TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」34

2013年11月29日 | 物語「水辺ノ夢」

朝方。

杏子は家の扉を、少しだけ開く。
冷たい空気。
まだ、辺りは薄暗い。

杏子は振り返り、部屋を見る。
まだ、圭は起きてこない。

杏子は、外に誰もいないのを確認する。
外へ出る。
わずかな記憶を頼りに、湖へと向かう。

途中、西一族の誰とも会わない。
杏子は、黒髪に東一族の衣装。
もし見つかれば、その姿だけで、東一族とわかってしまうだろう。

  そうなれば、

  今度こそ、殺されてしまうのだろうか。

杏子は、湖を見る。
近寄る。
水際、近くまで。

目を凝らし、湖の反対側を見ようとする。

けれども、見えない。

近くで、湖に浮かぶ舟が、揺れている。

「・・・光」

杏子が呟く。
「私、西一族と結婚するの?」

そんなじゃ、なかったのに。

  私は

  光と
  結婚するはずだったのに。

湖沿いを歩けば、東一族の村に、帰れるかもしれない。
それは、無理なことだと、わかってはいるけれども。

杏子は、歩き出す。

少しずつ、日が昇っている。
あまり使われていないであろう道を、杏子は進む。

やがて、旧びた建物に、たどり着く。
旧びているけれど、しっかりとした造り。

この建物に道が遮られ、これ以上進めない。
建物の周囲には、藪が生い茂っている。

杏子は、辺りを見る。
ほかに進めそうな道はない。
もしかすると、建物の向こうへ、抜けられるかもしれない。

杏子は、建物の中に入る。
奥へ進む。


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「水辺ノ夢」33

2013年11月26日 | 物語「水辺ノ夢」
高子を見送り、圭は杏子の部屋に戻る。
扉を開けると目を覚ました杏子と目があう。

「あぁ、起きたんだね」

杏子が頷く。

「まだ寝ていた方が良いよ。
 あ、その前にちょっと薬飲んで」

水を持ってきた圭に杏子が言う。

「……ねぇ。圭」
「なに」
「さっきの人は圭の恋人?」

圭はグラスを落としかける。

「……ええぇ?」

首をひねり圭は考える。

「高子の事?起きてたんだ杏子?」
「起きたのはついさっき。
 そうしたらドアの向こうから声が聞こえて
 ……私、きちんとあの人に説明するわ」
「あ、あの、杏子!!!杏子!!!」

圭は杏子の話を遮る。

「ちょっと待って。
 多分、杏子、誤解している」
「………でも」
「ええっと、高子は村の医者で」

その時、壁の掛時計が
時刻を告げる音を立てる。

「……すこし何か食べようか。
 胃に優しい物を作るから。
 それから説明するよ。待ってて」

圭はお粥を作り
朝食にと用意していたスープを温め直す。
やがてベッドサイドのテーブルに
それらを並べると
イスに座り、話始める。

「高子は医者でね。
 俺は医者にかかることが多いから
 顔見知りなだけだよ」
「……そうなの」

圭は杏子に向き直る。

「杏子、これからの事だけれど」
「えぇ」
「君を東一族に帰してあげたいけれど
 俺の力では難しい。ごめん」

「……いいの、圭が気にする事じゃない」

言いながらも杏子はうつむく。
覚悟はしていたが、
それでも、見知った圭から言われて
改めて思い知らされる。

その姿を見ながら、圭は続ける。

「いずれ、また状況が変わってくるかもしれない。から。
 それまでは命令のとおりにしていこう。
 ……ふりで良いから」
「命令?」

圭が言う。

「俺たち夫婦として過ごしていかないと」



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「水辺ノ夢」32

2013年11月22日 | 物語「水辺ノ夢」

家の扉をたたく音。

それに気付き、圭は立ち上がる。

誰だろう。

圭は、杏子が眠る部屋を見る。
その扉は、閉じられている。

再度、家の扉をたたく音。

圭は、扉に近付く。
云う。
「誰ですか」
けれども、返事はない。
圭は、少しだけ扉を開く。

そこに

「久しぶり」
「・・・高子(たかこ)」

見知った顔で、圭は、安堵の息を吐く。

それを見て、高子は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや・・・、何も」
高子が云う。
「補佐役に云われて来たのよ」

