空港の出口で待ち合わせた旅行会社の出迎えは、30歳代の人の良さそうな男だった。名前はグスティ。
車に案内されたぼくは、乗っていたドライバーに効かせ過ぎのエアコンを止めてもらって、車のウィンドウを全開にして出発。助手席で怪訝な顔つきのグスティに、
「地球のために」
と言ったら、彼はにっこり笑った。
彼の歓迎の紋切り型の日本語の挨拶や、ガイドブックに載っているようなバリ滞在中の注意事項についての説明をもそこそこに、インドネシアの経済状態について彼に訊ねると、あまり良い状況ではないとの返事だった。彼は日本語を勉強中だというのだが、簡単な会話なら不自由することがない。
バリの2月は雨季の終わりに近いのだが、このシーズンは日本からの卒業旅行の若者達がバリに押し寄せて、現地の旅行会社は忙しいらしい。
グスティはぼくを車でホテルに送り届けた後も、他の日本人旅行客の出迎えがあるとのことで、夜の19:00過ぎというのに空港へ引き返していった。関空を17:40に離陸して、23:45にバリ島にランディングする便への対応のようだ。この時期、毎日帰宅が深夜の2時、3時になるとグスティはこぼしていた。
彼は旅行会社の社員であるにもかかわらず、ツアーの客のオプショナルツアーのガイド料やコミッションなどで生計を立てているらしい。ガイドの仕事は、いろいろ経費もかかり、実のところは儲けは少ない。だから、生活費を稼ぎ出すためにはガイドの仕事を数多くこなす必要があるとのこと。以前はヨーロッパの旅行客を相手にガイドをやっていたのだが、日本語を勉強して日本人相手に変わったら、英語を使う機会がなくなり英語がほとんど話せなくなったそうだ。だが、ニュアンスが微妙な話になると、日本語で話すよりもあいまいさのない英語の方が理解しやすかった。
彼によれば、彼らの神様はどこにでも降臨するとのことだ。日に3回、その神様にお祈りをささげるのがヒンズー教の決まりだ。ただ、仕事で忙しく、決まった時間に決まった場所でお祈りを捧げられない場合は、日に1回でも良い。お祈りのやり方は、頭をたれ両手を合わせて頭の上に掲げる。右手は仏の象徴で、左手は自分自身。両手を合わせることにより、仏と一体になることをあらわす。祈ることは人それぞれ。我々日本人がやりがちなセルフィッシュなお願いも、聞くだけは聞いてもらえるらしい。
バリ島の神様は、”サンヤンウィディ(Sang Hyang Widi)。この宇宙で唯一の神と信じられている。
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