TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」185

2017年02月28日 | 物語「水辺ノ夢」

「真都葉、お父さんが出かけるわよ」

あれから一晩が過ぎる。

杏子が声を掛けるが
真都葉は顔を上げない。

「……」

それどころか、
奥の部屋に駆け込んでいく。

「真都葉」
「いいよ、杏子。
 いってきます」

圭は、そのまま家を出る。

いつもは一緒に食べている朝食も
今日は椅子に座ることすら嫌がっていた。

「完全に嫌われたな」

あの鳥が東一族に通じていた訳では無い。
圭も分かっている。

偶然に居着いた、
人に慣れた鳥だった。

こんな暮らしの中で
真都葉や杏子の
なぐさめだったことも知っている。

狩りの一族とは言え
西一族でも
無意味な殺しはしない。
食べるために狩る。

「真都葉が西一族で生きていくために」

その術を教えていけ、と
広司は圭に言っていた。

自分に何が出来ているのか、と
圭は胸を押さえる。

作業小屋に着くが、圭以外の人は居ない。
村人とは時間をずらして使用しているし
むこうも圭とは会わないようにしている。

一人、黙々と作業を続ける。

ここ数日の遅れを取り戻すため、と
他の事で気を紛らわすように。

普段もこれぐらい集中していれば良いのに
と自分でも思うくらい
手早く細工物を仕上げていく。

何か余った材料で
真都葉におもちゃでも。

「痛っ」

ふと、違うことを考えたせいか
使っていた小刀で
指の先を切る。

大した怪我ではない、
血をぬぐい、
自分で処置をする。

手元が暗いと
灯りに手を伸ばし駆けて
圭は窓の外を見る。

「あぁ」

暗いはずだ、
しとしとと音もなく雨が降っている。


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「水辺ノ夢」184

2017年02月24日 | 物語「水辺ノ夢」

日は傾いている。

「わああぁああああ」
「真都葉」

杏子は真都葉を抱きしめる。

「とりさんがぁ!!」

杏子は、すでに閉じられた窓を見る。
真都葉は、杏子の腕の中で泣き叫ぶ。

圭は何も云わず、外へと出る。

「とりさん! とりさん!」
「真都葉・・・」

杏子はそれ以上、何も云えない。

そのまま、日は沈み
夜が更ける。

泣き疲れた真都葉を寝かせ、杏子は居間へと戻る。

圭は、暖炉の前に腰かけている。

「圭・・・」

杏子は、その背中に声をかける。

「なぜ、・・・あんなことを」
「・・・・・・」
「真都葉が大好きだった鳥を・・・」
「・・・・・・」
「圭、」

「杏子」

背を向けたまま、圭は云う。

「あの鳥は、このあたりでは見られない鳥だ」
「・・・・・・?」
「もちろん、杏子や真都葉はそんなつもりじゃないだろうけれど」

はたから見たら、

「杏子が、東の諜報員のように見える」

「え?」

杏子は戸惑う。

「それは、どう云う・・・」

「東一族が動物と話す力を持つことは知られている話だ」
「え? ・・・ええ」
「つまり、杏子が鳥と話していると」
「でも、生き物と話すことが出来るのは、東でも限られた人だけだわ」
「西ではそうは思われない」
「私は、」

