TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」211

2020年03月31日 | 物語「約束の夜」
その、差し出された手のひらに

アザがあったことを

彼女は覚えている。

顔はぼんやりとしか、覚えてないけれど、
何かある、彼の記憶。

何気ないことだった。

彼女はそれからも、同じように日々を暮らす。

家族はだれも気付いていない。
たぶん。

畑仕事のあいまに、父親が声をかけてくる。

「嫁ぐか」

「・・・・・・」

「うちのことは気にするな」

「・・・・・・」

「お前の弟に任せるから」

「・・・はい」

話は、それだけ。

彼女は、畑仕事を再開する。
この、いつもの暮らし。

ただ、畑仕事をし、
日が傾けば、家族は先に帰る。

そして

「・・・・・・」
「やあ」

いつもの、西一族。

「私、・・・家を出ることになって」
「ふぅん」
「だから、」
「何?」
「・・・・・・」
「こちらとしては、子どもを生んでくれれば、それで」

いいよ、と、彼は云う。

「でも、この子は・・・」

彼女は、自身のお腹を見る。

父親の言葉は絶対だ。
それでも、嫁ぐまでに、まだ少し時間はある。

どう考えても、
父親は誰なのか、と疑心を抱かれるだろう。

「・・・・・・」
「まさか、おろさないよね?」
「・・・でも、嫁げないわ」
「子どもを大切に」
「・・・・・・」

それは、わかっている。

彼女は、顔をあげる。

そこに、彼はもういない。

彼女は、息を吐く。

お腹の子は、南一族と西一族の子ども。
それは、何もおかしなことではない。

彼女は、畑を離れる。
とぼとぼと、家へと歩き出す。

そして、

その後

生まれた子どもは、別の家へと預けられ

彼女は、予定より遅れて、嫁ぐこととなった。





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「約束の夜」210

2020年03月27日 | 物語「約束の夜」

日が傾く。

へとへとになって、畑仕事が終わる。

食事の準備をしに、母親はひとりで先に家へと帰った。
父親は、居眠りをする末の子を抱き、歩き出す、
弟妹たちは、互いに手を引き歩く。

彼女は、ひとり

道具を片付ける。

疲れている。

いつものこと。

そして

帰ったら、弟妹たちをお風呂に入れなければならない。

「はあ・・・」

彼女はため息をつく。
空を見る。
夕焼け。
あたりを見る。
自分の家の、広い畑。

彼女は坐りこむ。

こんなことをしている場合ではない。
急がないと、・・・叱られるかも。

けれども、身体が疲れている。

彼女は目を閉じる。

風。
草木が揺れる音。

何かの、気配。

「・・・・・・!?」

彼女は目を開く。

そこに

昨日の男。

「・・・・・・」
「昨日はお茶をありがとう」
「・・・・・・」

彼女は答えない。
彼は構わず、続ける。

「ひとり?」
「・・・・・・」
「家族はもう来ないよね」
「・・・・・・」
「来て」

「来て?」

彼女は立ち上がる。

「私、帰らないと」
「いいから」
「でも、」
「急いでるんだ」
「私は、」
「早く」

彼女は、自身の手を見る。

その手は握られている。

「誰なの?」

彼女は口を開く。

「いったい、何をしたいの?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

彼女は、手を振り払うことが出来ない。

「血が、」
「え?」

「血がほしい」

「・・・血?」

「強力な魔法が使える南一族の、ね」





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「約束の夜」209

2020年03月24日 | 物語「約束の夜」
朝、早く起きて
オトミの母親は、畑に向かう。

遅れて、家族が到着する。

それまでに、道具の準備を、すませる。

彼女はあたりを見る。
まだ、ほかの畑に、人の姿はない。
いつもより、早すぎたのかもしれない。

「やあ」

突然の声。
彼女は、驚いて横を見る。

「今から仕事?」
「???」
「あれ? 何か驚いてる?」

口をパクパクさせて、彼女は、その姿を見る。

近くに、誰もいないと思っていたのだ。
人が突然現れて、驚く。

「朝は、苦手でね」

その男が話し出す。

「今日は頑張って起きてみたんだけど」
「・・・あ、あなた。西一族??」
「そうだよ」
「え? こんな時間に??」
「だから、頑張って早起きしたんだって」
「まだ、お店も何も開いてないけど・・・」
「知ってる」

