TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」91

2018年07月31日 | 物語「約束の夜」

もう一度、北一族の村へ向かうため、
荷作りは出来た。
狩りの当番も交代をお願いした。

満樹とツイナと合流して、
兄を捜す。

もしかしたら、裏一族と戦いになるかも知れない。
これからどうなっていくのか
探りながらの旅になるはず。

準備は整え終えた。
残る問題は一つ。

「お母さん、お茶飲む?」
「あら、ありがとう」

はい、とお茶を置き、
母親の正面に座る。

「めずらしい味ね」
「そうなの、この前出かけたときに
 手に入れた大豆茶よ」
「南一族産かしら」
「大当たり」

それぞれ、ずずっとお茶をすする。

「………」
「………」
「来週は天気が良さそうね」
「そうね」
「良いお出かけ日和だな~、なんて」
「洗濯の干し甲斐があるわ」
「あ~、それもそうよね。
 うんうん、え~っと」

そう、残る問題とは、
また旅立つ旨を母親に伝える事。

ひとり旅なんて、絶対に心配をする。

北一族で皆と合流するけれど、
東一族(と海一族)とは、
とても言えない。

兄の手がかりが掴めたと言えば
納得してくれるだろうか。

でも、
自分たちは裏一族に狙われている、
兄もまた同じ。
もしかしたら、裏一族に捕まっている?

そう言っても、不安を煽るだけ。

「あああ、あのね。
 えっっとお」

「京子。北一族の村に出かけるの?」

「え?あ、はい!!」

さらりと問いかける母親に
京子は心臓が跳ね上がる。

荷作りはばれていたのか。

「そう、それなら
 お土産買ってきてくれる。
 砂糖菓子の袋詰めね」

こくこく、と頷く。

もしかして、
ただの旅行と思ってくれている。

「旅行が長引くのなら
 ちゃんと手紙をちょうだい」
「………お母さん」
「お土産は、別になんでも良いのよ。
 帰って来た時に
 旅先の話しを聞きながら
 飲むお茶用のお菓子」

京子、と母親が言う。

「ちゃんと帰ってくるのよ」

知って居るのかも知れない。全て。
そして、
いくら止めようとも
京子が旅立つことも分かっている。

「もちろんよ」

耀に続いて、京子まで、となったら
本当は送り出したく無いはず。
兄が失踪したときの喪失感を京子は覚えている。
それが自分の子ども。
しかも2人ともとなれば。

分かるからこそ、
必ず、耀を連れて帰ると京子は思う。

「すぐに帰ってくるから。
 行ってきます。お母さん」



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「約束の夜」90

2018年07月27日 | 物語「約束の夜」

「こんなもんだろ」

ある程度の地点を潰して
満樹と俊樹は東一族の村へと戻りはじめる。

俊樹は空を確認する。
空は、うっすらと明るくなっている。

東一族の村に着くころには、さらに明るくなり
どの家でも、朝の食事の準備をはじめている。

満樹と俊樹はいったん報告に行き
そのまま、次の務めを確認する。

さっきも登場しました。

―― 東一族 砂漠当番 シフト表 ――

「えーっと、俺は次は」
「・・・・・・??」
「3日後か」
「いや、これ、おかしくないか!?」
「何が?」

云われて、俊樹は満樹が指差すところをのぞき込む。

そこには満樹の名まえ。
本日の夜。
砂漠当番。

「っううう!? 何で!? 何で!?」

夜勤明けは非番のようなもの。
次の日まで、務めは入らないことが普通、だが。

「今夜!? 連勤!?」
「寝たがいいぞ、お前!!」
「そこ!?」
「でも、このシフト作っているの大将だろ?」
「ここの俺の名まえ、さっき追加しました感!!」
「欠番が出たんじゃないのか?」
「いや、ほかにいるだろ、ほかに!!」
「大将に云えよ」

慌てふためく満樹をよそに、俊樹は、タオルを持つ。

「じゃあ、行くか!」
「どこに!?」
「いや、暑いから泳ぎに」
「お前さっき寝ろって云ってなかった!?」

おわわわわわ

このままでは、京子との約束の日に間に合わない。

「今日、非番集まって、川で泳ごうって約束!」
「いや、その約束じゃない!」

てか、何者かが、東に入り込もうとしているのに
(でも、狙われているのは満樹)
川で泳ごうとか、のんびりしすぎだろう、東一族!!

