TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」54

2014年02月28日 | 物語「水辺ノ夢」
圭が、狩りに出かけた日から、何日たったのだろう。

圭は、頻繁に外へ出かけていく。
祖母の見舞いに行くためだ。

杏子はその話を聞いているので、ただ、家で待つ。

布を取り出し、裁縫をする。
たまに、手を休め、片方の手を見る。

そこに、圭がつけてくれた水晶のブレスレッドがある。

杏子はそれを見て、また、作業を再開する。

「杏子!」

ふと呼ばれて、杏子は慌てて、振り返る。

そこに、圭がいる。
「圭」
「ただいま」
「おかえりなさい」
杏子が微笑み、云う。
「驚いた。もうそんな時間なのね」
窓を見ると、辺りは、暗くなってきている。

圭は、野菜を取り出し、杏子に見せる。

「ほら、野菜」
圭が、杏子に野菜を渡す。
「病院の帰りに、畑に寄って、とって来たよ」
「ありがとう」
杏子は、裁縫の道具をしまう。
明かりをつける。
野菜を持って、立ち上がる。
「夕飯作るから、待っていてもらってもいい?」

杏子が台所に行くのを見て、圭は坐る。

杏子がテーブルにともした、明かりを見る。

祖母が体調を崩し、病院生活をするようになってから
たったひとりで、暮らしていた家。

そこに、

別の誰かがいると云うことに、今更ながら、不思議な感じがして、
圭は、少しだけ、顔がゆるむ。
これが、いつか、当たり前、に、なる日が来るのだろう。

料理を運んできた杏子の腕を、圭はちらりと見る。

「どうしたの、圭?」

杏子が、首を傾げる。
「いや、なんでもっ」
慌てる圭に、杏子は、笑う。

杏子が、料理を全部並べ、席に着く。
食事をとる。

杏子が云う。
「明日も、病院?」
圭は、食べながら、頷く。
「そのつもり」
「わかった。気を付けてね」

杏子は、圭を見る。

「ねえ、圭」
「何?」
「紙を、少しもらってもよい?」
「紙?」
圭は、食事をしていた手を止める。

「紙って、・・・何に使うの?」

「それは、」

杏子は少し考えて、云う。

「手紙を書きたいな、と、思って」



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「水辺ノ夢」53

2014年02月25日 | 物語「水辺ノ夢」

早朝、圭は家に戻る。

高子が言ったように、傷口から菌が入っていたのか
わずかな熱とだるさがあった。
朝になると薬が効いたのか、熱が引いていたので、すぐに病院を出た。

この時間だから杏子はまだ寝ているだろう。
高子が説明はしておくと言っていたが
どう伝わっているのか、
自分からは、どう説明しよう、と圭は扉を開く。

「っ!!圭!!?」
「わ!!……杏子??」

同じくドアを開こうとした杏子とぶつかりそうになる。

「昨日お医者様が来られて、圭がケガしたって。
 私も行こうと思ったのだけど、家で待っていろって」

足音で分かって出てきてくれたのだろうか。
圭の右腕に巻かれた包帯に、顔を青くする。

「痛む?ねぇ、とりあえず立っていないで座って」
「大丈夫だって。大げさなんだ、ちょっとかすったくらいなのに」

この様子じゃ寝ていないな、と圭は思う。

「ごめん心配かけて。でも、もう平気だから」

「平気だなんて、怪我をして入院までしたのに。
 圭、無理しないで……」

心配をさせてしまった。と、後悔する。

「上手くやるつもりだったんだ。出来なかったけど」

杏子にとっては、自分はこの一族で唯一頼る相手だ。
敵対するこの村で、仕方なく、圭しか相手がいないから。
でも、
それでも杏子は自分の事を心配してくれると
圭はわかっていた。

