彦四郎の中国生活

中国滞在記

私が勤める大学に、習近平・中国国家主席来る

2021-04-13 14:33:36 | 滞在記

 中国では今年、3月5日から20日までの15日間、北京で全国人民代表者大会(全人代)が開催されていた。この1年に1度の大会は、通常は10日間ほどだが、今年の大会は異例の日数で開催されていた。中国の習近平国家主席は、この大会閉会直後の3月22日から25日までの4日間、私が暮らす福建省を視察していた。視察の前半は福建省の三明市や南平市の農村地域(世界的な茶業の地)を主に訪れた。三明市の農村地域は私も十数度訪れているが、町や村の人々は習主席の突然の来訪に驚いたにちがいない。

 南平市にある世界自然文化遺産の「武夷山」の渓谷で、竹で作られた筏船(いかだぶね)で、妻の彭麗媛さんと共に川下りを楽しんでいる様子も報道されていた。視察の後半は私が暮らす福建省の省都・福州に入った。市内を大型バスで走行し、沿道で手を振る大勢の人々に窓から手を振って応えるようす、市内の伝統的な建物群がのこる「三坊七巷」の商店街を歩くようすも。

 この4日間の視察の目的は何なのか?  思うに、「①昨年1月からの新型コロナ発生とその抑制、米中関係悪化にともなう緊張関係への対応など、この1年間の激務と全人代を終えたあとの骨休め」かと推測される。ここ福建省は、1985年から2002年までの17年間、廈門(アモイ)市副市長や福州市市長、福州市共産党委員会書記(福州市トップ)、そして福建省省長(福建省NO2)として過ごした懐かしい地だからだ。新婚時代からの結婚生活を送ったのもこの地だった。また、「②台湾と中国大陸の統一に向けて、台湾海峡に面するここ福建省で、統一に向けての(武力侵攻の可能性も含め)自分自身の思いを再確認し、国内外にアピールする」という目的もあるのかと思われる。

  習氏はその後、2002年には浙江省党委員会書記(浙江省トップ)、2007年に上海市党委員会書記(上海市トップ)、2008年にチャイナナイン(党常務委員会常任委員)、そして2012年に中国トップ(中国共産党総書記・国家主席)となり現在に至っている。1953年6月の生まれで私より1歳若い67歳。

 3月25日(木)の午後、私のスマホに「大学に習近平主席がきました!」という画像や動画が何人かから送信されていて、私も驚いた。習近平主席が大学を訪れて、周囲を囲む学生たちなどを前にスピーチを行ったのはこの日の午前中とのことだった。習氏が「希望同学们身心健康 徳智体美劳全面発展 最后都能够 为国家作出貢献 做対人民対社会有益的人 也能为你们自己的 幸福的生活 打出一片天地」とスピーチを結ぶと、学生たちから「オー!」っという一斉の声が湧いていた。

 中国福建省は中国の省の中では面積的には小さい方の省だ。面積は約12万平方キロ、人口は約4000万人。韓国の面積は約10万平方キロ・人口約5000万人、北朝鮮の面積は約12万平方キロ・人口約2500万人。中国では小さい面積の省だが、一つの国のような規模を持つ。面積的には日本(約38万平方キロ)の3分の1となる。

 福建省内の大学数は約100校あまりある。省内のトップ大学は国家重点大学の一つ厦門(アモイ)大学。続いて福州大学や、私も以前勤めていた福建師範大学となる。現在の習近平政権の中枢(中央委員など)には、この福建師範大学の卒業生が4人もいる。習近平国家主席が福建省で勤務していた時代の部下たちだ。現中国共産党政権での福建閥ともいわれる。

 この福建省での習近平主席の視察や私が勤める閩江大学でのスピーチのようすは、中国のインターネット記事や新聞などでも報道されていた。習近平主席の少し後ろには現校長(学長)がいて歩く姿が。

