TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」202

2020年02月28日 | 物語「約束の夜」
彼女は、山一族のハラ家の出身だった。

ハラ家は、山一族の占師家系と云われ、
一族のありとあらゆる事柄を、占いで決定する力を持っている。

その家系内はイ・ロ・ハで区別され
それぞれ、厳格なる立場が決められている。

彼女は「ハ」。

つまり、一番下。

例え能力があろうとも、「イ」より上に立つことは出来ない。
逆らうことも出来ない。
やらされるのは、雑用のようなことばかり。

だから

「はーあ、つまんない」

ユキノ=ハ=ハラは、水汲み用の桶を転がす。

川の横に坐る。
ついでに、寝そべる。

気持ちの良い風。
川の流れる音。
鳥の鳴き声。

天気もばっちり。

「寝れるわ・・・」

「寝るのか」

「ええ・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「誰っ!!?」

はぁっ!! と、彼女は起き上がる。
水汲みに来ていたのは、自分だけだ。

てことは

「ばれた! さぼっているのばれた!!」

お許しを~、と、彼女は手を合わせる。

「はぁあああ、申し訳ありませぬ~」
「それ、本当に反省してる?」

彼は首を傾げる。

彼女は顔を上げる。

「するなら、ちゃんと反省しな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・え、誰??」

2回目。

「俺?」
「あなた」
「俺は」
「もしや、山一族じゃない?」
「そう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「何さ、謝って損した!」

彼女はごろんと寝転ぶ。

さぼり続行。

「いいの、それ?」
「いいの」

あっち行ってよ、と、彼女は手をひらひらさせる。

「山一族の村に用なら、この道まっすぐだから」
「あ、そう」
「私がさぼってるの内緒で」
「・・・・・・」
「じゃ、おやすみ!」

他一族の彼は、その場に立ち尽くす。

やがて、ひゅーひゅーと、寝息が聞こえる。

「なんて、無防備・・・」

気持ちの良い風。
川の流れる音。
鳥の鳴き声。

天気もばっちり。

そして

日も

次第に傾きだす。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「あっ、やばい!」

彼女は口元を拭いながら、がばっと起き上がる。

「私の大事な植物ちゃんに肥料やりしなきゃ!!」
「水汲みじゃないんかい!!」




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「約束の夜」201

2020年02月25日 | 物語「約束の夜」

満樹は混血である、と、云うこと。

東一族のほとんどは、その事実を知らない。
けれども、父親の地位が下がった、と云うことは

知っているのだ。

いわゆる、上の者、は。

「母さんは、なぜ・・・」
「判らない」
「・・・・・・」
「あるとき、北一族の村へと出かけて行った」
「北、に」
「帰る予定の時刻になっても、戻らない」
「・・・・・・」
「見つかったのは、1週間後だ」
「1週間?」
「そう」

父親は頷く。

「憔悴していた」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それで、母さんは、」

「それこそ、皆は知らないが」

正確には、上の一部の者以外は、

「数か月して、妊娠していることが判った」

「・・・・・・」

「北で、・・・」

「まさか」

満樹は息をのむ。

「他一族に?」

満樹は父親を見る。
父親は、どこか遠くを見ている。

「蒼子は、死にたいと、・・・云っていた」

「父さん」

満樹は云う。

「その、お腹の子と云うのは」
「お前だ」

その言葉に、満樹は手を握りしめる。

認めたくはないけれど、
そうだろうと、思っていた。

「俺は、父さんの子ではない?」
「・・・・・・」
「純粋な、東一族ではない?」

「そうだ」

「おれは、・・・」

満樹はうつむく。

「何か、・・・夢を、見ている・・・?」

父親は頷く。

「そうだろうな」
云う。
「お前の父親は、本当のことを、お前に話すつもりはなかっただろうよ」

「あんたは、・・・誰なんだ」

そこにいるのは、満樹の父親。
でも
何かが違う。

「ここは、どこだ?」

東一族の村。
でも、
何かが違う。

「満樹」

満樹の目の前にいる者が云う。

「お前の父親は、西一族だ」
「・・・・・・」
「血のつながったと云う意味では」
「俺の父さんは、東一族の安樹だ」
「お前は、お前の父親のために生まれてきたんだよ」

