その、差し出された手のひらに
アザがあったことを
彼女は覚えている。
顔はぼんやりとしか、覚えてないけれど、
何かある、彼の記憶。
何気ないことだった。
彼女はそれからも、同じように日々を暮らす。
家族はだれも気付いていない。
たぶん。
畑仕事のあいまに、父親が声をかけてくる。
「嫁ぐか」
「・・・・・・」
「うちのことは気にするな」
「・・・・・・」
「お前の弟に任せるから」
「・・・はい」
話は、それだけ。
彼女は、畑仕事を再開する。
この、いつもの暮らし。
ただ、畑仕事をし、
日が傾けば、家族は先に帰る。
そして
「・・・・・・」
「やあ」
いつもの、西一族。
「私、・・・家を出ることになって」
「ふぅん」
「だから、」
「何?」
「・・・・・・」
「こちらとしては、子どもを生んでくれれば、それで」
いいよ、と、彼は云う。
「でも、この子は・・・」
彼女は、自身のお腹を見る。
父親の言葉は絶対だ。
それでも、嫁ぐまでに、まだ少し時間はある。
どう考えても、
父親は誰なのか、と疑心を抱かれるだろう。
「・・・・・・」
「まさか、おろさないよね?」
「・・・でも、嫁げないわ」
「子どもを大切に」
「・・・・・・」
それは、わかっている。
彼女は、顔をあげる。
そこに、彼はもういない。
彼女は、息を吐く。
お腹の子は、南一族と西一族の子ども。
それは、何もおかしなことではない。
彼女は、畑を離れる。
とぼとぼと、家へと歩き出す。
そして、
その後
生まれた子どもは、別の家へと預けられ
彼女は、予定より遅れて、嫁ぐこととなった。
NEXT
アザがあったことを
彼女は覚えている。
顔はぼんやりとしか、覚えてないけれど、
何かある、彼の記憶。
何気ないことだった。
彼女はそれからも、同じように日々を暮らす。
家族はだれも気付いていない。
たぶん。
畑仕事のあいまに、父親が声をかけてくる。
「嫁ぐか」
「・・・・・・」
「うちのことは気にするな」
「・・・・・・」
「お前の弟に任せるから」
「・・・はい」
話は、それだけ。
彼女は、畑仕事を再開する。
この、いつもの暮らし。
ただ、畑仕事をし、
日が傾けば、家族は先に帰る。
そして
「・・・・・・」
「やあ」
いつもの、西一族。
「私、・・・家を出ることになって」
「ふぅん」
「だから、」
「何?」
「・・・・・・」
「こちらとしては、子どもを生んでくれれば、それで」
いいよ、と、彼は云う。
「でも、この子は・・・」
彼女は、自身のお腹を見る。
父親の言葉は絶対だ。
それでも、嫁ぐまでに、まだ少し時間はある。
どう考えても、
父親は誰なのか、と疑心を抱かれるだろう。
「・・・・・・」
「まさか、おろさないよね?」
「・・・でも、嫁げないわ」
「子どもを大切に」
「・・・・・・」
それは、わかっている。
彼女は、顔をあげる。
そこに、彼はもういない。
彼女は、息を吐く。
お腹の子は、南一族と西一族の子ども。
それは、何もおかしなことではない。
彼女は、畑を離れる。
とぼとぼと、家へと歩き出す。
そして、
その後
生まれた子どもは、別の家へと預けられ
彼女は、予定より遅れて、嫁ぐこととなった。
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