どこかから聞こえる詠唱と共に
辺りが霧に覆われはじめる。
「やだ、なんで霧が!?」
「よく考えて、京子!!
怪談話には突然の霧、突然の雨、突然の停電
定番じゃないか!!」
「いやぁあああ、
どこからともなく冷気がぁあああ」
「うわぁあ、なんか、
なんか、かすったぁあああ!!」
「それ私の髪の毛ぇええええ」
落ち着け。
「いや、どう考えたって
裏一族の襲撃だろう」
少し離れた所で待機している満樹が
冷静にツッコミを入れる。
そして、
京子とツイナは
エロイ話しをすれば
幽霊は居なくなるって聞いた事ある、と
叫んでいる。
「分からない、
裏一族が、あの二人を連れて行きたい理由が」
「これ以上様子を見るのは危険だな」
「ああ」
ミツグに続き、
二人の元に近寄ろうとした満樹は
ふと、自分の手を見る。
「?」
僅かに、震えている。
「しまった!?」
この霧は、視界を塞ぐための物では無い。
毒の霧。
体の自由を奪うもの。
「早く、この場から離れるんだ!!」
「え?」
「くっ」
ミツグがその場に膝をつく。
が、口を塞ぎながら
控えていた仲間に合図を送る。
「トーマ!!
おまえは、司祭様を呼びに行け。
解毒の術が使えるはずだ。
他の者も、なるべく霧を吸い込むな」
「分かった。
すぐ戻るから、持ちこたえてくれ」
満樹も京子とツイナの元へ走る。
満樹の術では
二人をどれだけ守れるか分からないが、
「………」
「………」
「………」
二人は、すでにこの霧の影響で、
倒れているわけでもなく、
ぐったりしているわけでも、
顔色が悪いわけでもなく。
当たり前に、立っている。
「………どういう事だ?」
急いで駆けつけた満樹の方が
霧を吸い込みすぎて
足にもしびれが来ている。
「………なんでだろう?」
「俺と京子が大丈夫で
ミツグ兄さん達がダメな理由」
術を掛ける対象を選別できるのだろうか。
そうだとしたら
かなりの術の使い手だ。
「いいから、この場から逃げるんだ」
「そんなの、ダメよ!!」
こうなったら、
皆を守って戦えるのは
京子しか居ない。
腰の短刀を抜く。
「出てきなさい!!
裏一族!!」
「威勢のいい奴だ」
いつの間にそこにいたのか
マントで身を隠した者が二人、
現れる。
「裏一族、ね」
「お前達にもう一度言う、
こちらに来る気は無いか?」
「無いわ」
「当たり前だ」
京子と満樹が、それぞれ答える。
それならば、と
裏一族は
京子の後ろに居るツイナに問いかける。
「お前はどうだ?」
「いや、行く理由が無いし」
それでは、と
「自分の生まれを知りたくは無いか?
海一族の『ユウト』」
「!!」
ん?と京子は振り返る。
ツイナは何かに驚いているようで
裏一族を見つめている。
「ツイナ?どうしたの?」
近くで膝をついているミツグも
武器を構えようとする。
「あいつらは何を知っているんだ?」
「ユウトとは、何だ?」
満樹の問いかけにミツグは
すこし渋るように答える。
「ツイナの本当の名だ」
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