TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」105

2014年09月30日 | 物語「水辺ノ夢」


「圭、どうしたね」

祖母の言葉に圭は顔を上げる。

「え?」
「ため息付いていたわよ」

ちょうど祖母の問診をしていた高子が
圭に言う。

「……ごめん、気付かなかった」

「母親の事だろう。
 あの子はちょっと気が強いからね」
祖母は言うが、圭は首を振る。
「そうじゃないよ
 なんだか、まだ、慣れてないだけ」
家族という雰囲気に。

「私がきちんと説明できていなかったからね。
 圭には悪いことをしたよ」

両親は自分たちが諜報員だと
家族には明かせなかったと言っていた。

ならば、事情を知らなかった祖母が
圭一人置いていかれたと思うのも
両親や兄である湶の話をしなかったのも
仕方のないことだ。

「無理に仲良くしなくてもいいし
 うまくやれそうなら甘えても良い
 私のことは気にしないで圭の好きな様におやり」

圭はしまったと思う。
病床の祖母に気を使わせてしまった。

「ばあちゃんこそ
 もっと自分のことだけ考えていなよ」

そうかい、と頷いた後
祖母はしばらく黙り込む。

「なぁ、圭。
 お前の嫁さんをここに連れてこれないかい」
「……杏子を?」

「ちゃんと会ってあいさつをしておきたいんだよ。
 私はいつどうなるかも分からないし」
「やめてよ、そんな話。
 元気になって退院したらいつでも出来ることじゃないか」

「あら、私は良いと思うわ、
 杏子連れてきなさいよ」

二人の会話に入らない様にしていた高子が
ふと口を出す。

「高子、そんな簡単に言わないでくれよ」
「時間帯をずらして、夕暮れ時とか人が少なくなるでしょう。
 やろうと思えば出来るでしょう。
 しようとするかしないか、だけよ」
「そうだけど」
「ずっと気がかりになって居ることがある方が
 体には悪いものよ」
う、と圭は言葉を飲み込んで息をつく。
「わかったよ、ばあちゃん。
 近いうちに機会を作るから」
「頼んだよ、圭」

