すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第899号 コーヒーと工業デザイン

2011-06-09 11:23:59 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】これから書こうとしていることは、慌ただしい世の中にとっては何の意味も成さない、どうでもいい私的な些事である。だからお忙しい方はこの先を読み続けることはお止めになった方がよろしい。と、お断りしたことでいささか気が楽になったので、「私は大のコーヒー好きである」と書き出すことにする。

コーヒーファンではあるけれど、豆がどうした、焙煎がどうのこうのと講釈するほどマニアックではない。それでも自分なりにブレンドして豆を挽き、日に何杯も楽しんできた。ところが最近は、もっぱらインスタントコーヒーを飲んでいるのである。何故そんなことになったか? インスタントコーヒーを大量に買ってしまったからである。

何故買ったのか? その容器が欲しかったのだ。MAXIM(味の素セネラルフーズ社〈AGF〉製)の150g瓶。その空き瓶が欲しいばかりに、大量に買い込んだのだ。おまけに「100gパックプレゼント」というオマケまでついて来たものだから、わが家の棚はMAXIMで埋まってしまい、以来せっせと消化に努めざるを得ないハメになった。

数ヶ月前のこと。由来は覚えていないが、わが家の食料庫にこのインスタントコーヒーがひと瓶、置いたままになっていたのを取り出した。中身に興味はなかったものの、改めて眺めて見ると容器はガラス製で、なで肩をした円筒形の形状はほどよくバランスがとれている。蓋はプラスチックでいかにも安っぽいけれど、脱着してみると極めてスムーズで心地よく、密封性が高そうだ。

デザイナーは日本人か米国人か(ちなみにマキシムの商標権は米国のクラフトフーズ社にあって、味の素と提携している)、実に優れた工業デザインだと感嘆させられた。

コーヒー豆は元来、保存に向かないようだから、焙煎後は速やかに使用されるべきなのだろうが、家庭ではある程度のストックが必要だ。しかも自己流とはいえブレンドを楽しむためには複数の豆を揃えて置く必要がある。その結果、その都度買い増した形状のバラバラな保存用キャニスターが、棚を凸凹と占拠することになる。これがスッキリ癖の私には我慢ならないことで、なんとか容器を揃えたいと考えていた。そこにこの《発見》である。

さっそく買いに出かけた。ところがスーパーを何軒はしごしても売っていない。あるのは100g瓶だけである。むしろ100g瓶の方が、形状は同じで小振りなだけかわいらしく、女性の手などにはこちらの方が扱いやすそうだ。しかし私にとっては容量が足りない。私としては豆を200g単位で買って来るので、それがいっぱいいっぱい収まる150g瓶が欲しいのだ。以来、苦節3ヶ月、隣り街のスーパーまで探しに出かけもしたが、150g瓶は神隠しにでも遭ったように姿を消しているのだった。

さて、ここからが暇人の執念というお話しになる。何ごとにも「デザイン優先」の私にとって、どうしても150g瓶を揃えたい。探しあぐねた私はメーカーのお客様相談室にメールを送った。「MAXIMは容器が優れものだと感心しています。ところが150g瓶が見当たりません。私の街ではどこで売っているでしょう?」

すぐに回答が来た。「メーカーとしても、どのお店で現在並んでいるかはっきりとは把握できません。どうしても100g瓶の方が売れ行きがいいのです。最近、お客様の街の近隣で150g瓶のセールを展開した例はAとBの2店があります。在庫が残っているか、お問い合わせください」と、電話番号が記してあった。さっそく電話した。「ない」ということだった。

数日後、B店を通りかかったので「念のため」と寄ってみた。すると「セール!」と大書したポスターの下に「MAXIM150g瓶+100gパック」が運ばれ、山積みされている最中だった。私の電話が契機となって、売れ残って倉庫入りしていた150g瓶のセール用パッケージが店頭に引き上げられた、ということなのではないか。

私は「見つけターーー!」と歓声を挙げたいのをこらえて、5セットを買い込んだ。苦節3ヶ月の執念が実った瞬間だった。しかしその結果、わが棚には前からあったひと瓶と合わせ、1400gのインスタントコーヒーの山ができたのである。わが家のコーヒー党は私一人なので、いつになったら豆に戻れるか見当がつかない。だからといって廃棄などとんでもないことである。

それにしてもAGFの対応は適切だったし、改めて瓶は出色の工業デザインであると感じている。「150g瓶+100gパック」でセール価格は確か698円だったから、瓶の原価は果たしていくらなのだろうか? コストの低い地域で大量に生産されているのだろうが、デザインとは凄いもので、安価ではあっても容器としての役割りを末永く続けて行く力を持っている。

《優れたデザインを手に入れるためには、我慢と努力が必要なのだ》というのがこの物語の顛末である。蛇足ながら、私がMAXIMはインスタントだからと軽んじて書いているように感じられたかもしれないが、AGFの名誉のために記しておくと、MAXIMの味は下手な豆よりおいしいくらいだ。




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1 コメント

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わたしも気に入ってます (たか)
2019-03-24 15:39:41
この瓶の形 わたしも気に入ってます
瓶だけ売ってくれないかなぁ〜
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