TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」16

2013年09月27日 | 物語「水辺ノ夢」

村の、
少しだけ小高い、丘に登る。
湖は、見えるだろうか、と。

けれども、その方向には、木々が生い茂っている。

湖は、見えない。

杏子は空を見上げる。
雲ひとつない、空。

「杏子姉さん」
彼女が云う。
「大兄(おおにい)さんから、預かっていたものがあるの」
「光から?」
振り返ると、そこに、光の妹。

梨子(りんこ)。

「ええ。今、ここにはないのだけれども」
梨子が云う。
「渡してほしいって。その・・・」
梨子は、杏子から目をそらして、云う。
「大兄さんが。その、前日に・・・」

杏子は、梨子に近寄る。

「梨子・・・、つらいのは、私だけではなくて」
杏子が云う。
「あなたたち家族もそうなのに、ごめんなさい」
杏子はうつむく。
「気を、使わせてしまうわね。あなたにも、佳院にも」

梨子は、首を振る。

「私たちは、平気よ。杏子姉さん」
云う。
「今度、大兄さんからの預かりもの、渡すね」

杏子と梨子は、連れ立って歩き出す。

梨子が訊く。
「大兄さんのお葬式の日。姉さんはどこにいたの?」
梨子は、杏子を見る。
「姿を見なかったわ」
「ええ」
杏子が云う。
「ちょっと、遠出」
「遠出?」
梨子は、首を傾げる。

東一族の女性は、村の外へ、ほとんど出ない。

「いったいどこへ?」
「さあ」
杏子は笑う。
「どこだったかしら」
云う。
「はじめての場所だったわ」
続けて。
「ちょうど、東一族とは反対の」
「杏子姉さん」
思わず、梨子は口をはさむ。
「それ、冗談?」
杏子は梨子を見る。再度、笑う。

「そうね。夢でも、見ていたのかしら」

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「水辺ノ夢」15

2013年09月24日 | 物語「水辺ノ夢」
圭は村に入る。

自分の家を通り過ぎ、村の奥へと進む。

朝早いが、狩りの翌日と言うことで
広場には人が集まっている。

「すみません、ウチの分の肉は」

その場を取り仕切る村人に尋ねる。

「あぁ、圭か。
 取り分けた肉は、あちらにまとめてあるよ」

村人は川辺を指さす。

そちらに歩き出す圭に、村人が声をかける。

「ばあさんによろしく伝えて置いてくれ」

川辺には広司が居る。
つまり、その獲物は広司が仕留めたと言うことになる。

「……ウチの分の肉は」

広司は何も答えない。
圭は積まれた肉を一塊掴む。

「ありがとうございます」

言う。
狩りで得たものは、等しく村人に分けられる。
その恩恵は分かっているつもりだ。

背を向けた圭に広司が言う。

「留守番、ごくろうさん」

皮肉だ。

「……っ」

圭は、足早に広場を去る。

家に帰るが、誰も居ない。
自分の部屋に行き、ベットに倒れ込む。
よく考えると昨晩は寝ていない。

「あぁ、そうだ、薬を貰いに行かないと」

そう呟きながらも、圭は深い眠りに落ちる。



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「水辺ノ夢」14

2013年09月20日 | 物語「水辺ノ夢」

墓地。

杏子は、目の前のお墓を見つめる。
風が、吹く。

「光・・・」
杏子は、云う。
「ただいま」

彼は、何も云わない。

「昨日の葬式には、姿を見せなかったな」
「ええ」
「なぜ?」
後ろからかけられる声に、杏子は答える。
「さあ。・・・なぜだろう」
彼女は、振り返らない。
振り返らなくても、誰だか、わかっているから。

光の弟。

佳院(かいん)。

杏子が云う。
「光とのお別れが、信じられなかったから、かな」
佳院は、何も云わない。
杏子は、光の墓を見つめる。

時間だけが過ぎる。

やがて、日が傾きだす。

佳院が云う。
「光の兄さんは、もう、いない」
「ええ」
杏子は振り返る。
「わかってる」
云う。
「なんだか、居場所を失ってしまった感じ」

微笑む。
哀しげに。

「杏子・・・」

「ごめんなさい。佳院」

杏子が云う。
「この哀しみを忘れるには、とても時間がかかりそうだわ」
佳院は、杏子を見る。

杏子は、彼から目をそらす。
歩き出す。

墓地を後にする。

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「水辺ノ夢」13

2013年09月17日 | 物語「水辺ノ夢」
圭はしばらく杏子の姿を見送った後
岸から舟を離した。

「……俺は、何もしていない」

ゆっくりと、舟を進める。
西一族の村に向かって。

「気の利いた言葉でも
かけてあげられたら良かったけれど」

随分と漕いでから、
東一族の岸辺を振り返る。

「頑張って、か」

杏子の姿は、もちろん、もう見えない。

「ありがとう、を言うのは、俺の方だったな」

圭は自分の腕を見つめる。

杏子と会う前から、
何かが変わった訳では無い。
相変わらず、頼りない腕が並ぶ。

狩りには、もちろん行けない。

でも。

「……ありがとう、杏子」

舟はやがて西一族の村へ辿り着く。

朝日が昇り始める。



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「水辺ノ夢」12

2013年09月13日 | 物語「水辺ノ夢」

杏子は、舟を降りる。

空を見上げる。
月だけが、そこにある。

杏子は、圭を見る。
彼と、目が合う。
云う。
「ありがとう」

圭は、何も云わない。

「圭の、家族の方に迷惑をかけてしまったね」
再度、杏子が云う。
「ありがとう」
圭はただ、杏子を見ている。頷く。

「私、もう少しだけ、頑張ってみる」
「・・・え?」

杏子の言葉に、圭は、目を見開く。

「もう少しだけ・・・、頑張ってみる」

「うん」

「圭も頑張ってね。あなたの村で」
杏子は云う。
「本当にありがとう。さようなら」

杏子は、もう一度、圭を見る。

そのまま、背を向け、歩き出す。
東一族の村へ。



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