圭は立ち上がる。

「西の情報を流していると思われているんだ!」
「そんな、私は」
「わかってる! わかっているけど!!」

圭の口調が強くなる。

「実際に、そう云われているんだ!」

「まさか、・・・」

圭の言葉に、杏子は首を振る。

何も云えない。

「あの鳥は、埋めたよ」

「・・・・・・」
「今後、真都葉とは、あの鳥の話をしないように」
「そう・・・」
「・・・・・・」
「・・・死んでしまったのね」

杏子は、無意識に自身の指を重ねる。

「杏子!」

そのしぐさを、圭は止める。

東一族式の祈り。

「どこで誰が見ているかわからないんだぞ!」
「そんな。圭、」

「気を付けてくれ」

「・・・・・・」

杏子は、圭を見る。

「守りたいんだ」

「圭・・・」

「杏子と真都葉を」



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「水辺ノ夢」183

2017年02月21日 | 物語「水辺ノ夢」

仕事の帰り道。
圭は夕暮れ時の道を一人歩く。

あれから数日経つ。

次に悟に会えば何を言われるのか、と
避けるように行動しているが
特に何かの催促はない。

このまま、事が落ち着く様に
祈る事しか出来ない。

気もそぞろになるので
仕事もはかどらない日が続いている。

「……」

1つため息をつく。
もう自宅も近い、
いつものように過ごさねば。

ふと目を向けると
真都葉が窓から顔を出している。

「真都……」

声を掛けようとして
圭はそれを止める。

真都葉は空を見ている。

「とりさーん」

真都葉が手を振る。
近くの止まり木に
鳥がやって来る。

「良かったわね、真都葉」

真都葉が窓から顔を出せたのは
杏子が抱き上げていたから。
二人は、嬉しそうに鳥を見上げている。

圭の頭が真っ白になる。

「あら、おかえり、……圭!?」

圭はただいまの言葉もなく、
家の中へ駆け込む。
驚く杏子を横目に奥の納戸へ向かう。

自然と足音やドアの開け閉めが大きくなり
杏子は真都葉を下ろし、
圭の後を追う。

「そんな物、何に」

圭はボウガンを取り出す。
祖母がかつて狩りで使っていた品。
圭も一度だけの狩りに持って行った事がある。

「真都葉を離れた所に」

圭はそれだけ杏子に告げ、
窓を開ける。

「とう?」
「圭、まさか」

圭はボウガンを構える。
矢は鳥に向いている。

「止めて圭!!」

杏子の声も聞こえない。
ただ、驚くほど静かに
圭は狙いを定める。

あの鳥さえ居なければ。

矢が、放たれる。

「なんてこと」

そんな杏子のつぶやきと共に
真都葉の泣き声が響く。



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「水辺ノ夢」182

2017年02月17日 | 物語「水辺ノ夢」

「かあ!」

「真都葉!」

家の中に入ってきた真都葉を、杏子は抱きしめる。

「真都葉、大丈夫?」
「これねー」

真都葉は、腕を見せる。

「いたかったの」
「そう。痛かったの」
「いたくないの」

杏子は頷く。

「まつばへいき!」

杏子は微笑む。

「よかったわ」

圭は病院から持ち帰ってきた荷物をおろす。
ふたりの様子を見守る。

「いいにおい」
「お腹が空いたのね」
「かあ、ごはん?」
「真都葉の好きなものがあるわよ」
「まめ?」
「そうよ」

うわああああああ! と、真都葉は喜び、台所へと走る。

「真都葉、危ないわ!」

杏子は慌てて、真都葉を追う。

杏子が食卓の準備をし、3人で席に着く。

「いただきまーす!」

「真都葉、ゆっくり食べなさい」
「いっぱいたべるとねー、いたいのなおるの」
「そうか」
「たくさん食べなさいね」
「ほら、真都葉お肉も」
「圭。真都葉にお肉は大丈夫かしら・・・」
「杏子はいつも心配しすぎ。大丈夫だって」

真都葉が食べる様子を見守りながら、圭と杏子も食事をとる。

「かあ、おいひぃ」
「おいしいわね」
「はやくりんご!」
「ご飯を食べてからよ」
「ねえ、かあ」
「なあに?」

杏子は、真都葉の口元を拭う。

「とりさん、ないてた?」
「え?」
「おともだちとりさん」
「鳥さんが?」
「ないてたの?」
「泣いていたって、・・・なぜ?」
「まつばいなかったから」
「ああ、そうね」

杏子が云う。

「真都葉に会えなくて淋しいと云っていたわ」
「まつばもさびひぃ」
「真都葉ったら、口からこぼれてるわ」

ふと、

杏子は、圭を見る。
圭の手が止まっている。

「圭?」
「・・・・・・」
「圭、どうしたの?」
「え?」
「食事が冷めてしまうわ」
「あ、・・・ああ。ごめん」

杏子が首を傾げる。

「何か考えごと?」
「いや・・・」
「真都葉なら大丈夫よ」
杏子が云う。
「もし、怪我のことを気にしているのなら、」
「いや、うん。ごめん」

圭は食事を再開する。

杏子は再度、首を傾げる。

「まつばあしたね、とりさんにあうね」

真都葉は、リンゴをほお張る。



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「水辺ノ夢」181

2017年02月14日 | 物語「水辺ノ夢」

「……圭?」

杏子が振り返らないように
圭は強く杏子を抱きしめる。

不安な表情をしているであろう自分の顔を
見られる訳にはいかない。

「なにか、あったの?」
「いや」

杏子はまだ知らない。
真都葉の怪我の本当の原因。
悟の言葉。

伝えるべきか圭は悩む。

それでも、
真都葉が帰ってくる事を喜ぶ杏子を
落ち込ませるような事はしたくない。

少なくとも今だけは。

「本当に何でもないんだ」

圭は離れて笑顔を見せる。

「それじゃあ、
 病院に戻るよ」
「……圭」
「夕食は俺の好物もあると嬉しいな」

後ろ手に扉を閉めて、
圭は自宅を離れる。

何事も無いように歩き、
家が見えなくなると道を逸れ、水辺に向かう。
船着場の近くで圭は立ち止まる。

ここから一人舟を漕ぎ、
東一族の岸辺に行ったのが
とても昔の事のように思える。

今日は天気が良く
対岸の岸辺を見ることが出来る。

杏子はあそこで暮らしていた。

あの時二人が出会わなければ
今は互いにどうしていたのだろう。

「さっきは、
 上手く笑えていたかな」

杏子の事だ、
誤魔化したとは言え、
圭の様子がおかしい事には気づいただろう。

「………」

悪い偶然が重なっただけ。

これ以上何も出来ない、と考えないようにしているが、
1つだけ、ある。
悟が言うのはそう言う事だろう。

圭が杏子を追い出した所で
西一族から出ることが出来ない
杏子に行く先は無い。


つまりは、殺せという事。


「大丈夫。
 ただの警告だ」

圭は自分に言い聞かせるように呟く。

このまま大人しく
静かに過ごしていれば
悟の考えも変わるだろう。

「だから、大丈夫、だ」

一人で抱えるには重すぎる。
でも、決して杏子には言えない。
不安にさせたく無い。

誰に相談すれば良いのだろう、と
圭は頭を抱える。



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