祖母は満足そうに頷く。

その後、圭と高子は揃って病室を出る。

「……圭、杏子の事だけど。
 わたしも貴方達に二人揃って来て欲しいの」
「………」
「圭、杏子から聞いてる?」
「―――子どもの、事?」

圭の返事に高子は胸をなで下ろす。

「あぁ、良かった、
 杏子きちんと言ったのね」
「言わないよ」
「え?」
「杏子は言わないよ、湶からそうじゃないかって聞いただけ」

そうなの、と高子は言う。

「あなたが今慌ただしいから
 言い出せないのね」

「でもさ」

呟く圭に、高子はそちらを見る。

「本当に頼れる相手なら。
 言ってくれていたと思うよ」
「そうかしら、
 気にしすぎじゃない」

圭は首を横に振る。

「同じ状況でも、
 光にならきっと言っていたよ」

圭はそのまま立ち去る。
高子は言う。

「光って、誰よ?」



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「水辺ノ夢」104

2014年09月26日 | 物語「水辺ノ夢」

「全く理解出来ないわ!」

一通り、あいさつを済ませてきた両親は、居間の椅子に腰かける。
夕食も外で済ませてきた。

圭と杏子も食事を終え、部屋に入っている。

「なぜ、東一族がこんなところにいるのかと思ったけれど」
「ああ。でも、あの子は東の諜報員じゃないと云う話だ」

父親の言葉に、湶が笑う。

「あんな判りやすい諜報員なんかいないよ」

「それもそうだな」
父親が云う。
「東一族が西に入り込むなら、南一族の格好をするか・・・」
「あとは?」

「白色系の髪で生まれた者を、諜報員として西に潜り込ませるのよ」

父親の言葉を、母親が継ぐ。

「黒髪の東一族に、白色系の者が?」

湶の問いに、父親が頷く。

「ごくまれに生まれるらしい」
「西だって、黒髪で生まれることもあるのよ」
「へえ。西に来て1か月は経つけど、・・・見たことないな」

「当たり前よ!」
母親が云う。
「隠されて育てられるんだから」

「まあ。その話は置いておこう」

父親が息を吐き、云う。

「あの東一族の子は、連れ去られて西にやってきたみたいだな」
「まったくバカよね!」
母親が声を荒げる。
「いったい誰よ、東の女を連れてくるなんて!」

「それで、東には返せず、西にも居場所がなく」
「圭に押し付けられたって話?」

母親が頭を抱える。

湶が立ち上がる。
「母さん、お茶でも入れるよ」
「・・・ありがとう」

父親が、母親の肩を叩く。

「そこが、納得いかないのよ・・・」

母親が呟く。

「何かあれば、圭も巻き込まれてしまうんじゃないかと・・・」

父親が云う。

「それより今は、義母さんのことを考えるんじゃなかったのか」
「ええ・・・」

母親は顔を上げ、圭がいる部屋の扉を見る。


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「水辺ノ夢」103

2014年09月23日 | 物語「水辺ノ夢」

「圭!!」

両親が駆け寄って圭を囲む。

「こんなに大きくなって!!
 分かる、母さんよ?」

母親が圭を抱きしめる。

「捨てられたと思っていたんだって
 そんなことする訳ないじゃない!!」

一気にまくし立てる母親に、
圭は圧倒される。

「あ……あの」

自分には両親は居ない、とか
家族だと思っているのは祖母だけだ、とか
会ったらひとこと言ってやろうと考えていた圭だが
言葉を飲み込むしかない。

「お前、落ち着け、
 圭が驚いているから」
父親が母親を軽く諫める。
「ああ、そうね。
 ごめんなさい」

「な、すぐに圭だって分かるだろう」

湶の言葉に母親は頷く。

「そうね、圭は父さんそっくりだもの」

ほら、と母親は圭を父親の前に引っ張り出す。
「元気にしていたか?」
圭はとりあえず言葉のまま頷くことしか出来ない。
「なぁ、圭。お前も複雑だろうけど
 おかえりぐらい言ってやれよ」
湶が言う。
三人の目線が圭に集まる。

湶の時と同じで
こちらは知らない、覚えていないのに
当たり前の様に話してこられる事に
圭は違和感しか覚えない。

でも

これじゃあ、何も言わない自分は悪者じゃないか。
と、圭は絞り出す様に言う。

「……おかえり」

父親は圭の頭をなでる。

「ただいま。
 本当に大きくなったな」

「父さん、圭はそんな歳じゃないんだからさ」
湶がからかう様に言って、両親は笑う。
「あぁ、そうだったな、
 結婚もしたんだって?」
すごいなぁ、という父親の言葉に
そうだ、と杏子を呼びに行く。

遅かれ早かれ杏子と両親を会わせなくてはいけない。

「杏子、来て」

圭に連れられて顔を覗かせた杏子は
彼らが動きを止めたのを見る。

それはそうだろう、仕方のない事だ、と
改めて杏子は思い知る。

西一族の中で生きていくというのはこういう事だ。

「こんにちは」

それでも、と震える声であいさつをする。

「え?!ちょっと!!」
なにか言いかけた母親を制して、父親が杏子の前に出る。
「こんにちは、
 私達は圭の父と母だ。息子が世話になっているね」
いいえ、と杏子は首を横に振る。

先程も会話が聞こえてきたが、
圭は確かに父親似だ。
雰囲気も似ている。

「君は、もしかして東一族かい?」

その問いかけに杏子は頷く。

「やっぱりそうなの??!」

母親の驚く声が響く。

「湶、あなた
 そういう大事な事は最初に言いなさいよ!!」

母親が湶に言うが、そう、と首をひねる。

「でも、いい子なんだよ」

湶は言うが、母親は頭を抱える。

「それとこれは違う話よ。
 どういう事よ、東一族って」



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「水辺ノ夢」102

2014年09月19日 | 物語「水辺ノ夢」

南一族の村からやってきた馬車が見えると、湶は手を上げる。

そこに、彼の両親が乗っている。

両親が持ってきた荷物を受け取りながら、湶が声をかける。
「おかえり」

両親は顔を見合わせ、吹き出す。

「おかえり、て。おかしな気分だ」
「何を云ってるのさ」
湶が云う。
「父さんも母さんも、西一族なんだから」
「それは、そうだけど」
「あ。母さん、その荷物も持つよ」
「ありがとう」

