すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第573号 「滝川武」を知らないか

2008-02-07 07:15:29 | Tokyo-k Report

【Tokyo】貧弱とはいえ、我が家は私の厳しい審美眼(と厳しいお財布事情)を通過した美術品で賑わっている。その《すずめギャラリー》の収蔵品に、新たな2点が加わった。一つは三岸節子の『花』(1997年)。もちろん原画が私に購入できるはずはなく、その作品を元に200点プリントされたリトグラフである。もう一つは「Takeshi Takigawa」とサインの入った版画=写真・部分=で、「No.377・・・4/20」とある。滝川武という北海道出身の画家ということだが、私はこの作品が初対面であった。

私は特段、物欲の強い男ではないのだが、絵や焼き物にはどうも弱い。先日、旭川に出かけた折、街の画廊の「恒例・美術オークション開催中」という看板が目に入ったのがウンの尽き、「欲しがり虫」が蠢いてしまったのである。近在のコレクターが出品して画廊に展示、最低入札価格を決めて入札者を募るという仕組みで、いってみれば「中古品市」である。

かねがねリビングに飾る明るく鮮やかな絵が欲しかったので、『花』はすぐに「その気」になった。私にとってはなかなか高額な「最低価格」が設定されていたのだけれど、頑張って若干上乗せをした金額を書き込み、箱に入れた。誰かがそれをわずかでも上回って応札すれば私の手には入らない。セリではないから、チャンスは1回である。この呼吸がオークションの醍醐味なのだろう。

しかしもう一枚の滝川作品はずいぶん迷った。奇妙な絵柄なのだ。題材となる民話でもあるのか、男(だと思われる)が二人、半裸の女人を担ぎ上げていて、土俗的なエネルギーに溢れている(ように思われる)。豊満な胸を顕にした女人は恍惚とした表情を浮かべている(かのように見える)が、その肌は白く、死人のようでもある。

下地に墨を流しているのか、黒が全体を通して基調になっていて、白、赤、青、黄が用いられているものの、「くすんだざらつき」のような風合いが独特である。絵の具に油が含ませてあるのかもしれない。線は複雑に重なってカーブを描いている。木版のような鋭さはなく、荒々しいが、1本1本の線は柔らかい。素材は何を用いているのか、見当がつかない。

いわゆる「綺麗な絵」ではない。居室を飾るには難しい絵柄だ。買っても飾るところがなさそうだ。それでもどういうわけか、気になって目が吸い寄せられる。「北海道出身の作家に旭川で出逢うのも縁というものだ」などと勝手な理屈をつけ、「ダメモト」のつもりで入札して帰京した。

10日ほどしてオークション期間が終わり、旭川から電話が入った。「落ちました」というものだから「落選」したのだと勘違いしてしまったが、2点とも「落札」ということだった。そして無事、送られてきたのだが、案の定、滝川作品に対する家人の反応は芳しくない。「飾るなら、目に入らないところにして!」などと無体な主張をして私を困らせる。しかし確かに掲げる「場所」が難しい作品である。

画廊が送ってくれた滝川氏の個展カタログは、1978年という古いものだった。それによると出身は北海道森町で、独学独歩の画家らしい。「眼をつぶった時だけ見えるもの、その頼りないイメージを大切に絵を造る」「私は沢山画面にものを入れるが何の意味も無い雑居なのである」「私が絵を描く意味を感じる時は絵を描けなくなった時だろう」などと、難解な言葉が綴ってある。御健在ならそろそろ90歳になられるはずだ。

難しい絵であるけれど、謎めいていて面白い。なんだか私はそのエネルギーにからめとられてしまったようである。「滝川武」をもっと知りたい! どなたかこの画家を御存知ないか!?
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1 コメント

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滝川武 (月の女神)
2018-05-03 07:20:19
私も、彼の No.476 1/20木版画を 所有しています。
私のは、2人の女性がまどろんでいる優しい作品で、居間に飾っていました。
額縁が同じ物なので、同じ時期の作品でしょう。

40年近く前に、旭川で購入しました。

どんな人で、どんな作品があるのでしょうと、興味があって、検索したらこの文に出合いました。
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