「杏子、これ」

圭はブレスレットを差し出す。
手編みの簡単な作りの物だ。

「これ、水晶ね。どうしたの?」

「昨日の狩りの時、獲物のお腹から出てきたんだ」

その言葉に杏子は引きつった表情になる。
圭は慌てて言う。

「きちんと洗って磨いたよ!!」
「……そうじゃなくて、ちょっとびっくりして」

狩りをしない一族だから、反応が過剰なのだろうと圭は少しおかしくなる。

「珍しい物だから、お守りになるんだって。
 だから、作った。昨日」
「え?昨日?」
「入院中に」

杏子は小さくふき出した。

「ダメじゃない、寝てないと」

ここに来て、こうやって笑ってくれたことが何度あっただろう、と
圭は思う。

あと、何回、こうやって笑ってくれるんだろうと。

「これは杏子に」
「……くれるの?ありがとう」
「杏子、あのさ」
「なぁに?」

本当は昨日、狩りを無事終えて、
帰ってきてから言うつもりだった。

「杏子は、東一族だから、
 きっと、いつか向こうに帰ってしまうのだろうけど」

「……圭?」


「その日まで俺の妻として、傍にいてくれないか?」



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「水辺ノ夢」52

2014年02月21日 | 物語「水辺ノ夢」

雨が、降り続いている。

透に支えられて、圭は西一族の村に戻る。

その様子に、先に狩りから引き揚げていた若者たちが、何事かとざわつく。

「広司!」
そのひとりが、にやにやしながら、広司に声をかける。
「大変だったな」
広司は何も云わず、抱えてきた獲物の肉を下ろす。

沢子が云う。
「私と広司で肉は運ぶから、そのまま病院へ向かいなさいな」
透は頷き、云う。
「圭、大丈夫か? 行くぞ」

圭と透は、ざわつく広場を後にし、病院へとたどり着く。

「まあまあ!」
慌ててきた高子が、声を上げる。
「圭も狩りに行ったの?」
「そう」
圭の代わりに、透が答える。
「圭を、頼んでもいい? 俺、広場に戻るから」
「いいわよ」
高子は、圭の腕をとる。

中へと、連れ立って歩く。

「無茶したのね」
高子が云う。
「ケガしたのは、右腕だけ?」
圭が頷く。
「仕方なかったんだ・・・」
「そう」

診察室のベッドに、圭を案内すると、高子は道具を準備する。
「傷は浅いけれど、今日はここで、休んでいって」
「え?」
軽く手当をして、帰れると思っていた圭は、上半身を起こす。
「でも、俺、帰らなくちゃ」
「様子見よ」
高子が云う。
「だって、獣にやられたんでしょう? 浅い傷口からでも、怖い病原菌は入るのよ」
「病原菌・・・」
「クロストリジウム、とかさ」
「くろすと・・・」
聞きなれない単語に、圭はうなだれる。
「なんとか、帰れないかな?」
「意識がはっきりしたまま、神経毒に苦しめられるわよ」
云いながら、高子は、圭の腕の手当てをする。
「たった1日じゃない」
「でも・・・」
「何かあったら、元も子もないわ」
高子が云う。
「あなたは、あなたの事情で、狩りに出たんでしょう?」
圭は頷く。
「じゃあ、安静に!」
最後に、注射をすると、高子は、圭の肩をたたく。
云う。
「あの子には、伝えておくわ」
圭は、目をつむる。

もう片方の手に持つ水晶を、握りしめる。


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「水辺ノ夢」51

2014年02月18日 | 物語「水辺ノ夢」

雨が当たる感覚で圭は目を開ける。

「お、目を覚ましたみたいだな?」

透が圭を覗き込んでいる。
「広司!!圭が起きたよ!!」
沢子の声も聞こえる。
気を失っていたのだと分かり圭は飛び起きる。
「……俺?どれくらい?」
見回すと場所は変わっていないようだ。
「そんなに時間は経っていないぞ。
 でも雨が降り始めたらから急いで帰ろう。立てるか?」
透が差し出した手を取ろうと右腕を上げかけて
痛みに思わず顔をしかめる。
「傷も少し深いみたいだ。
 帰ったら高子医師(せんせい)に診てもらえ」