満樹の目の前にいる者が云う。

「その運命を全うするか?」
「・・・・・・」
「どうする?」
「・・・・・・」

満樹は首を振る。

「それは、いやだ」




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「約束の夜」200

2020年02月21日 | 物語「約束の夜」

満樹は父親を見る。

父親は、持っていた占術師の道具を置く。
細かいものと、杖。

ずっと使っているものなのだろう。
道具は、旧い。

満樹の視線に気付き、父親は云う。

「ずいぶんと旧いだろう」
「ああ」
「代々使われていたものだからな」
「・・・そう」
「せっかく受け継いだのに、」
「・・・・・・」

「お前の祖父には、ずいぶんとがっかりされて・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「父さん」

満樹は云う。

「前々から、聞きたかったのだけど、・・・」
「何だ」
「その、」

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「食べるか」

父親は、運ばれてきた食事に、手を伸ばす。

満樹は、食事を見つめる。

「お前の母親と、ここに来ていたんだ」
「この店に?」
「そう」

父親が頷く。

「まだ、ふたりのころに」

子である満樹が、生まれる前、と云うことだ。

「今でこそ、家にいることが多いが、昔はよく外を歩いていた」
「母さんが?」
「家にこもっている今では、想像もつかないだろう」

満樹は、父親を見る。
確かに、母親は家にいる。
外出するのは、年に何度もない。

「父さんと母さんはいったい・・・」
「成人の儀の前に、だ」
「うん」
「ひとりずつ今後を視てもらうのを覚えているか」
「ああ」

父親は話し出す。

東一族は成人する前に、占術師に啓示のようなものを受ける。
全員が、それぞれ。
満樹も数年前のことだ。記憶はある。

「当時の占術大師に、こう云われた」

「何と?」

「結婚する相手を選べ、と」

「・・・・・・?」

「それで、先の人生が決まるだろう、とな」
「それはどう云う?」
「そのときは判らなかった」
「・・・・・・」
「こんなにも、自身の地位が下がる、とは」
「・・・・・・」