 大学の航空写真なども掲載されていたが、私の研究室がある福万楼の建物も見えていて懐かしい。大学構内の敷地面積は日本の北海道大学くらい。これでも中国の大学では普通の広さ。

 この閩江大学に突如、習近平国家主席が訪問したしたのには理由がある。なぜ福建師範大学や厦門大学ではなく閩江大学が来たのか。実は、習氏は1990年代の福州市市長や福州市党委員会書記の時代に、6年間あまり閩江大学の校長(学長)を兼務していたことがあったからだ。(※中国では、地方行政の長などが、大学の学長を兼務することは珍しくない。行政の管轄下=大学だからだ。ちなみに、「校長」=「学長」の上位に●●大学党委員会書記が存在する。)

 2017年5月下旬の頃、閩江大学構内にある閩江大学新華商都学院(私立大学)にたまたま立ち寄ったら、その建物の1階エントランスには、閩江大学に関する歴史紹介とともに、習近平国家主席と閩江大学の関連のことが紹介された展示が行われていた。(1958年創立の閩江大学は2018年に創立60周年を迎えた。)

 習氏が学長だった当時の学生たちの大学卒業の証明書には、習氏の直筆のサインが記されているが、それらも展示されていた。また、大学創立50周年にあたる2008年とには、「祝賀メッセージ」なども習氏から贈られているので、それらも展示されていた。2018年の創立60周年にも祝賀メッセージが送られていたようだ。

 このように、習近平国家主席にとっては、福建省勤務時代の懐かしい大学だ。このため、閩江大学への訪問となったのではないかと推定する。また、「海の一帯一路政策」の中国の拠点として数年前から福州の沿岸一帯は港湾整備が行われており、閩江大学にも2015年頃に新たに「海洋学部」(大学院含む)が新設されている。さらに、台湾統一の準備の一環として、福州市沿岸から平譚島(福州市)にいたる長大な橋が建設され、島から台湾までの130kmにわたる海底トンネル建設計画にも着手し始めようとしている。

 台湾を巡って、中国、台湾・日米などとの緊張関係が高まる中、習氏はこの激務の1年間のしばしの休養視察も兼ねて、懐かしさもあるここ福建省への視察旅行となったのかと思う。

 習氏来校の25日(木)の午前中の中国時間8:30~10:10、私はこの時、閩江大学外国語学部日本語学科2回生2班(20人)の学生たちとのオンライン授業を日本からしていた。翌日26日、3回生たち(約40人)とのオンライン授業の時に、「昨日は習主席が大学に来たようですが、その会場に行っていた人はいますか?」と聞いてみたところ、数人が「行っていた」と答えた。警備の関係もあり、会場に入れる学生たちの人数制限が実施されていたようだ。翌週の30日(火)、2回生たち(約40人)とのオンライン授業の際にも「行きましたか?」と聞くと、40人中2人だけが行っていた。2回生たちは25日の午前中は全て授業があり、ほとんど会場には行けなかったようだ。

 スピーチの会場となった閩江大学構内の閩江大学新華商都学院前の広場。2017年5月に習近平国家主席関連の展示があった建物の前の広場だ。私の研究室のある建物からも近い。ちなみに、この新華商都学院(閩江大学付属の私立大学)の学院長(学長)は、ドイツ人のノーベル経済学賞受賞者(2006年度)のフェルプス氏。2018年2月、中国の春節を前にした李克強首相との座談会「メイド・イン・チャイナ2025戦略」に参加していた。

※中国には現在2800ほどの大学があるが、そのうち私立大学は380校ほど。○○大学◆◆学院というのは私立大学。(◆◆学部の意味もあり)    〇〇大学付属◆◆大学という感じに近いかと思う。閩江大学には他にもう一つ私立大学が付属している。私立大学の約半数ほどは、この「〇〇大学◆◆学院」だ。私が以前に勤めていた福建師範大学にも、福建師範大学協和学院(私立)がある。