雨に濡れながら、広司は3人のそばで荷物をまとめ始める。
その様子を見ながら圭は透に尋ねる。
「獲物は?」
「あの大きさだとちょっと運べないからな。
 天気が良ければ後から人数を集めて取りに来るんだが」
「今日は捌いたものを。運べる分だけ持ち帰るのよ」

立ち上がった圭に広司が近寄る。

「持て、お前も分担だ」

手渡された物を何とか左手で支えながら、圭は言う。

「みんな。……俺、迷惑をかけてしまって」


「狩りでの失敗は誰でもある」


圭を見据えて、広司が言う。
「……広司」
「だが、狩りのたび倒れられては、そうだな、迷惑だ!!」

「おい、広司!!」
透が止めるが広司はそのまま続ける。
「本当の事だ。
 獲物が倒れたくらいで気を抜きやがって。
 本当に危なかったのは透や沢子だ。分かっているのか」
広司の言葉は圭に刺さる。
「……分かっている」

「なら、もう狩りに参加するなんて言い出さないことだな」

そのまま、広司は歩き出す。
透と沢子は困ったように顔を見合わせていたが
肩を叩き、圭を促す。
「俺たちは大丈夫だから。広司に続こう。雨が強くなる」

「それにしても大きかったな」
「他の奴らの狩りで、上から追われて来たのかもしれないな」

広司と透の会話を聞きながら山を下る。
きっと今もペースを合わせてくれているのだろう。
圭は髪を伝って落ちる雫を見ながら思う。

迷惑はかけたくなかったのに。
そんなつもりは無くても、結果的には足を引っ張ってしまった。

行きと同じように圭の後ろを歩いていた沢子が声をかける。
「ねぇ、圭。これあげる」
沢子が差し出したものを受け取る。

「獲物のお腹から出てきたの。
 たまに、こういうのを飲み込んでいたりするの。
 狩りの記念に、お守りにするんだよ」

手のひらの物を圭は見つめる。

「……これ、水晶か」



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「水辺ノ夢」50

2014年02月14日 | 物語「水辺ノ夢」
初めて動く獲物を見た圭は
身を震わせる。
透の言葉からすると、予想より大きな獲物らしい。
広司と無言で合図を交わして沢子がボウガンを持ち上げる。
続かなければ、と圭も慌てて構える。

獲物はしばらく辺りを見回していたが、
川の水を飲もうと、動きを止めかがみ込む。

自分の位置からは狙いにくい、と、
圭は続く岩場を横に移動する。
真横に行けば少しは狙いやすくなる。

「圭、そっちはダメだ!!風上になる!!」

透の声が響くより早く、獲物が圭を見つける。
しまった、と思った時には飛びかかってくる。
ボウガンを撃つが、当たりが浅い。
まずい、と思わず動きを止めてしまった圭に広司が叫ぶ。

「避けろ!!」

間近に迫っていた獲物に背を向けないよう後ろに下がる。
そこに、沢子がボウガンから放った矢が打ち込まれ、
獲物の動きをひるませる。

距離を取った圭が見上げると
タイミングを合わせて広司と透が獲物に飛びかかっていた。

「圭、大丈夫!?」
いつの間に近くに来たのか、沢子がそばに立っている。
息苦しい、と圭は思わず座り込む。
「先走った。……ごめん」
ボウガンと視線の先を獲物に向けたまま沢子が言う。
「そんな事より、腕は大丈夫なの!?」
「え?」
言われて自分に視線を向けると、
右腕から血が出ている。必死で気が付かなかったが
避けた時に間に合いきれず、牙にでもかすってしまったのだろう。
「あ、やった!!倒したわ!!」
圭にも倒れ込む獲物が見えた。

「…………やった、のか」

そこで圭の景色が反転した。


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