「あぁああああああ」

満樹は頭を抱え込む。

「満樹?」

俊樹は満樹をのぞき込む。

「いや、いいんだぜ。ほかに予定があるんなら」
「あるとすれば、今夜の砂漠当番だ!」
「そうじゃないだろ?」

真面目に、俊樹が云う。

「川で泳ぐのは、いつでも出来るだろう?」
ほかに大切な何かがあるなら。
「また、集まろうぜ」
「俊樹・・・」

俊樹は頷く。

「行けよ、満樹」

満樹は胸が熱くなるのを感じる。
よかった、俊樹が今ここにいてくれて。

「行ってくる、大将の、」
「他一族の恋人へは花を忘れるなよ」
「ああ、大将に花を、・・・って、」
「豪華すぎない方がいいぞ」
「え? あれ? 俊樹?」

いや、違う。
大将にシフトの変更を、

「そして、新居をどこに構えるかは早めに相談を!」
「オッケー俊樹!!」

満樹は俊樹をがしっと掴む。

「川への行き方を教えて!!」



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「約束の夜」89

2018年07月24日 | 物語「約束の夜」

「ええっと、
 携帯食料に、薬、それから」

京子は西一族の商店で旅立ちの準備をする。
兄を捜して
裏一族を追っていた今までの旅とは少し違う。

もしかしたら、戦いになるかもしれない。
そう思うと揃える物も違ってくる。

「短刀はもう一本あった方が良いかな?
 買うと高いから
 家にあるもので」

狩りの道具コーナーを物色する京子。

「あ、この短刀ケースかわいい。
 折角だから新調しちゃおうかな」

買い物カゴにイン。
そこでふと立ち止まる。

「待って。そうしたらブーツとの色合いが合わない。
 これはブーツも思い切っちゃうか!!」

それから日用雑貨の棚に回る。

「保湿クリームは
 一週間旅行用を買うとして。
 ……おかし!!お菓子も必要ね!!」

甘味は大事。
西一族のお菓子を2人にも食べさせたい。

「ハンカチにティッシュ。
 それからそれから」
「……………」
「薬といえば、頭痛薬、胃薬、風邪薬、目薬も
 いざという時役に立つのでは!!」
「…………」
「なんだがバッグに入らない気がしてきた。
 これは新しいバッグも買うべき!?」

うーんと、見るに見かねて
同じ店内に居た西一族が声をかける。

「それ、荷物になるだろ」
「えぇっ!?」

痛いところを突かれて
ぐぬぬ、と反論する京子。

「何かあったとき
 持っていかずに後悔するよりは」
「充分旅先でも揃うだろ」

確かに。

旅先には財布さえ持っていけば良い派とみた。

「ほおって置いてよ、悟(さとる)」
「よう。
 お前、美和子とケンカしたんだって」
「もう、この村、噂が回るの早すぎでしょう」
「ははは」

笑いながら、
悟が京子の横を通り過ぎる。

「俺は言ったぞ。
 『美和子には気をつけろ』と」

「え?」

そう言えば、
美和子と2人南一族の村に向かった時
悟は同じ馬車に乗り合わせていたのだった。

その時、悟は
京子にだけ聞こえるように言っていた。

『気をつけろ』と。

「………悟、
 あなたどこまで知っているの?」
「なんの話しだ?」
「美和子の事、とか」

ただの偶然だろうか。

「そりゃ、性格が違う2人が集まれば
 何かあると思うだろ」
「あ、そっち!!」

そっちでしたか。

「ただ、もう一度言うぞ。
『美和子には気をつけろ』」
「!!」

「……今のどういう」
「あ、圭じゃないか、
 お前配給の肉は受け取りに行ったのか?
 おっと、それじゃあな、京子」

悟は店を出て
通りを歩いていた別の者に話しかけている。

ただのケンカの仲裁にも聞こえる。
けれど、
裏一族は自然に紛れ込む、なんて話を聞いた後では
色々な事が怪しく思える。

あの人も、この人も。

「もうこんな事、早く終わらせたい。
 大体、裏一族と我が家は
 なんの縁もないでしょうに」

どうして目を付けられたのだろう。

「誕生日までには、カタがついているかしら」

兄の誕生日のひと月遅れ。
もうすぐ、京子の誕生日だ。



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「約束の夜」88

2018年07月20日 | 物語「約束の夜」

「満樹。何してるのかなぁ」
「砂漠当番だよ」
「砂漠当番って何するのさ」
「砂漠で当番するんだよ~」
「それは、つまり?」
「給食当番は、給食だろう?」
「そうか~」