それは

「祖父にがっかりされたと云うのも・・・」

そして

「母さんが、周りの目を避けているのも、」

「母親も、似たようなことを云われた」
「似たようなこと?」
「結婚は避けた方がいい、とな」

「・・・・・・」

皆と同じ、普通の東一族

とは

少し違う、家庭なような気はしていた。

でも、周りの知人は何も気には留めないし
自身も、気付かないふりをしていた。

「・・・父さん」

つまり

自分は

「混血と云うこと・・・?」





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「約束の夜」199

2020年02月18日 | 物語「約束の夜」
「あ、れ・・・?」

満樹ははっとする。

「ここ、は?」

東一族の村。

いつも通りの、景色。

「・・・・・・?」

満樹は首を傾げる。
何だろう。
腑に落ちない。


「おい、満樹!」

誰かが声をかけてくる。

「今夜、務めだろう」
「ああ・・・?」
「少し休んでおけよ」
「判って、る」

その背中を見送って、満樹は立ち上がる。
あたりを見る。

歩き出す。

見知った道。

満樹は歩く。

なぜここにいるのか。
何をしていたのか。

思い出せない。
ぼんやりとした、頭。

とにかく、一旦、帰ろう。
日が落ちたら、務めの前に、大将のもとへと行かなければならない。

途中、満樹は屋敷の横を通る。
東一族宗主の屋敷。

ここで、若い東一族は鍛錬を積み、課業に参加する。
満樹もそうだ。
幼いころから参加し、今も、戦術師として自身を高めるために。

満樹は同じ敷地内の、別の建物を見る。

そこは、戦術大師がいる、東一族守りの要の場所。
占術大師が占いを行う、場所。

満樹の父親は、占術師としてここにいる。
その務めを果たしている。

誰だったかに聞いた。

満樹の父親は、高等な占術師の家系だったと。
占術大師に抜擢されるほどの力を、持っている、と。

けれども、今

占術師として、父親の地位は高くない。
それがなぜなのか、は、誰も知らない。
聞いてはいけない、の、だろう。

占術師としての力は、魔法の苦手な満樹には恵まれなかった。

父親の能力は、ここで絶える。

と、

「父さん・・・?」

目の前に、父親がいる。

「いつの間に・・・?」
「どうした?」
「いや、・・・何も」
「調子でも悪いのか」
「そんなことはないけど・・・」

父親は首を傾げる。

「務めは終わったのか」
「務めは今夜だから」
「なら、一度帰るのだな」
「そう」

ふたりは歩き出す。

「ずいぶんと久しぶりだな」
「・・・そんな気がする」
「市場にでも行くか」
「市場?」
「食事に」
「・・・・・・」
「どうだ?」
「いいけど」

市場に着くと、父親はいつもの店へと入る。
そう、同じ店。
父親が行くのは、ここだけ。

この店が好きなのか、と、満樹は店を見る。

席に坐ると、父親は料理を頼む。
飲みものも。

満樹は、同じものを食べようと、料理が運ばれてくるのを待つ。




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「約束の夜」198

2020年02月14日 | 物語「約束の夜」
裏路地を歩きながら
少年は問いかける。

「何か、用事があったのでは無いの?」

彼女を探しているのだと
彼は言っていた。

「もういいさ」

自分のせいで、と少年は俯く。

「用件は済んだ」

だから構うなと彼は言う。

「…………」
「…………」

「行かなければよかった、と思うか」

立ち止まり、
彼は少年に振り返る。

「このまま、知らないままであれば
 こんな思いをする事も無かったと
 そう思うか?」

「…………」

少年は首を振る。

そんな事はない。

そうか、と彼は頷く。

「さて、どうする
 谷一族の村に戻るか?」

「…………」
「うん?」

「連れて行ってくれると
 あなたは言った」

そりゃそうだが、と彼は言う。

「本当は、母親のところに
 置いてくるつもりだったんだか」

こんな状況になってしまって、という負い目も無いことは無い。

「俺はお前を利用するぞ」

構わない、と少年は頷く。

「覚悟はある、と」

再度頷く。

面白い、と彼は笑う。

「ならば、魔法の指導も、暮らしも
 俺が与えられる物は全て与えてやろう」

少年は
どうだ?と差し出された手を取る。

「行くか、ええっとナシだったかな?」

少年は横に首を振る。

「お、違ったか?」

聞き違えていたのか、
一族が違うと名前も聞き慣れない。

「ナナシ、だよ」

「ナナ………ああ」

名無し、か、と
彼は気付く。

「みんなそう呼ぶ。
 あなたも好きに呼べばよい」

「それじゃあ、そうだな」

彼は言う。

「千鳥、と言うのはどうだ?」

「チドリ?」

「俺の名前から一文字やろう。
 それとも北一族風の名前が良いか?」

いいや、と首を振り
チドリ、チドリ、と
少年はその名を呟く。

そしてふと、彼を見上げる。

「あなたは」

少年は問いかける。

「俺の父親なのか?」

「そう思うか?」
「わからない」

どちらかというと
父親とは違う存在で
あって欲しいような気もする。

「どれだってよいさ、
 お前が父親が良いと言えば父親を演じるし、
 相棒が良いと言えばそうしよう」

それはチドリが幼い頃の話。

少し時が経ってから
一人であの路地に行って見た事がある。

そこに人は住んで居らず
もちろん彼女の姿も見当たらない。

どこかに行ったのだろうか。

それとも、

本当は彼女は母親なんかではなく、
全てが彼の仕組んだ事だったかもしれない。

「まあ、いいよ」

チドリは呟く。

「全部、もう終わった話だ」





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