すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1763号 築地にて「どうしようか」と語り合う

2021-12-26 05:55:45 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】先ほどから老夫婦は、何を思って伽藍を眺めているのだろう。古代インド仏教の様式を取り入れたという石造建築が、冬陽を浴びて輝いている。「どうします、私たち」「そうだねえ、そろそろ決めなければ」。男性は後期高齢者に達した頃合いのようだし、女性は程なく古希を迎えようかというお歳ごろだろうか。寄り添って、そんなことを語り合っている睦まじい二人に見える。都心では珍しい、広々とした空が抜ける築地本願寺の昼下がりだ。



この寺は「親鸞上人を宗祖とする浄土真宗本願寺派の直轄寺院で、首都圏における開教活動を担う関東最大の念仏道場です」とパンフレットに書いてある。1617年に京都・西本願寺の別院として浅草に建立され、明暦の大火で焼失したため幕府から移転先に与えられた代替地は隅田川河口の海の上だったという。そこで対岸の佃島の門徒らがやって来て地を築き(埋め立て)、1679年に現在地に再建された。当時は「築地御坊」と呼ばれた。



だがその御坊も関東大震災で焼け、1934年に落成したのが現本堂なのだという。この再建に伴い、正面が南から西向きに改められ、現在の独特の外観寺院になった。かつての正面は58の寺院がひしめく寺内町で、現在は築地の場外市場になっている。そういえばこの老夫婦、手に買い物袋を下げている。市場街はすでに暮れの買い物客で混み始めており、夫婦もドンコに鰹節と、年越しの乾物を買い込んできたらしい。なかなかしっかり者の夫婦だ。



先ほど場外市場で「昔、よくお昼を食べに来たんだが」などと言いながらキョロキョロしているこの男を見かけたのだった。路地を入り込んだ小さな店に通ったというが、どれほど昔だったのか、「ずいぶん変わってしまった」とぼやきながら歩き回っている。老夫婦の観察を続けると、奥方は一軒一軒店を覗いては「あら、これ安いわねえ」などと話し込んでいる。市場が豊洲に移転して、場外も寂れるかと思ったら、アメ横のような雑踏ぶりである。



さて本願寺の境内に戻る。老夫婦は本堂の石段を登りかけている。男はさすがに帽子を外し、神妙な面持ちであるけれど、信仰心は欠落しているのであろう、ご本尊には軽く目を伏せただけで、係の女性に「合同墓について教えていただきたい」と語りかけている。二人は早速、地階の受付に案内され、その仕組みや手続きを聞いている。築地本願寺は「都市部で暮らす人々のニーズに対応するため」と、新しい埋葬スタイルを開設、募集しているのだ。



生前の本人が申し込み、死後、寺が遺族から遺骨を引き取り埋葬する形が一般的らしい。遺骨は圧縮され、合同の区画に納骨されるが、他人の骨と混ざることはない。現代人の多くが離れた「檀家」や「累代墓」の制約はなく、個人が個人の意思で、個人として眠るのである。ただ「一人では寂しい」という軟弱なこの男のような場合、「壁面に刻む名前を奥様と並べることは可能です」という配慮がある。二人には、こうした墓を求める事情があるのだろう。



納骨された遺骨はどうなるのかと、男は質問を続ける。案内の職員さんは「収蔵後のお骨は戻すことはできませんが、寺が続く限り、大切にお守りします」と説明する。男は「寺が続く限り」に引っかかり、「ここ30年で仏教系の国内信者数は45%も減少している」というニュースを思い出している。また「東京湾に津波が襲来したら、水浸しだな」とも考える。しかし「死後のことは仕様がない」と、悟ったような顔をして帰って行った。(2021.12.21)























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1 コメント

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墓仕舞い (niigata雀)
2021-12-27 12:42:13
先日、当家の墓を永代管理墓に契約変更した。要は管理費先払いし、50年後に墓を撤去し合同墓に埋葬する。26年前に父が亡くなった時に建立し、昨年母が入った。私もいづれ入ることとなるが、その後は親戚等に迷惑をかけたくない。自分で墓を建て、自分で墓を仕舞うこととなるる。

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