」
「あまり、向こうをあけすぎると、南一族に不審に思われるからな」
「ええ」

圭の母親が云う。

「湶と、圭と、・・・私たち家族全員で、ね」



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「水辺ノ夢」111

2014年10月21日 | 物語「水辺ノ夢」

西一族の墓地は、圭の家とは逆の村はずれにある。
圭の祖母の墓の前には
村長を初めとして村人が並び
白い花を供えていく。

高子はその列を離れ、
少しは慣れたところにいた湶に歩み寄る。

「あぁ、お参りに来てくれたんだ。
 ありがとう」
「力になれなくて」
湶は首を振る。
「寿命だよ。高子は良く手を尽くしてくれた」

2人は横に並び、
葬儀の列を見ながら話す。

「覚悟はしていたけど、
 この感覚は慣れないものだね」
「……慣れない方が良いわ」

医者はつらいね、と、湶は言う。

「俺も、父さんも母さんも、
 村に呼び戻された時から覚悟はしていたよ。
 最期を看取るために帰って来た様なものだから」

湶の視線の先には父親と母親がいる。
母親は時々涙をにじませているが、父親に支えられ
葬儀に来た村人に気丈にお礼の言葉を掛けている。

「でも、圭は」
「あぁあいつは、うん。
 俺よりもうんと長くばあちゃんのそばに居たから」

圭は両親のそばに呆然として立っている。
頭では分かっているが感情では分かっていないのだろう。
未だに祖母の死が信じられない様だ。

「杏子が来るまでは、
 圭にとって唯一の家族だったから」

その様子を高子はずっとそばで見てきた。
ふと、高子は辺りを見回す。

「―――杏子と言えば、
 あの子、来れないの」

その言葉に湶はバツが悪そうに頷く。

「お参りに行かせて欲しいとは言っていたけど
 西一族の皆も多く集まる場所は危ないだろうから」
「そう……なるわよね、やっぱり」

東一族だから、しかたない。
そう言ってしまえばそうだが
それでも杏子はこの場で祈りを捧げたかっただろう。

「落ち着いたら圭かあなたが連れてきて
 あげてちょうだい」
「んー」

珍しく歯切れの悪い湶に高子は首をひねる。

「なに、やっぱり難しいの?」
「いや。それに関しては大丈夫。
 ただ圭が、さ」

湶は言う。

「あいつ、多分今、
 あの子の事まで気が回ってない」



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「水辺ノ夢」110

2014年10月17日 | 物語「水辺ノ夢」

杏子は、圭の祖母を見る。

ただ、敵としてしか、知らなかった西一族。
実際に、東一族と戦っていた西一族。

それなのに、
今は、

杏子の手を握り、感謝をしてくれている。

杏子は、下を向く。
圭の祖母の手を、握り返す。

「両一族の事情で、もう、向こうへは帰れないだろうから」

祖母が云う。

「あんな圭でも、頼っておくれ」

杏子は、小さく頷く。

「さ。それをしまって」
圭の祖母は、杏子が握る装飾品を指さす。
「まあ、・・・圭の母親には気付かれない方がいいかもねぇ」
冗談っぽく笑う圭の祖母に、杏子の表情も緩む。

圭の祖母を見つめ、杏子は、装飾品を握り締める。



突然、圭の祖母が咳き込む。

「おばあさま!?」

杏子は慌てて、圭の祖母を支える。

「・・・だっ」
「血が!!」

杏子は圭を呼ぶ。

「どうした!?」
「圭、医師様を! ・・・お医者様を!!」

圭は、祖母に駆け寄る。

「おばあさまが血を!」
「ばあちゃん!」

圭が、祖母の顔をのぞき込む。
祖母は、苦しそうに息をし、その目は閉じられている。

「ばあちゃん、しっかり!」
「おばあさま!」
「今、高子を呼んでくるから!」

圭は、走って部屋を出る。

「おばあさま!」

杏子は、圭の祖母を呼ぶ。

けれども、反応は、ない。


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