すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1578号 白金台でアール・デコ散歩

2018-05-26 07:23:53 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】東京で白金(しろかね)といえば、反射的にセレブとかシロガネーゼといった形容詞が付く土地柄だから、私とは無縁であるし関心を向けようがない街である。とはいえたまに首都高速で付近を通りかかると、道路に添って深い森が広がっていることに、いつも「何があるのだろう」と眺めてはいた。この日、目黒散歩を延長して高速の下を潜ると、都立庭園美術館の前に出た。「ああ、ここにこれが」と、東京の謎がひとつ解けたのである。



目黒散歩を楽しんだ私は、目黒駅にまで延びている品川区を横切り、高速を潜って港区に脚を踏み入れたことになる。武蔵野台地が芝の海岸に落ちて行く際あたりだろうか、目黒通りが広々と延びて行く白金台である。道路の美術館側は自然教育園の森が隣接し、都会では珍しいほどの緑が埋めている。反対側はマンションがデコボコ林立し、潤い無縁の都会の風景が広がっている。



庭園美術館は、かつての朝香宮邸そのものを美術品に見立てるという、ユニークな美術館だ。ヨーロッパでアール・デコと総称される装飾様式が全盛だった1933年(昭和8年)、その美意識を導入して宮内省内匠寮によって建設されたのだという。ラパンやラリックら最高のデザイナーによる装飾がふんだんに用いられていて、それなりの時代は感じるものの、今でも十分に斬新で、贅沢なアール・デコの宝石箱に迷い込んだ思いになる。



模様を幾何学的に組み合わせて優雅なラインを生むアール・デコが放つ匂いは、女性的である。だから入館者はほとんどが女性で、オジさんやジイさんは場違いな戸惑いを覚えてうろうろしている。新館ではフランスの絵本展が開催され、女性たちが優雅な熱を込めて眺め入っている。よくぞこれだけ、20世紀初頭のパリの香りを、極東の島国で味わえるものだと、感服する邸宅である。



しかし待てよ、と立ち止まる。昭和8年といえば日本は国際連盟を脱退して国際的孤立を深め、金融恐慌による不況が続いて農村は疲弊、若者の自殺が社会問題化した時代である。そんな閉塞社会とは無縁に、ここ白金台では、贅を尽くした館が建設されていたのである。富の偏在は社会のサガであり、そのパトロン性があればこそ芸術は磨かれ伝承されて行くのは歴史の事実だ。しかしその美を堪能しながらも、待てよ、と思うのである。



芝が広がる西洋庭園では、緑陰のあちこちでシートを広げ、おしゃべりやランチを楽しむ女性たちが散見される。服装から見てご近所の主婦の方々のようである。そうか、彼女たちこそシロガネーゼなのだろう。そう気付いて私は、そそくさと庭園散歩を切り上げる。



隣接する自然教育園に入ると、たちまち緑に絡めとられる。大名屋敷以来「遷移」した樹々が「極相林」を形成し、空気が実に美味い。薄暗い木陰に「白金長者館跡」が埋もれている。室町時代に銀(しろかね)を貯め込んだ、ここの地名のご先祖さまである。突然、山椒大夫の世界に連れ込まれた気分になる。ということは、シロガネーゼは安寿と厨子王の末裔か? まるで白日夢だ。



台地の東端を下って五反田を目指す。高級そうな住宅地が続く。目黒同様、家々には外車(ほとんどが独車)が駐車している。国産車に乗っているようではセレブの名折れなのだろうか。大きな病院が見えて来た。20年程前、母を看取った病院である。今度は兄が入院している。「入院保証人」として見舞いに行くのだ。(2018.5.22)















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1 コメント

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都立庭園美術館いいね (Niigata雀)
2018-05-31 21:14:36
昨年一月に行ってきました。七宝展を開催してました。昔の人はよくあんな手の込んだ七宝を作りますね。建物も当時としてはハイカラで百年たった現在でも立派に通用します。庭園がまたいいですね。
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