梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之旅日記’08 康楽館へようこそ

2008年07月05日 | 芝居
お邪魔するたびに楽しい思い出が生まれる康楽館。趣きいっぱいの<芝居小屋>の内外を、ちょっとご紹介させて頂きますね。

康楽館は明治43年8月に開場したそうで、今年98歳! 建造当時から移築もされず立て直しもされず、ほぼそのままの形で現在も興行ができる劇場という意味で、<日本最古の芝居小屋>という表現もされています。
外観は洋風のモダーンな作りですが、一歩中へ入りますと…。

本花道をそなえた舞台、平土間席と桟敷席からなる客席、純和風の作りとなっておりまして、このギャップがまた魅力の一つですね。客席は2階席もあります。舞台から客席をのぞみますと…。

定員は約600名。ここが連日大入り満員、人々の熱気に満ちあふれるというわけです。
舞台中央から真っすぐ伸びている細い通路は<歩み>と呼ばれるお客様の移動用のもの。

さて、間口も歌舞伎座の半分以下の小さな舞台ですので、付随する設備もごくごくミニサイズ。大劇場での仕事に慣れている私どもにはびっくりするくらいですが、たとえば舞台下手の<黒御簾部屋>、お囃子さんのブースもこんなに狭く…。


人力による<回り舞台>もございますが、この中におさまるように道具を飾ってしまいますと、現行の演出では対処できなくなることも多く、現在の歌舞伎公演ではほぼ使われおりませんのが、致し方ないこととは申せ、残念でもございます。


では舞台裏へまわりましょう。舞台面との間に何の仕切りもなく、装置のすぐ裏に楽屋がしつらえられております。とういうわけで開演中はおしゃべり厳禁。私は何度注意されたことでしょう。


1階に2部屋、2階に5部屋。どの部屋も畳敷き、化粧道具を並べるための机が作り付けで備えられています。



この階段にしても、100年近い年月をかけて自ずと磨かれてきた光沢がとても美しいのです。ちなみに10年くらい前の巡業で、この階段から“転落”して大騒ぎになった付き人さんがいたそうですが、現在も現役バリバリです。

楽屋の壁の落書きは、それこそ開場当初のものとおぼしきものもあり、貴重な資料ともいえますが、書かれた当時の時局をよく表しているものもあり、歌舞伎役者の端くれとしましては見逃せない大大先達の記録もあり…。


平成14年には、晴れて国の重要文化財に指定された貴重な建造物。そんな<宝物>の中で芝居ができる、観ることができるということは、考えてみるとすごいことですよね。皆様も、是非是非一度はお越し下さいませ!