TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」250

2020年10月30日 | 物語「約束の夜」

「約束の夜」


西一族

 京子

 耀

 文子
 美和子
 向
 巧
 華
 悟
 広司
 圭


東一族

 満樹

 蒼子
 安樹
 光院
 佳院
 成院
 戒院
 大樹
 俊樹
 水樹
 篤子
 晴子


海一族

 ツイナ
 
 ミツグ
 カンナ
 イサシ(司祭)


山一族

 ヨシノ

 ユキノ


谷一族

 マサシ


砂一族

 ノギ

 ナタ
 ケヤ
 フキ


南一族

 オトミ

 アスカ
 ヤヨイ
 マジダ
 モモヤ
 アヅチ


北一族

 チドリ


その他

 セン

 翼

他、関係者の皆様


制作、監修、配信:TOBA(上原ともえ&ばしょ)

SpecialShanks:約束の夜を見て頂いた皆様






誰かが、広い畦道を歩いている。

ただ、ひとり。
 
それは

どこへ向っているのだろう。
何か決められた場所へ、なのか
目的もなくふらふら、なのか 

もしかしたら

誰かとの約束、なのかもしれない。

その背中はやがて、見えなくなる。

どうなったのか
誰も知らない。
気付かない。

その先に

何かを表すかのように、一筋の光。

その誰かはひとり、だったが
その誰かを継ぐ者は、水辺の各地に今なお、いる。

またいつか

約束の日のために。






T.B. 1997年 「約束の夜」それぞれの地にて




「約束の夜」249

2020年10月27日 | 物語「約束の夜」
その日の狩りを終えると
京子は足早に広場を抜ける。

「あら、今日は早いのね。
 寄っていかない?」

声をかけられて、
ごめんなさい、また今度、と
会釈を返す。

西一族の狩りは、
獲物を捌き終えるまでが一連の作業だが
この後は予定が立て込んでいる。

早く行きなよ、と、班の皆が声をかけてくれたので
ありがたく言葉に甘えている。

「ただいま!!」

駆け足で家に戻ると
着替えてあらかじめ準備していた荷物を掴む。

「いってきます!!」

滞在時間も僅かで家を飛び出る。

「間に合うかしら」

余裕を持って広場を出たのに、
途中、寄った店で
時間をかけすぎてしまった。

「だって、今日は」

「あ!!」
「わぁ!!」

横道から出てきた人にぶつかってしまう。
おまけに、
京子は無事で相手を突き飛ばしてしまった状態。

「ごごごごめん!!!!」

わあ、と京子は慌てて駆け寄る。

「大丈夫、圭(けい)?」

腕を引いて起き上がらせながら、
はた、と気がつく。
京子より年下で、面識は少ない。
だいたいの者は狩りで顔見知りになるが
確か圭は体が弱くて、狩りには参加してない。

「病院連れて行かなきゃ!?」
「………そこまでは弱くないから」

立ち上がったあと、
大丈夫、と京子の手を払う。

さては女子の対応に慣れてないと見た。

「圭、そんなんじゃ、
 主役は務まらないわよ。
 もうちょっとシャキッとしなきゃ」
「いや、主役ってなに」
「これからの話よ、
 あなた、夢なんだから、水辺の!!」

