TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」15

2017年09月05日 | 物語「約束の夜」


「驚いた」

各一族が集まるというこの村では
本当にいろんな事がある。
まるで嵐のようだった。

東一族。

この村で見かける事は何度もあったが
あんなに近い距離で話し、
助けて貰う事になるとは。

「まき」

1人はそんな名前で呼ばれていた。
確か、矢を射た方。

あの人混みの中、
あそこまで正確に矢を射る事が出来るのは
西一族でも片手で数えるほど。

「そういえば
 お礼言ってない」

西一族は失礼なやつだ、と
思われなかっただろうか。

今度会う事があれば。

「……それは、無いか」

東一族は西一族が敵対している一族のひとつ。

今は冷戦状態で落ち着いているが
京子の祖父母の時代には
大きな争いも起きている。

お互い、接触を避けているのだから
同じ人とまた会うなんて
とてつもない奇跡だ。

転んだ時の服の汚れを払いながら
待ち合わせの場所に戻る。

「ふふっ。
 なんて話そう」

先程の出来事を思い出しながら
京子は吹き出す。
あんなハラハラした事はそう起こらない。
大冒険をした気分だ。

「美和子、驚くだろうな」

「私がなんだって!?」
「おわ!!美和子!!」

待ち合わせ場所に立っていた美和子に
ぶつかりそうになりながら
京子は立ち止まる。

「凄いのよ美和子。
 あのね、実は」

「耀、見つかったの!?」

「………あ」

急に申し訳ない気分になって
えーっと、と京子は尻込みする。

何しに来ていたのか忘れたつもりじゃない。
けれど、
少し浮かれていたかも知れない。

「見つからなかったわ」
「そう、私の方もよ」
「いいのよ。
 空振りはもう何回もだから」

京子は美和子の手を引く。

「夕飯は、何を食べようか?
 美和子は北一族の
 豆乳料理とか平気!?」

2人はそのまま宿へ向かう。

さっきの出来事は
話す雰囲気では無い気がして
このまま誰にも話さず秘めておこう、と
京子は、そう、思った。



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