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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」163

2019年07月30日 | 物語「約束の夜」

「うん?」

何が?と状況が掴めていないマサシが
首を傾げる。

「いるって誰が」
「マサシ!!」

危ない、と
腕を引くと、今までマサシが立っていた場所に
吹き矢の針が刺さる。

「え?……は?はぁああ?」

どういう事?と
マサシが思考を巡らせた後
まさか、と満樹に振り返る。

「ええっと、これ、裏一族なわけ!???」
「ご明察」

「今ので静かに眠っていれば
 良かったものの」

残念だ、と
人影が現れる。

「我々としても
 出来れば無傷で連れ帰りたかったのだが」
「今のは眠り薬か?しびれ薬か?」
「砂一族特製だ、手に入れるのも手が掛かるんだよ」

2人を囲むように
1人、また1人、と姿を現す。

「なにこれ、満樹。
 聞いてないんだけど!!」
「悪かった、
 とりあえずこの場を凌がないと」
「ここは広い通りなんだ。
 騒ぎを起こせば人が集まる」

助けを呼べば大丈夫というマサシに
いや、と満樹は答える。

「恐らく人払いの魔法だ」
「………面倒な事を」
「下がっていてくれ。
 こいつらは手段を選ばない」

「いやいや、誤解だよ」

裏一族の1人が言う。

「我々と一緒に来て欲しい。
 素直に着いてきてもらえれば
 悪いようにはしない」

「俺たちが得する様な事があるとは
 到底思えないがな」

「そうだろうか?」

振り下ろされた剣を
短刀で受け止める。

「ぐっ」
「まだまだ、
 こんなもんじゃないぞ」

一人が話しているのか
皆が話しているのか
囲むように声が響く。

「自分一人ろくに魔法が使えず
 困っているのではないか?」
「可哀想に、東一族で惨めな思いをしているだろう」
「知りたくはないか
 魔法を使いこなせる術を」

言葉とともに繰り出される攻撃を
避けながら
反撃の機会を伺う。

「求めるものは全て揃う。
 それこそ命ですら。
 それが裏一族だ」

「黙れ!!」

それに、と
最後にこう付け加える。

「知りたいのではないか。
 自分の生まれの事を」

「くっ!!」

今は裏一族に集中しなくては、と思うが
先ほどの耀の言葉が脳裏をよぎる。

「俺、は」

一瞬。
わずかに、気が逸れた瞬間。

「しまった」
「満樹!!」

短剣を弾き飛ばされ
身構える満樹の前にマサシが飛び出す。

「ダメだ、マサシ」

彼には無理だ、と慌てる満樹の
目の前で
ドッ!!と人と人がぶつかる音がする。

「マサ………あ、れ?」
「ぐっ!!よくも」

弾き飛ばされていたのは
裏一族の方。

まったく、とマサシがため息をつく。

「満樹は
 こういうのにずっと追われているのかい」
「あ、ああ」

「なんだお前!!
 なんだ今のは!?」

ふふんと、マサシは裏一族に振りかえる。

「谷一族独特の武術でね。
 狭い洞窟の中で戦うためにあみだされた
 拳と肘が中心の拳術さ!!」

そして、裏一族を一通り見回すと
最悪、と顔をひそめる。

「こんなやつらが
 ウチの村に潜んでいたなんて
 ゾッとする」

さぁ、

「どこからでも、
 かかってこいやぁあああ!!」

マサシが構える。

おお。おおお、と、満樹は冷や汗をかく。

「マサシ、地声、低っ!!」




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「約束の夜」162

2019年07月26日 | 物語「約束の夜」


「行くか?」

耀が、満樹を見る。

「心配なんだろう?」

満樹は立ち上がる。
頷く。

裏一族は手ごわい。
どんな手を使ってでも、目的は達成させる。

今、裏一族が欲しているだろう、手のひらにアザがある者。
耀が云う通り、マサシもアザがある者だとしたら。
裏一族は、それを把握しているだろう。
おそらく、マサシも狙っているはずだ。