圭は、高子を家の中へ招き入れる。

高子は、西一族の医者のひとりだ。
圭も発作が出たときに、何度か診てもらったことがある。

「東一族の状態を診るように、と、云われたわ」
高子が云う。
「調子悪いの?」
圭が云う。
「顔が、真っ青で・・・。今は眠っている」
圭の視線を追って、高子は杏子のいる部屋を見る。云う。
「入っても、大丈夫かしら」

圭が頷く。

扉を開け、高子は部屋の中に入る。

部屋の奥で、杏子が横になっている。
その目は、閉じられている。

「・・・これが、東一族」

高子のつぶやきに、圭が慌てて云う。
「東一族と云っても、危険な人じゃないし」
さらに
「西一族と変わらない、普通の人なんだよ」
「何あせっているの?」
圭の様子に、高子が噴き出す。

高子は杏子に近付く。
手を取り、脈を診る。
そして、かばんから診察の道具を取り出し、杏子を診る。

圭は、その様子を、後ろから見守る。

「そうそう。先日入院した、あなたのおばあさんのことなのだけど」
杏子を診ながら、高子が話し出す。
「夜中に発作が出たのだけど、今朝、容体は安定したわ」
圭の唯一の家族、祖母は、だんだんと身体が弱っていた。
長い入院生活の中、先日まで一時帰宅をしていたのだが。
「・・・そっか」
高子は、使っていた道具を置く。
「近いうちに、病院に来たらいいわ」
「ありがとう」

高子は、振り返り、圭を見る。

「この子は、きっと疲れね」
云う。
「どこが悪い、て、感じじゃない」
高子は道具をしまい、代わりに、薬を取り出す。
「目が覚めたら、これを飲ませてあげて」
「わかった」
「心配しているの?」
高子の問いに、圭は頷く。
「心配なら、いつでも病院に連れてきていいから」

高子は、杏子の部屋を出る。

家の扉に向かう。

「高子」
「何?」

圭が云う。

「ありがとう」

「どういたしまして」



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「水辺ノ夢」31

2013年11月19日 | 物語「水辺ノ夢」

広司は村長に呼び出される。

「少しの間、牢に入ってもらう。
村に混乱を招いた罰だ」

集会所には村長と
村長の補佐役の男。
他に、重役を務める数人の村人がいる。

「――― 仰せのままに」

広司は答える。

村長は重役達と立ち去り
広司は補佐役に連れられて牢に行く。

「正直、お前の処罰には
 村長も頭を抱えていた」

補佐役は言う。

「東一族への対応は、紙一重だからな」
「……東一族」

歩みを止めて、広司は呟く。

「あの女は
 もう村から出ることは出来ないだろうな」

「なんだ、広司
 悪かったとでも思っているのか」

「さぁ、どうだか」

広司は一つの部屋に入れられる
簡易なベットに机
外から鍵が掛けられる。

ドアには小さな窓がついている。
補佐役の男は
その小窓から顔を覗かせる。

「東の情報を引き出せればいいんだが
 相手が圭では、時間もかかるだろうな」
「なんであいつの名前が出てくる?」
「今ごろ村長から村人にもお達しがあっているだろうが
 あの女は圭の妻という事になった」

「……は?」

広司は絶句する。

その後、補佐役は必要なことを告げると
牢を立ち去った。

「……くそっ!!」

広司は牢の壁を蹴る。

「なんで圭なんだ」



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「水辺ノ夢」30

2013年11月15日 | 物語「水辺ノ夢」

「圭・・・」

それでも、杏子は、何かを云おうとする。
杏子の目は、うつろだ。

圭は、杏子を支える。

杏子が、何か、云う。
けれども、その言葉は、か細い。
聞き取れない。

「杏子」
圭は、杏子をのぞき込む。
「・・・ごめんなさい」
杏子が、再度云う。
「あなたの名まえを、私が口走ったばかりに・・・」
「・・・杏子」
「あなたと、・・・広司に迷惑を」

その言葉に、圭は一瞬顔をしかめる。
首を振る。

「杏子」
圭が云う。
「・・・休もう」

あの騒ぎから、何日過ぎたのだろう。

・・・その間、杏子は、どこでどんな扱いを。

圭は、杏子を支えたまま、部屋の奥へと移動する。
今は、使われていない部屋。

「杏子、ほら」
圭は、杏子を坐らせる。
「ここに横になって」

圭が云う。

「少し、休もう」

杏子の目は、すでに、閉じられていた。

しばらく、圭は杏子を見つめる。

やがて、部屋を出る。


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