平行線の会話終了。

「じゃあ俺、鍛錬行くから」

東一族の村を一緒に歩いていた、ツイナと水樹。
水樹はじゃあ、と、手を上げる。

「大変だなぁ東一族は」
「えー、そんなことないよ」

ツイナの言葉に、水樹は首を傾げる。

「海一族だって一緒だろう、ほら」

水樹は思い出しながら云う。

「生焼けクッキーのやつ」
「先視か」
「それ」

水樹は頷く。

「その鍛錬とかと一緒だよ~」

先視の修行と云いたいらしい。

「先視は先視だし」
「鍛錬は鍛錬だし」

うんうん、とお互いに、謎の納得。

平行線の会話 パートII

「じゃあまたな!」
「ちょっと心細いなぁ・・・」

何だか、ツイナは不安になる。

「大丈夫だって! ・・・それとも」

にゅいーーんと、水樹。

「ツイナも来るか、鍛錬??」
「俺も鍛錬っ!」
「いや、ツイナは戦い向きじゃないのか?」
「そこは、大丈夫」

と、ツイナ。

「俺は海一族の兄さんに教わった体術にも割と自信がある!」
「へえ」
「はっきり云って先視より拳。いざと云うとき、ものを云うのは力」

あ、このセリフは

「力はパワー!!」

どこかでも聞いた。

「おお!」

水樹は拍手をする。
「エイゴが得意なんだな!」
そして、どこぞやの言語を口にする。

「だったら来いよ!」
「うーん・・・(行こうかな)」
「ジュースも出るぞ!」
「おお!」

水樹の言葉に、ツイナは目を輝かせる。

「熱中症対策、水分大事!」
「ふふふ。東一族はすごかろう」

なんだか、ツイナは水樹につられて、一緒に歩いている。

「ちょっとほら、ジュースには成分が入ってるけど」
「そうか! ・・・ん? 成分?」
「成分!」
「成分って、何の?」
「何って、毒の」
「毒?」
「うん。毒」
「・・・なぜに?」
「さあ?」

まさかの
おいしくいただいているだけの、水樹!!

対砂一族のためです!
体を毒に慣らしているんです!!

「すげぇええなぁああ、東一族!」
「すごかろう!!(2回目)」

「おい、水樹」

「はっ!!」

そこにいたのは、成院。

「成先生!」
水樹の体術の師。
「はじめまして~」

ツイナは、あいさつをする。

「うん。海一族の方」

頷き、成院は水樹に向く。

「しゃべりすぎだお前は!!」



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「約束の夜」87

2018年07月17日 | 物語「約束の夜」

京子にとっては
顔も知らない父親。翼。

「お父さんは、
 女性陣に、結構人気があったのよ」
「そうだったんだ」

気になっては居たが、
最低限のことしか聞いていなかった。

子どもを1人で育てた母親に
聞いてはいけない気もしたから。

けれど、
母親の口から初めて聞く父親の話は
少しだけドキドキする。

「でも中々結婚しないから、
 周りに進められて、
 お母さんとはお見合い結婚みたいなもの」
「へぇ」

恋愛結婚が多い西一族では
めずらしいな、と京子は思う。
それとも親の時代にはそうだったのだろうか。

「そうしたら、
 お母さんは本当は別に
 ……気になる人が、居た、とか」

母親は首を振る。

「お母さんは、お父さんの事
 憧れの人だったから、
 やったー、ラッキーって感じ」
「ラッキーときた」

これは、
今までも躊躇わずに聞けたのでは。

「まあ!!最終的に出て行った訳ですが!!」
「そこら辺、吹っ切れているのね、お母さん」
「そりゃそうよ。
 そうしないと、こう、なんていうの
 モヤモヤとした黒い感情が」

ほとばしる。

あ、やっぱり
聞いちゃいけなかったやつ。

「まぁ、子どもを2人も作ったわけだし、
 最初から仲が悪かった訳では」
「……そうね、
 悪い関係では無かったと思うわ」

お父さんは、と
京子の母親が言う。

「あまり、家というより
 村に居付かなかったのよ。
 定期的に帰って来ては、
 長い間出かけるを繰り返して」

そして、
いつかぱたりと帰ってこなくなった。

それだけ聞くと
まるで、兄の失踪のようだ。

「なんとなくだけど」

そう前置きして、京子の母は言う。

「お父さん、この村に
 好きな人が居たんじゃないのかしら」

けれど、結ばれなかった誰か。

「その人のこと思い出すから、
 この村に居るのが
 耐えられなかったのかなって」
「………お母さん」
「推測だけどね」

それが、
父親が京子達を置いて出て行った理由。

お金は残してくれたから、
生活する分には困っていないが。

「と、言うことは」

「私のお父さんは、西一族」

「今までそう言う話の流れだったと思うけど!?」
「あ、あれ~~」

もしかして、
京子達が裏一族に狙われている理由が
他一族同士の混血児じゃないかと
思っていたのだけど。

「んんんん?」

おかしいな。

「待って、
 もしかして、お母さんの
 青春エピソードとか必要無かった?」
「いや、大事だったよ、うん」
「ホントのホント!?」
「ホントのホントよ!!!」



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