「耀は・・・」
「俺は行かないよ。ここなら安全だし」

にやりと笑う。

「満樹ならひとりで大丈夫なんだろう?」

「・・・・・・」

扉に手をかけ、再度満樹は振り返る。

マサシが心配だ。
勝手にあの場所から動いたことも、後ろめたい。



もし、これで、耀がいなくなってしまったら?
いや、・・・。

「消えないよ」

満樹の心を読んだかのように、耀が云う。

「さっきも話しただろう」
「・・・・・・」
「俺たちは、一緒に行かなければならない、と」

「本当だな?」
「もちろん」
「ここに、」
「そのマサシとやらを連れてくるのを待ってるよ」

満樹は、店の外へと出る。
少しためらいながらも、先ほどの場所へと向かう。

「マサシ!」

「満樹!」

マサシがそこにいる。

「どこに行ってたんだい?」
マサシの手には飲みものが。
「まさか、耀が・・・?」
「ああ、実は、」

満樹は肩で息をする。
何事もなかったようだ。

「驚いたよ。いなかったからさぁ」
「悪い」

満樹は、地面を見る。
ここに残した魔法は、失敗だったのだろうか。

「伝言を残しておいたんだが」
「伝言?」
「ここに魔法で、マサシが来たら発動するようになっていた・・・」

はず。

「魔法?」

マサシは首を傾げる。

「何も気付かなかったよ?」
「そう、か・・・」

云いながらも、満樹は再度、その魔法を見る。

・・・・・・発動した跡が、ある。

「どうしたんだい?」
「いや、何も?」

マサシは飲みものを飲む。

「で。その耀、は、どこに?」
「向こうの店だ」
「へえ。よかったじゃない」
「・・・ああ」
「そこへ行こうか?」
「そうだな」

・・・思い違いか。

満樹はあたりを見る。

何だろう。

先ほどと違って、人気がない。
静かだ。
なぜか、マサシのいないところで、発動していた魔法。
この雰囲気。

「満樹・・・?」

「気を付けろ」

満樹は云う。

「いるぞ」




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「約束の夜」161

2019年07月23日 | 物語「約束の夜」

俺も母親似なんだ、と
耀が呟く。

「京子は幼かったから覚えて無いだろうけど
 俺はあいつの顔を知っている」
「………」
「京子は父親によく似ているよ」

顔立ちだけ、だがな。
そう言う。

「だから、まあ、
 あの谷一族の顔は、
 一周回って笑えるな」

マサシの事を言っているのだと
満樹は気がつく。
場所を変えたのは
そういう理由もあるのだろうか。

「耀は、マサシに会いたくないのか」
「そうだな、
 どうしたものか、とは思うが」

が、と耀は言う。

「一緒に行かないといけないのだろ」
「?」
「お前は俺を京子に会わせたい。
 それに、裏一族に狙われている者同士で
 集まって対策を練りたい、そうじゃないのか?」
「そう、だが」

待て待て、と
満樹は耀の言葉を遮る。
話が繋がらない。

それと、マサシに何の関係が。

気付いていないのか、と
耀が少し驚く。

「あの谷一族も
 このアザを持つ者、だ」

そうやって、
自分の手のひらを見せる。

京子と、ツイナと、満樹と同じ。
それがマサシにも?

