すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第10号 3万人の自殺者

2004-08-09 14:17:45 | Tokyo-k Report
 昨年の自殺者が3万4427人にのぼったと警察庁が発表したのは、もう半月以上前のことになる。6年連続して3万人を突破し、最悪の数字を更新したのだという事実には、ただただ暗澹とさせられた。しかしそのとき受けた衝撃が、時の経過と共に薄れていくかといえば、胃の腑の底に苦い滓が溜まって行くように、私の中ではむしろ日々、苦さを強めている。いったいわれわれの国は、社会は、どうなっているのだろう。自殺に至る理由はそれぞれ深く個人の事情に帰するのだろうが、日本という社会全体が、深刻な「鬱」状態にあるのではないだろうか。

 病気を苦にしてという理由が、昔からの一番多い自殺の動機だが、事業の失敗やリストラなど、仕事に関わるケースが全体の4分の1を突破、急増していることが近年の特長らしい。したがって比較的年長者や働き盛りの男性が多くなる。ということはすなわち、その周囲には自殺による影響を受ける人たちもそれだけ多いと推察できる。悲劇は自殺者本人にとどまらず、この統計をはるかに超えた広がりを持っているに違いない。

 「失われた10年」というが、われわれ日本人はそれに先立つずっと前から社会改革に目をつぶり、来るべき時代への準備を怠ってひたすら経済バブルに酔っていた。そのことを思い起こせば、日本人が失ったのは10年にとどまらず、4半世紀という長きにわたっていると言わなければならない。その結果、われわれはどんな社会で生きていくことになったか。

 年金は制度疲労がはなはだしく、老後の安心というより不安を掻き立てるものとなった。若者は子育てに幸福を見出すどころか、結婚に夢を持たなくなって少子化社会は先が見えない。デフレは克服されつつあるというけれど、霞が関の米国型市場主義社会を信奉する官僚政策に乗った自民党政治は、社会に「勝ち組み」「負け組み」の軋轢を生じさせただけだった。サッカーの中国人サポーターの振る舞いはいただけないけれど、相変わらず世界の人々から慕われているというより嫌われている日本人。どちらを向いても元気になる状態とは言えない。

 日本人は今、漂流状態にある。それは、われわれが社会目標(国家目標という表現は使いたくない)を見失っているからだ。ここまで整備されたインフラの国土を持ち、圧倒的な外貨準備を有する経済となった。しかし社会はあちこちで構造矛盾が顕在化し、行き詰まっている。今こそ、大きな社会目標を掲げるときではないか。

 道路公団や郵政改革など、各論でキュウキュウとしているときではない。国や地方の全制度をいったんご破算にして、もういちど国を作り直す覚悟を固める。当然、憲法も議論しなければならない。守るべき理念は守り、新しい国づくりの指針は新憲法に盛り込まねばならない。その過程で社会保障制度を正し、そして財政再建の道筋をきちんと国民に示す。

 これこそ国会がやらなければならない仕事であるが、もはや政治と中央官僚という政策工場そのものが老朽設備になってしまった。この際、「大国民会議」を立ち上げ、目標年次を定め、あらゆる角度から国家改造に取り組むしかない。例えばEUのように、国境を無くして隣国民同士肩を組み、花火を挙げて祝うような目標が日本にもあったら、自ら死を選ぶ日本人の数は、確実に減ると私は確信する。

 それにはよほどのリーダーが出現しなければならない。現政権ではとうてい成し得ないし、われわれはそうした新たなリーダーを見出すことができないでいる。そこに日本の「鬱」の元凶がある。
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