彦四郎の中国生活

中国滞在記

東京五輪が閉幕して❷—海外の受け止め方は‥

2021-08-16 09:11:44 | 滞在記

 8月8日、東京五輪が閉幕した。翌日9日から最近までの朝日新聞には、この東京五輪を振り返って4人の人の記事が掲載された。「モノクロームな心 選手が色を点けてくれた」という見出し記事は歌手の小林幸子さん。「厳しいことばかりの世の中—五輪は"鎮痛剤"」という見出し記事は音楽家のヒャダインさん。「ネガティブな教訓 検証してこそレガシー」(※「レガシー」の意味は"残すべき遺産・財産")という見出し記事を掲載した筑波大学准教授で社会情報学者の落合陽一氏。「内輪に閉じた東京2020五輪―世界に開かれた1964夢見る時代錯誤」という見出し記事は慶応大学教授で社会学者の小熊英一氏。

 閉会した東京五輪についてはさまざまな意見がある中、海外の受け止め方はどうだったのだろうか。アメリカのワシントンポスト紙の論評、アメリカのニューヨークタイムズ紙の論評、外交専門のオンライン誌の論評、中国メディア環球時報の論評、イギリスBBC放送など、いろいろな海外の受け止め方の記事を読んでみた。いろいろな論評にかなり共通することは、いつ終わるともわからない新型コロナウイルスの世界的パンデミックの状況下、「異常なパンデミック下での五輪だった。その中でも日本は努力した。開催されてよかった。」というものだ。

 外交専門のオンライン誌に「東京五輪を開催した日本は正しかった」と題する米国ハドソン研究所上級研究員のジョン・リー氏の寄稿文が掲載されていた。寄稿では、東京五輪の開会式までは「多くの人が五輪開催を無責任で危険なものだと酷評していた」が、開会式が近づくと否定的な意見が減少したとして、五輪開催の意義について「多くの人が考えを改めたことだろう。五輪開催の判断は勇気あるものだった。また、賢明な判断であり、このパニックの中で、トンネルの出口に光が見え始めている世界にとって必要な強壮剤でもあった」と綴っていた。また、感染対策については、「11000人を超える参加者の中で、24人のアスリートを含む276人の陽性者が出ただけで(注:8月2日時点)、ほぼ成功している」と綴った。

 米国のニューヨークタイムズ紙は、「思い出に残るオリンピック。その理由は正しいものか?」と題して、記憶に残る大会だったが、果たして五輪開催は正しいものだったのだろうかと問いかける検証記事を掲載していた。英国ガーデン紙は、「日本人の親切さと異常なまでのコントロール」をテーマに東京五輪を取材したバーネイ・ロネイ特派員が、五輪の特集記事を掲載していた。

 また、イギリス公共放送BBSは、「サヨウナラ!」と銘打った速報記事で、「我々はもう東京オリンピックが開催されないと思っていた。だが、彼らは見事に大会を成功させ、世界を楽しませた。多くの日本人が不確実性、疑い、怒り、懐疑を抱いた中で、延期の末に進行していった今大会について、"成功"という答えを保留している人もいる。その一方で永遠に記憶に残る時を過ごした人々がいるのも事実だ。我々はこの時を永遠に忘れない」と伝えた。また、このBBC放送の東京五輪閉会式でコメンテーターを務めたアンドリュー・コッタ氏は「私たちは東京で開催された2度目のオリンピックを忘れることはない。世界的困難の中で開かれた今大会は、永遠に語り継がれるものになるだろう。ありがとう、東京。」と語っていた。

 この東京五輪はすべてが異例ずくめの開催となった。選手村では軽微ないくつかの感染防止の違反事例も生まれはしたようだ。選手も含めた五輪関係者のコロナ感染者数は最終的[8/11時点]に511人に至った。(海外からの五輪大会関係は選手を含めて5万3000人。あと日本国内の大会関係者はボランティアを含めて数万人にのぼる。大会を通じての感染者数は参加者の1%にも満たなかった。かなりの感染対策を行った今回の五輪は、感染防止という意味ではほぼ成功だったのだろうかと思われる。) 