耀は満樹達が知らない事を知っている。

「………待って、くれ」

「ここまで話が出そろっても
 まだ、分からないのか?」

それとも、理解することを拒否している?
少し哀れんだような笑みを
耀が見せる。

耀と京子、2人と同じ父親を持つかも知れないマサシ。
その3人に同じアザがある。

それに、マサシが言っていた。
西一族の血が混ざっているから
魔法が使えないのかもしれない、と。

「違う。
 俺にはきちんと東一族の父親が」

アザと、京子達とマサシの関係は別物だ、と。

「本当に、お前と血が繋がっているのか?」
「止めろ!!」

同じアザを持つツイナは
自分の親は誰だか分からないという。

ヨシノの母親のユキノは言っていた。
彼女の父親は西一族だと。

「まあ、ゆっくり理解すればいい」

俺も最初は混乱したさ、と
耀は満樹の肩を叩く。

「それにしても、
 あの谷一族、随分と遅いな」
「え?」
「合流地点にお前が居ないのに
 とうの昔に気付いているはずだが」

満樹が残した伝言に気付いていない。
それならば良い。
けれど、
マサシが同じくアザを持つ者ならば。

「………まさか、裏一族に!?」




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「約束の夜」160

2019年07月19日 | 物語「約束の夜」


「京子は今も、お前を探している」
「だから、京子はどこにいるんだ?」

耀が云う。

「西で、俺の帰りを待っていると云うわけではなさそうだな」
「京子は今、北にいる」
「北に?」
「北で、別の仲間と耀の情報を集めているはずだ」
「・・・別の仲間」

チドリを仲間と呼んでいいのか迷うところではある。

面倒な説明を省きたい。

この、耀が、どれだけ自分の情報を信じてくれるかどうか・・・。

「ふぅん。東一族のお前と京子がねぇ」

耀が、満樹の姿を見る。

「いかにも東一族だな」
「・・・どう云う意味だ?」

耀は鼻で笑う。

あたりを見る。

行きかう人々が、東一族と西一族の姿に気付く。
好奇の目で見ている。

「お前を信じていいのか判断に迷うが、」
耀が云う。
「お前もそうだろう、満樹?」

「・・・・・・」

「場所を変えるか。着いてくるか?」

耀は歩き出す。

「いや、待て」
「何だ」

満樹は耀を止める。

「連れがいる」
「ああ。あの谷一族だろう?」
「もうすぐ戻ってくる。待ちたいんだが」
「俺は、お前とここで長居したくはない」

満樹はあたりを見る。
マサシの姿は、まだ見えない。

「判った、行こう」

満樹は、坐っていた場所に、陣を書く。

紋章術。

「何だ、それは」
「まあ、伝言的なものと云うか」

マサシは、魔法が苦手だと云っていた。
気付かないかもしれない。
伝言をつかさどる、初歩的な紋章術。

「へえ。満樹は魔法が使えるのか」
「・・・一応」

満樹は、耀を見る。

耀はにやりと笑う。
歩き出す。

「こちらへ」

「行きつけでもあるのか」

「まあ、なんだかんだと、谷と北の滞在は長い」
「今まで何を?」

歩きながら、満樹は問う。

「京子の話だと、1年近く連絡が取れなかったと」
「ああ。用事が立て込んでな」
「それでも、家族に連絡はするべきだろう?」
「あんたは連絡を取っているのか?」
「え?」
「東のツトメの途中、何かで時間がかかったとき、連絡はするのか?」
「それは、」

そのとき、その場合にもよる。

が、

確かに満樹は、どちらかと云えば、連絡は入れない方だ。

「・・・・・・」
「な。男には男の事情があるだろう?」
「男の事情・・・」
「家族に下手に心配はかけたくないし」
「連絡を入れない方が、心配するだろう」
「それは満樹、お前もだろう」

耀は、扉に手をかける。

「ここだ」

裏路地にひっそりとたたずむ、喫茶。

「中で話をしよう」

耀は、店主に手を上げる。
店主が頷いたのを確認すると、奥の部屋へと入る。

「慣れてるな」
「ああ。世話になっている。何か飲もう」

耀が先に坐り、満樹も坐る。

「満樹は、相当武芸があるんだな」
「そう思う?」
「俺は西一族だ。普通、敵の一族についてこないよな」
「・・・・・・」
「だから、相当、腕に自信があるんだと」
「それは、耀も?」
「俺も?」
「耀も同じだろう?」
「いや、俺は違うよ」

耀は、水を飲む。

「狩りは割と得意だけど、別にそれ以外は」
「なら、なぜ?」
「東一族の最近の傾向だと、西一族に手を出すことは少ないと」
「・・・・・・」
「そう聞いている」
「そう、か・・・」