受け取った荷物を、湶は見る。

「何これ? 豆を持って来たの?」

「隣人の方が、ね」

「へえ」
「あなた、食べるでしょ?」
「そうそう。俺、これ好きなんだ」

「栄養もあるしね」
母親が云う。
「あとで炊いて、母さんにも持っていくわ」
「久しぶりの家なんだから、ゆっくりしなよ」
湶が云う。
「そう云うの、あの子がやってくれるよ」

「あの子?」

思わぬ言葉に、両親は再度、顔を見合わせる。

「ああ、圭のことか? 圭は元気だったか?」

「圭は、まあ。普通かな」

湶が云う。

「あ。あの子って、圭のことじゃないよ」

歩きながら、湶が云う。
もうすぐ、我が家にたどり着く。

「杏子って云う、圭の嫁」

「・・・え?」

「嫁・・・?」

湶は頷く。

「圭、結婚したんだって」
そう云って、湶は首を傾げる。
「あれ? 連絡いってなかった?」

「連絡は、きて・・・ないな」
「結婚、ですって?」

戸惑う両親をよそに、湶は家の扉に手をかける。

「大丈夫。いい子だから。ほら、入って」


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「水辺ノ夢」101

2014年09月16日 | 物語「水辺ノ夢」

夕食中に、圭が箸を止める。
そこにいるのは杏子と圭だけ。
湶は先に夕食を済ませている。

「……?」

杏子は不安そうに圭をのぞき込む。

体調が悪いのか、
夕食が口に合わなかったのか、
そう考えているところで圭が口を開く。

「両親が、帰ってくるって」

ぽつりとそう呟く。

「圭の……お父様とお母様?」
「そう」
圭は、じっと料理を見つめたまま続ける。
「湶がさっき俺に言ったんだ、
 補佐役の話だから間違いないだろうって」
両親のことは、湶が帰ってきたときに少し聞いていた。
南一族で―――諜報員をしている、と。

「ずっと居るのか、
 一時的な帰宅なのかは分からないけど」

湶の時と同じで、
ずっと離れていて記憶もない両親に
圭はまた、戸惑うだろう。

「圭、大丈夫?」

どうかな?と圭は自嘲気味に笑う。

「でも、多分。
 俺がどうこう言ってる場合じゃないんだと思う」

圭はため息をつく。

十数年一度も帰らなかった両親に
帰宅が許される。

「それほど、ばあちゃんの状態も悪いと
 判断されたって事だから」

杏子は思わず言葉に詰まる。

でも、

「私に出来ることがあったら、言ってね」

そう言う杏子に、圭は顔を上げる。
この話を始めてから
圭が初めて杏子をきちんと見る。

「……杏子は」
「うん?」

圭はしばらく、無言になる。
何だろう、
杏子は圭が自分に何をして欲しいのかが分からない。

やがて、圭は言う。

「また、杏子には面倒をかけると思うけど」
「……いいのよ、
 私の事は気にしないで」

圭は、そうか、と言って食事を再開する。
杏子もそれに続く。

やがて、食べ終わった食器を片付けながら
杏子は思う。

もしかして、

さっき、圭は自分に何か言って欲しい事があったのだろうか。
ずっとそれを待っていたのだろうか。

でも、圭は今、部屋に戻っている。
言って欲しかった言葉も分からない。

いずれ、分かるだろうか。
それに自分も圭に言うことがある。
状況が落ち着いたら、その時に言おう。

そう思い杏子は片付けを続ける。

そして、数日が過ぎ、
両親が帰宅するというその日がやってくる。



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