梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之旅日記’08 終わってしまいました

2008年07月31日 | 芝居
本日、板橋区【板橋区立文化会館 大ホール】での2回公演をもちまして、平成20年度<公文協中央コース>の全行程が終了いたしました。

『神田祭』での<着付後見>が、筋書きに載る唯一の私の仕事でしたが、先日お伝えしましたように、全狂言での<花道揚幕>の開閉係や、『毛谷村』では子役さんが勤める弥三松の用事をする黒衣も勉強させて頂きました。が、今回一番嬉しかったのは、兄弟子の梅蔵さんがお勤めになった『毛谷村』の<杣 斧右衛門>の演技にかかわる“こだま”をさせて頂いたことでございます。
母を失った斧右衛門が、亡骸にむかって思わず「婆さま!」と呼びかける。するとどこからともなく同じような声が返ってくる。母が生き返ったのではないかと思うものの、それが山彦だったことを知り、再び悲しみにくれる…。
そんな場面におきまして、舞台裏で、梅蔵さんのセリフに呼応して、同じように声を出すという役目を、この度勉強させて頂きました。
大役を勤める兄弟子のお芝居を壊さぬよう、出来る限りの努力をいたしました。公演中も、梅蔵さんからダメ出しがあったり、「こういう風にしたい」とお言葉があり、そのご意向に添うように、日々工夫をしてまいりましたが、その成果は御覧になった皆々様のご意見に従うのみでございますが、一門同士で、短いながらも一つの<見せ場>を担当できましたこと、とても有難く、得難い経験をさせて頂きました。本日の千穐楽の舞台を終えてから、梅蔵さんから「(ひと月)どうも有り難う』とおしゃって頂いた時は、本当に本当に嬉しゅうございました。

『神田祭』の後見も、無事勤め上げることができましたが、これとても、今月某日、梅蔵さんが教えてくれたひとことのおかげなんです。舞台上のことに限らず、色々教えて下さる(ときにはお叱りも)先輩がいるということの有難さを、けして忘れてはいけないと、切に思ったひと月でございました。

今回の「旅日記」は、ほとんどお芝居の話をいたしませんでしたが、私の心の中で、日々場所を移す、その“土地”でのお話をさせて頂きたいという思いが強かったせいですが、月日が過ぎてから読み返したときに、(ああ、こんなことがあった)と懐かしく思えるような日記にはなったかと思っております。
次回の旅日記がどのようになるかは私自身にもまったくわかりませんが、仕事で全国を巡ることができるという有難い職業。1日1日を大切に、普段はできない体験を楽しみつつ、自身の糧にできたらと思っております。

ほぼ丸ひと月の“紙上巡業”にお付き合い下しまして、誠に有り難うございました。