耀は満樹を見る。

「お前、俺が本当に、京子の兄だと思うか?」
「え?」
「俺が京子の兄だと」
「そうだな。確かに、京子に似ていると思う」
「そうか。信じてくれるか」

耀は笑う。
云う。

「お前は、母親似なんだな?」
「・・・? 何の話だ?」




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「約束の夜」159

2019年07月16日 | 物語「約束の夜」

「星の巡りはなんとやら、というけれど」

なぁ、とマサシが満樹の肩を叩く。

「満樹の日頃の行いが良いんだろうな」
「いや、
 マサシの見立てが良かったのだろう」

耀についての足がかりが
こんなにあっさりと見つかるとは。

「なんだか
 話しが上手く行きすぎているような」
「ワタシもそう思うけれど、
 ここはいっそ
 泥舟に乗ってみようじゃないか」
「まだ、泥舟と決まった訳では」

さて、と
2人は少し離れた場所に移動し
縁石に腰掛ける。

東一族の満樹が居ては耀が警戒するだろうから
少し離れて様子を見る。

「……頼んだぞ」
「任せてくれ
 彼が来たら教えるよ」
「それにしても、凄いな。
 耀の顔を見たのは一度なんだろ」

自分は割と曖昧な方だと満樹は思う。
他一族の顔なんてなおの事。

この顔どこかで見たことがあるような無いような。
それぐらいなのに。

「さすが、接客業をしている訳だな」
「まぁ、職業云々より、
 好きな顔立ちは覚えやすいからね!!」
「………うん」
「あ!!勘違いしないでおくれよ。
 ワタシはどっちも行ける派だから!!」
「う………うん」

どっちもいけるって
どういう意味合いのどっちもなんだろう、と
思いつつも聴けない満樹だった。

一時間。

二時間。

刻々と時間は過ぎていく。

北一族の村の集合に自分が遅れた時
ずっとカフェで待ちぼうけだった京子、
こんな気持ちだったのか。

「他の店回ってまた来るって
 断るときの常套句じゃない!?」
「止めてくれ。
 何となくそんな気がしていたけれど言わなかった事を!!」

は~~、と
気が抜けてしまう2人。

「何か飲み物でも買ってこよう」
「ついでに食べ物も頼む」
「おまかせあれ。すぐに戻るよ」

そう上手くは行かないか、と
満樹はため息をつき、ふと考える。

いや、ここは
耀の顔が分かるマサシが残り
自分が買い出しに行った方が良かったのでは。

「マサ………」

声を出しかけて止める。
背後に気配。


「振り向くな」


低い声が響く。

周りを行き交う人々は
誰もその様子に気付いていない。

「こんな往来で
 騒ぎを起こしたくないだろう?」

満樹の出方によっては
力に訴えるぞと、
武器を持っている事を示唆する。

背中に当てられているのは
短刀の鞘だろうか。

「どうも俺の事を探っているようだか、
 東一族がなんの用だ?」

まさか。

「………耀、なのか?」
「名前まで知っているとは。
 裏一族の手の者か?」

まぁ、そう思うよな、と
満樹は訂正する。

「京子が、お前を探している。
 俺はこの村を見てくるように頼まれたんだ」

「え?京子が?」

一瞬間の抜けた声が聞こえる。
おそらくそれが素なのだろう。

いや待て、と

「どうしてお前が京子を知っている?
 助けを求めるなら他にいるだろう。
 それをわざわざ東一族に??」

そうだけど、そうなんだけども。
満樹は手のひらの痣を
背後の人物に見せる。

「その痣は」
「偶然一緒になったんだ。
 俺も京子も裏一族に狙われている」

あと、ツイナとか、
ヨシノとか。

「……………」
「とりあえず、俺の話を聞いてくれないか。
 武器を預かってくれてもいい」

「…………分かった」

短刀を収めたのを感じ取り
満樹は改めて振り向く。

「東一族の満樹だ」

マサシが不在な為、
確認は取れないが
改めて顔を見据える。

背は満樹より少し高く、
いかにも西一族という顔立ち。
少し毛先が跳ねた髪と
目元が京子に似ている気がする。

「西一族の、耀、だ。
 京子は今、どこにいる?」

 

 

 

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