「ええっと」

突然、突き飛ばされた上
年下には変にお姉さんぶりたい京子に絡まれて
正直困っている圭。

「京子、急いでたんじゃないか?」

「あ!!!」

そうだった、と京子は叫ぶ。

「急がなきゃ、馬車が出ちゃう!!
 あ、圭お菓子あげる、
 ぶつかったお詫びね、これ」

わぁああああ、と駆けていく京子。
貰った飴玉を見つめながら
圭は呟く。

「いや、水辺の夢ってなに……?」

それから、走って走って
なんとか馬車の出発に間に合った京子。

ふう、と腰掛けて一息つく。

「いや、よかった。
 準備していても、いつもこうなっちゃうのよね」

一番の時間ロスは
商店に寄り道した事だけど。

「お土産も色々選びたかったし」

………。

皆どうしているだろう。
どうなっているのだろう。

それじゃあ、
一年後にまた会おうと
手を振って分かれた。

「みんな、来てくれるかな?」

楽しみだけれど
少し不安もある。

「………緊張、しちゃうな」

昼に西一族の村を出た馬車は
夜に目的の場所へと辿り着く。
長い時間馬車に揺られて、
京子はうたた寝から目を覚ます。

「久しぶりだわ」

馬車を降りる。

夜でも、街は明るく輝き
人々の賑やかな喧噪。

あの一件以来
足は遠のいていた北一族の村。

ゆっくりと辺りを見回す。

兄を探して始まった旅が
いつの間にか
思わぬ事態になってしまい、

沢山の出会いがあって、
他一族のきょうだい達を知って
それは裏一族に関わる事で。

短くて、でも
とても長かったあの出来事。

一年前、
北一族の村を訪れた時は
そんな事が起きるなんて思いもしなかった。


「京子」


と、自分を呼ぶ声が聞こえる。
足を止め、
京子は振り返る。

この声は。

「………あ」

思わず声が震える。
自分の感情が分からない。
嬉しいのか、驚いているのか。

沢山の人混みの中、
その人だけが際だって見える。

「どうして、ここに」

慌てて駆け寄る京子に
微笑みながら彼は答える。

「どうしてって」

京子の伸ばした手を
ほら、間違い無く彼は握り返す。

きちんと
ここに居るぞ、とでも言うように。


「約束したから、な」



T.B.1998
約束の夜。北一族の村にて


「約束の夜」248

2020年10月23日 | 物語「約束の夜」
西一族の村。

彼は村を見渡す。
空はよく晴れている。

遠くに、見通しのいい場所を歩く、誰か。

足を引きずりながら歩いている。

彼は、その者を見る。
姿からして、医者なのだろう。
あの足で往診しているのか。

西一族で狩りの出来ない者は手に職をつけ、立場を得る。
おそらくあの者はそうなのだと、彼は頷く。

近付いてきた彼女は、彼に気付く。

会釈をする。
彼の姿を見る。

「往診か」

彼の言葉に、彼女は云う。

「そうです」
「大変だな」
「いえ・・・」

見たこともない彼を、怪しいと思っているのだろう。
彼は西一族の格好をしてはいるが。

「何かご用ですか」
「いや」
「なら、」
「墓参りでも行こうかと思って」

「そう、ですか」

すでに、西一族を離れた者かもしれない。
そして、たまに墓参りへと帰ってきた。

そう、彼女は思っただろう。

「墓はどこだったかな」

彼は問う。

「そんなに久しい感じ?」

彼女はあたりを見る。
指を指す。
西一族の墓場の方向。

「ああ、そうだった」

彼は云う。

「長くなれば、忘れてしまうもんだな」

彼女は首を傾げる。
彼は動かない。

「誰か一緒に行ける者を呼びましょうか?」
「君はどうだ」
「え?」
「いや、忙しいか」
「往診は終わったところだけど、」
「じゃあ、行こう」

ふたりは歩き出す。

進みの遅い彼女に合わせて、ゆっくりと。

「変わらないな」

彼は呟く。

「そんなに大きくは変わらないけれど」
「ずいぶんと時が経っても、だ」
「ここに住んでいたのは、いったいどれくらい前?」
「ずーっと、昔だよ」
「ふぅん」

彼は手を見る。

「何も持ってこなかったな」
「花でも買って行く?」

供えるものを、彼は何も持ってきていない。

「うーん」
「次、いつ来るか考えたら、準備しておいたら?」
「彼女はどんな花が好きだったかな」
「何でもいいのよ」
「そうか?」
「気持ちが大切じゃない」

彼はポツリと呟く。

「知らないんだ」
「え?」
「そもそも花が好きだったのか、どうかも」
「・・・・・・」

彼は、その墓で眠る彼女を想う。

「足が悪くて、」
「・・・・・・」
「狩りに行けず、」
「・・・・・・」
「いつもひとりでいたような気がする」

「そう」

彼女は云う。

「でも、好きだったのね」
「片想い、か」

結局、自分のもとへと来ることはなく、

「それでも、生きていてほしかった」
「・・・・・・」
「勝手な願い、だな」
「そう」

彼女は云う。

「何も約束はなかったってことね」

彼は頷く。

「約束はなかったが」

彼は彼女を見る。

「残ったものは、ある」

「ふぅん」

それ以上、彼は話さない。
彼女も訊かない。

ただ、その墓に祈る彼の背中を、彼女は見る。





NEXT








「約束の夜」247

2020年10月20日 | 物語「約束の夜」
「ほう!!」

む~、とツイナは伸びをする。
谷一族の村から北一族の村へと続く街道。
岩場に腰掛けながら、お茶を一服する。

あれから
皆がそれぞれの村へと戻る中
ツイナは通り道と言うこともあって
京子を送りがてら、
オトミと一緒に西一族の村に短い間滞在した。

京子から
『折角だから寄っていって
 おいしいお肉をごちそうするわ』
と、お誘いをうけたのもある。

お肉おいしかった。

それからオトミを南一族の村に送ると
今度は南一族式大歓迎。
こちらも収穫体験をしながらしばしの滞在。

そこからは
自分の村である海一族の村に戻るだけだったが
ツイナは思った。

「いま、ここで帰っちゃうの
 勿体なくない!?」

と!!!

