モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

サルビア・チアペンシス(Salvia chiapensis)の花

2016-06-09 11:02:23 | セージ&サルビア
(写真)サルビア・チアペンシスの花


メキシコのサルビアは艶やかなものが結構あるが、このサルビア・チアペンシス(Salvia chiapensis)もかなり艶やかだ。別名、サルビア・ローズシャンデリアとも呼ばれているが、バラの花色のようなシャンデリアとは言い得て妙だと思う。

このサルビア・チアペンシスは、メキシコ南部の州チアパスの2100-2900mの霧の多い湿った地域で生息し、草丈50-60㎝で横に広がり、花茎を伸ばしその先に鮮やかな桃色の花を5~11月まで咲かせる。光沢のあるオリーブ色の葉も美しい。

(写真)Edward William Nelson


このサルビアを最初に採取したのは、アメリカの博物学者ネルソン(Edward William Nelson 1855-1934)で、1892年から1906年までの14年間米国農務省の下でメキシコの動植物フィールド調査をアシスタントのEdward Alphonso Goldman (1873 – 1946)と一緒に行っており、1895年9月にチアパス州サン・クリストバル市近くの標高2150-2460mのところでこのサルビアを採取した。

ネルソンは、アラスカの博物学的調査をした初期の人間で、彼が22歳の時の1877年から4年間天気を観測する役割で米国陸軍のメンバーとしてアラスカに駐在し、エスキモーとアサバスカ文化の民族学的情報を記録した。ネルソンの徹底した調査・収集は“役立たずのものまで集めた男”として知られるようになった。この実績があり、メキシコの動植物調査にふさわしい男として選ばれたと言う。

しかし、ネルソンは、博物学者として何でも関心を持ち、ゴールドマンは動物学者として後に大成するのでこのチームは植物への関心があまり高くない。ミズリー大学植物園の植物標本データに記録されているところでは、ネルソンが採取した植物は320個、サルビアに関しては5個3品種だけしか採取していない。その中の1品がサルビア・チアペンシスということになる。

このネルソンが収集した標本を元に命名したのは、ハーバード大学グレイ植物標本館のアシスタントだった(後には館長、植物学教授)Fernald, Merritt Lyndon (1873-1950)であり、1900年に原産地の名を採用してSalvia chiapensisと名付けた。

しかし、実際の庭に導入されたのは時間が大分経過した1981年の頃であり、カルフォルニア大学バークレイ校植物園の探検隊がメキシコ、チアパスで採取してから普及したという。

(写真)Dennis Eugene Breedlove、サンフランシスコ植物園のチアパスから移植した雲霧林の植物をバックに


どんな人たちが探検隊で出かけたのだろうかと気になり調べてみたら、ブリードラブ(Breedlove, Dennis Eugene 1939–2012)という人物が登場してきた。

カリフォルニア科学学校の植物学者だったデニス・ブリードラブは、メキシコ最南端の州チアパスの植物相の研究を25歳のときの1964年から開始し、1992年まで広範囲な調査を行い、72,000セットという膨大な植物標本を収集し1981年には「Flora of Chiapas」を出版した。

デニス・ブリードラブは、数多くの植物品種をチアパスで採取したが、サルビアに関しても65種類も採取しており、また見知らぬサルビアが存在しているのではないかと興味がわいてきた。
ブリードラブが活躍したメキシコ最南端のチアパス州は、8250種もの植物種がある植物相が豊かな地域で、今でも開発という人間の手が入らないところが残るメキシコでも最貧地域であり、植物種の宝庫とも言えるところのようだ。

ブリードラブ(Breedlove, Dennis Eugene)、バーソロミュー(Bartholomew, Bruce Monroe 1946-)達を隊員とする、カリフォルニア大学植物園の種子及びカッティングなどを収集する探検隊が1981年11月にメキシコ、チアパスに出発した。
この旅行は2週間を予定し、全世界400あまりの植物園にメキシコの植物の種子を送ることと、カリフォルニアの気候に適したチアパスの植物を採取し同地域の植物園に配布すること、及び、余剰の収穫があった場合は翌春に販売することが目的だった。

カリフォルニアの気候に適した植物となると、気温が似ている高度での探索採取となり、2000メートル以上の地域での探索がなされ、成果としては、200品種以上の種子と生きた移植用の植物がこの探検で採取された。
採取した中でのハイライトは第一にサルビア類であり、サルビア・チアペンシスもこの探検隊に採取され、サンフランシスコに持ってこられた。採取したのはバーソロミューではなく、フリードラブのようだ。

(写真)サルビア・チアペンシスの花と葉


サルビア・チアペンシス(Salvia chiapensis)
・シソ科アキギリ属の耐寒性が弱い多年草。冬場は、室内に取り込むか、霜があたらないような場所で管理する。
・原産地はメキシコ・チアパス州の標高2100-2900mの霧の多い湿った地帯。
・学名は、Salvia chiapensis Fernald.(1900)。米国の植物学者Fernald, Merritt Lyndon (1873-1950)によって1900年に命名された。
・英名ではChiapas Sage(チアパスセージ)、日本の園芸店ではサルビア‘ローズシャンデリア’で流通している。
・このサルビアを最初に採取したのはNelson, Edward William (1855-1934)で、1895年にメキシコ、チアパス州サン・クリストバル近くの2150~2460mの高さのところで採取した。
・草丈は、60~120cmで地植えすると大株に育つようだ。現在は鉢植えなので30cm程度。
・葉は対生し、光沢のある濃い緑色の葉が光を反射して美しい。
・20cm程度の花序が数本伸び、ここに桃色(Magentaマゼンタ)に輝く花を咲かせる。開花期は一年中ということだが、暑い夏場は咲かないようだ。


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