男は、彼女に近付く。

「ごめんなさい。もうすぐ家族が来るから」
「大丈夫」

男は、さらに彼女に近付く。

「お茶でも出すわ」

一歩離れて、彼女は声を出す。

荷物から、お茶のセットを出し、お湯を沸かす。

その後ろ姿を、彼は見る。

「慣れているんだね」
「ええ。いつも、家族が来る前にひとりでお茶を・・・」

やがて、お湯が沸くと
彼女はお茶を煎れる。

その手は震えている。

胸騒ぎ。

何だろう。

この男は。

当たり障りなく

早く、ここから去ってほしい。
早く、自分の家族が来てくれないだろうか。

彼女はお茶を差し出す。

「ありがとう」
「・・・・・・」
「いい香りだ」
「そう・・・」
「好きな味」
「・・・・・・」

一口飲んで、彼は湯飲みを置く。

そして

その

伸ばした手が、

「姉ちゃんお待たせー!!」

はっとして、
彼女は顔をあげる。

両親より少し先に、弟と妹たちが駆けてくる。

「お茶ちょーだい!」
「こら、今、家で飲んできたでしょ」

彼女は横を見る。

あの男は、いない。

「どうしたの?」

母親は、首を傾げる。

「いえ、何でも・・・」

何も伝えられないまま、一日がはじまる。







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「約束の夜」208

2020年03月20日 | 物語「約束の夜」
オトミの母は、その日も畑で作業をしていた。

南一族の村は、一年中、畑仕事で忙しい。
オトミの母の家も、壮大な畑を有していて、総出で働く。

「ちょっとお茶にしましょうか」
「この調子じゃ間に合わないぞ!」
「でもね、お父さん、子どもたちも疲れているわ」
「・・・仕方ないなぁ」

長女であるオトミの母は、お茶の準備をする。

「父さん母さん、準備出来ました」
「じゃあ、休憩しましょう」

作業の終わりきらない畑を前に、家族は坐る。
弟、妹たちは、茶菓子を食べ、何やら楽しそうに会話をする。

「お前が男だったらなぁ」

父親がポツリと呟く。

「容量もいいし、うちの畑を任せられるんだけど」

オトミの母は、父親を見る。

南一族は

男が家を継ぐと云う風習は、特にない。

女が家を継ぎ、畑を継いでもいいのだ、

けれども、この父親は違う。
どこかの他一族のように、
家は男、長男が継ぐものだと思っている。

実際、
父親の家系はなぜだか、そうなのだ。

「お前に託すと、この畑は別の家のものになる」

婿の家にとられてしまう、と。

母親も横でその話を聞いている。
が、何も云わない。

「うちの畑は、あの子に託すとしよう」

父親は、弟たちの名を云う。

立ち上がる。

休憩は、終わりだ。

「お前たち、はじめるぞ!」

はぁい、と、弟、妹たちが、動く。
まだまだ遊びたい年頃。
この忙しい時期は、畑仕事に専念するしかない。

オトミの母親は、弟、妹たちを不憫に思う。






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「約束の夜」207

2020年03月17日 | 物語「約束の夜」
「私ってさ、何で魔法使えないんだろう・・・」

畑仕事をしながら、ぽつりとオトミが云う。

「あんなふうに、・・・かっこよく!」

「あれをやりたいの?」

友人は、あきれ顔で息を吐く。

「冷静に考えてよ」

カゴを持ち直し、友人は云う。

「このご時世、激しい魔法をいったいどこで使うの?」
「でも、害虫駆除にいるよね?」
「あ、あ~。うん。害虫駆除・・・」

南一族式の魔法

南一族は、とにかく強力な魔法を使える。
強力な魔法は、もちろん、他一族にとって脅威である。

南一族と云う、温厚な一族だからこそ、使えるのでは、と。

だだ、その代償として

ひとつ、問題が。

「呪文が恥ずかしい」

「・・・・・・」

「だから、他の一族は使えないのよ」

「・・・・・・」

「そして、今時の南一族も使えない!!」

呪文を唱えたくないからね。
この魔法、早口で云うと、威力が弱まる。

「なんでなんだろうねぇ」
「神様のいたずら・・・」

オトミと友人は、作業を再開する。

「なんでなんだろうねぇ」
「また!!?」

数時間前の話か。

「なんで、私はそもそも魔法を使えないのか」
「だいぶ、話が戻ったわね」
「ちょっとでも、いいのよ」

オトミが云う。

「私だって、かっこよく魔法使いたい」
「エンドレスよ、オトミ」

そこへ

ちょこちょこちょこ、と現れる
なんか、いろいろと知っていそうな、南一族の老人。

「知りたいか」

「来た!!」

「何が!?」

「ついに、私が旅に出る日が!」
「急に!」

老人とオトミ、友人は、畑の横に腰かける。
作業の合間のお茶タイム。

オトミと友人はお茶を準備し、茶菓子を広げる。

「やった!」
「いや、いつもの、」
「餅の餡子包み!」

3人でお茶をすすり、茶菓子をほお張る。

「代わらない日々だわ~」
ポツリと友人。
「それが、また、よいんだけどねぇ」

「よくはない!」

オトミは立ち上がる。

「教えて、ご老人! 私はいつ旅に出るのかを!」
「おいおい」
「オトミよ」

むしゃむしゃと茶菓子をほお張りながら、老人が云う。

「そなた、なぜ魔法が使えないのか」
「才能がないのかしら」
「なぜ、寝坊癖があるのか」
「うっ・・・!!」
「麦茶とトウモロコシ茶をミックスしたものが、やたらと好物だとか」
「なぜ、それを!」

「そして」

老人は、オトミの手を指さす。

「なぜ、手の平にアザがあるのか」

「・・・アザ?」

それ、今関係あるの? と、オトミは首を傾げる。

「これ、すべて、お前の親に関わることだ」





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