住み慣れた海一族の暮らしが
懐かしい気もするけれど、
各一族に尋ねるあてが出来た事だし、
せっかくなので水辺一周しちゃおう。

満樹を尋ねて東一族の村。
ちょっとスリリングだったけれど
ノギに誘導されつつ砂一族の村。

今は、マサシに見送られながら
谷一族の村を起った所。

どの村もそれぞれに違う
一族独特の暮らし。

残念だったのは
海一族と敵対している山一族の村には
さすがのツイナでも行けなかった事。

「ヨシノ、どうしているんだろうな」

すちゃっと、立ち上がり、
ツイナはぐるりと回る。

「結構、背も伸びたと思うんだけど」

もしかして、
身長も追いついたかも知れない。
なんたって成長期ですからね。

「最近ノドもがらがらするし。
 これは、声変わり近い予感」
 
アニメだったら
声優さん変わるパターン。

「と言うか、ヨシノ
 ちゃんと村に戻ったのかな?」

また、さすらいの薬草(いろんな意味で)探しの
旅に出ている可能性も。

「案外すぐに会えたりして」

そうしたら
ヨシノに最初に聞いて欲しい事がある。

あれからツイナも色々考えた。

自分の母親が付けた、ユウトという本当の名前と
表向きの名前ツイナ。
それに、父親である翼が残したカナメという名前。

「俺、名前多すぎ問題」

でも三つとも自分の名前だ。

海一族の司祭は、
本当の名前は隠し仮の名前を使う。
そういう風習。

それなら、これからは

「ミツナって名乗ろうかな」

実は血が繋がっていて
姉だったヨシノだけれど、
最初に、この名前を伝えるのは。

「…………うん」

それを、ツイナことミツナは想像する。

「あっそう、ふーん、と言われて終わりそう」

まあそれもヨシノらしいけれど、
空になった水筒をひっくり返し、
ミツナは立ち上がる。

向かうのは北一族の村。

それから先はまだ考えていない。
一周したので、帰ってもいいし、
まだ旅を続けるのもありだ。

まずは、足の向くままに。

そうやって歩き始める。

「まずは、そうこの水筒にお茶を貰おう。
 あそこの、ぽつんとある一軒家とかで」


NEXT

「約束の夜」246

2020年10月16日 | 物語「約束の夜」
満樹は、村を歩く。

そのまま、大将のもとへと行くつもりだ。
今回のことを報告して、そして、

そして

その後は、どうするのか。

報告もどこまでするつもりなのだろう、自分は。

「満樹」

誰かの声。

「満樹!」

満樹は振り返る。

「お帰り」
「光院・・・」

光院が笑う。

「よかった。帰ってきたんだ」
「ああ・・・」
「大将のところに行くのか」
「そのつもり、だけど」
「なら、一緒に行こう」

満樹の横に、光院が並ぶ。

満樹は云う。

「報告を聞くつもりか」
「そう」
「あとで聞けると思うけど」
「今もあとも、一緒だろう?」
「・・・・・・」
「何か都合の悪いことでもあったか?」
「・・・・・・」

満樹は、黙る。

ふたりは、東一族の村を歩く。

いつも通りの村。
ついこの間まで何かに狙われていた。
そんな感覚は今はない。

「いつも通りが1番だ」

光院が云う。

「光院」
「何だ」
「みんな、どこまで知っている?」

満樹は呟くように云う。

「どこまで、とは?」
「自分のこと、だよ」

自身は純粋な東一族ではない。
混血。
しかも、片方の血は
東一族と反する、西一族のもの。

それがはっきりと判って、
そもそも東一族特有の魔法も扱うことも出来ず

「自分は、これから・・・」
「満樹」

光院が云う。

「さっきも云っただろう」
「・・・・・・?」
「いつも通りが1番だ、って」
「それは、どう云う、」

光院は、空を見る。

「晴れてるな」
「え? あ、ああ」
「俺が知らない満樹の友人たちも、どこかでこの空を見てるんだろう」

空はよく晴れている。
気持ちのいい、青空。

「いつも通りだ」
「・・・・・・」
「お前の昔のことがいくら判ろうとも」
「光院」
「な、満樹」
「でも、俺は、」
「じゃないと、お前の父と母はどうする?」
「・・・・・・」
「そもそも知っていたわけなんだから」

自分は、父親の子ではないと。
敵の一族の血をひく、と。
それでも、
自分の子として、育ててくれた父と母。
東一族として受け入れてくれている、仲間。

満樹は、空を見る。

どこかで同じように
きょうだいたちも、この空を見ているのだろうか。

「光院」
「何だ?」
「感謝する」

光院は、笑う。

「まあ、まだ考えることは多いだろうけど」

満樹は頷く。

光院は、目の前を見る。
そこは、大将がいる場所。

「これからも、よろしくな」

光院の言葉に満樹は頷く。

「満樹がいないと、砂漠当番周りが早いからさ」
「そこ!!?」





NEXT