 東京などでの緊急事態宣言下のもと開催された東京五輪の最終盤には、東京都は1日の新規感染者数が5000人を出す事態となっていたが、これは無観客での東京五輪開催が影響したものではないとは今のところ言われている。(おそらく、五輪が中止となっていたとしても東京の感染状況は似たようなものだったのかと推測される。それくらい日本における第五波のデルタ変異株の感染力は強烈なのだろう‥。)また、東京五輪を人々が自宅でテレビ観戦し、外出を抑制していたことも事実だ。逆に五輪が開催されていなかったら、日本の感染者数はもっと多くなっている可能性もある。

 この夏の東京五輪開催に一貫して中止を主張し続けた日本共産党。政党機関紙の『赤旗・日曜版』(7月25日号)の一面は「感染が拡大—五輪は中止を」の見出し記事。8月8日号の一面は「もはや医療崩壊」の見出し記事。その見出しの下に(オリンピック開催後の7月25日号の見出しは、国民感情になじまない、さすがにまずかったと思ったのか)、とても小さく「オリ・パラ中止を」と書かれていた。「命と人権をないかしろ—中等症患者も"自助"か」のジャーナリスト青木理氏の記事が掲載されていた。

 青木氏はオリンピック閉会式が予定されていた8月8日のTBS・毎日放送の朝の日曜報道番組「サンデー・モーニング」でも、「デルタ株はたいへんな感染力で驚異」とした上で、「政府がロクな対策を取らないでオリンピックを強行したっていうことの影響は大きくて」と持論を展開。さらに「オリンピックをやってデルタ株で広がっちゃって」と五輪と感染拡大を関連づけ「予測された状況に、一定程度の対処もできていない」と政府を批判していた。

 まあ、サンデー・モーニングなどでのこの1年間の青木氏のコメントや発言を聞いていて、彼は日本の政治問題に関してはかなり優れたジャーナリストの一人だが、残念ながら国際状況を踏まえての国際的な視点・視野に弱さを感じる人だった。今回の東京五輪の開催の是非に関してもその視野は狭く、彼の勉強不足を感じてしまった。

 8月9日付の朝日新聞には、1ページを使って「さあパラリンピックへ―22競技539種目の熱い闘い!」が掲載されていた。あと1週間後には東京パラリンピックが開催予定だが、やはり心配されるのが、東京5000人・全国2万人超のコロナ感染状況だ。

 8月12日発売のスポーツ雑誌『Number』(東京オリンピック総集編)には、元スマップの稲垣吾郎・草彅剛・香取慎吾の「僕たち3人はここを見る!」と題された、東京パラリンピックに関する特集も掲載されていた。彼等はこの数年間、この雑誌を通じて数多くのパラリンピアン(選手)たちと対話をしてきている

 上記写真左より①②世界陸連会長のセバスチャン・コー会長。③④オランダのニク・キム選手。

 世界陸連のセバスチャン・コー会長は8月8日、東京都内のメーンプレスセンターで記者会見し、新型コロナ禍下で東京五輪が開催されたことに触れ、「コロナ下のこの条件下で開催されたことは奇跡にほかならない。選手に格別な舞台を用意してくれた東京には多大な恩義がある」とし、「(コロナが終息し)再び(観客が)楽しめる状況になったら、東京に戻ってきたい。(東京に)お返しがしたい」と述べて、将来的に東京での世界選手権開催に意欲を示していた。関係者によれば2025年の開催への含みだとのこと。2024年パリ五輪やこの2025年には世界的なパンデミックは終息している可能性はあるだろうが‥‥。

 東京五輪の自転車・BMX競技で金メダルを獲得したオランダのニク・キム選手は、自身のツィートで、「日本は元々好きな国だったのですが、また更に、親切な思いやりの日本に感動しました。コロナが落ち着いてから、旅しに日本に戻ってきたいと思います。たくさんの応援、本当にありがとうございました」と日本語で投稿していたのも印象に残った。