朝方。
杏子は家の扉を、少しだけ開く。
冷たい空気。
まだ、辺りは薄暗い。
杏子は振り返り、部屋を見る。
まだ、圭は起きてこない。
杏子は、外に誰もいないのを確認する。
外へ出る。
わずかな記憶を頼りに、湖へと向かう。
途中、西一族の誰とも会わない。
杏子は、黒髪に東一族の衣装。
もし見つかれば、その姿だけで、東一族とわかってしまうだろう。
そうなれば、
今度こそ、殺されてしまうのだろうか。
杏子は、湖を見る。
近寄る。
水際、近くまで。
目を凝らし、湖の反対側を見ようとする。
けれども、見えない。
近くで、湖に浮かぶ舟が、揺れている。
「・・・光」
杏子が呟く。
「私、西一族と結婚するの?」
そんなじゃ、なかったのに。
私は
光と
結婚するはずだったのに。
湖沿いを歩けば、東一族の村に、帰れるかもしれない。
それは、無理なことだと、わかってはいるけれども。
杏子は、歩き出す。
少しずつ、日が昇っている。
あまり使われていないであろう道を、杏子は進む。
やがて、旧びた建物に、たどり着く。
旧びているけれど、しっかりとした造り。
この建物に道が遮られ、これ以上進めない。
建物の周囲には、藪が生い茂っている。
杏子は、辺りを見る。
ほかに進めそうな道はない。
もしかすると、建物の向こうへ、抜けられるかもしれない。
杏子は、建物の中に入る。
奥へ進む。
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