〈「白花露草」(平成28年8月24日撮影、下根子桜)
「遠いところから一日に三回も」は無理
吉田 となれば、「昭和六年七月七日の日記」中の露に関する他の記述にも信憑性に欠ける点がありそうだな。
鈴木 そこで直ぐ湧いてくるのが次の新たな疑問だ。森は前掲書の中で、
彼女の思慕と恋情とは焰のように燃えつのつて、そのため彼女はつい朝早く賢治がまだ起床しない時間に訪ねてきたり、一日に二回も三回も遠いところをやつてきたりするようになつた。 <『宮澤賢治と三人の女性』73pより>
と書いているが、「一日に二回も三回も遠いところをやつてきた」ということは、はたして事実だったのだろうかという疑問がさ。荒木 さっき俺も、そして吉田も言ったように、当時の交通事情等を考えれば直ぐ想像できるね、少なくとも「一日に三回も遠いところをやつてきた」ということは無理だと。つまり遠い「鍋倉」から一日に三回も下根子桜にやって来ることは当時の場合ほぼ不可能だべ。
吉田 そうだよ。せいぜい、週末とかに同心町の生家に戻っていた場合にはその回数は可能であっただろう。がしかしそうなると、今度は「遠いところを」と言えなくなってしまうし。
荒木 あっ、俺思い出した。
吉田 何だ唐突に。
荒木 俺さ、そういえば当時の花巻電鉄の時刻表持ってたはずだ。待ってろすぐ持って来っから…
鈴木 そういえば荒木は少年当時「鉄ちゃん」だったもんな。
吉田 それじゃ、荒木が戻ってくるまでにもうちょっとさっきの地図に付け加えてみようじゃないか。例えば、僕の記憶によればあの辺りには「ふたつぜき駅」や「くまの駅」そして「にしこうえん駅」等があったはずだからそれらを付け足してみてくれないか。
鈴木 そうそう、そういえばかつてはそんな駅がたしかにあったな。付け足してみると……こうなるかな。
【当時の花巻の地形図】
<五万分の一地形図『花巻』(昭和22年発行、地理調査所)より抜粋>
(それを二人で眺めていたところに荒木が息せき切って戻ってきた)
鈴木 お疲れ。ずいぶん早かったな。
吉田 荒木はばか真面目だからな、走って行って走って戻って来たんだ。
荒木 ん、まあな。だって嬉しいじゃないか、大正15年の時刻表があったんだよ。
鈴木 そういえば、上田哲の論文によれば、露が宮澤家別宅を訪ねていたという期間はたしか大正15年~昭和2年頃だったから、まさに願ってもない時刻表と言える。
荒木 その時刻表はこの通りだ。
《表1 花巻温泉電氣鉄道鉛線列車時刻表》
鈴木 すると、この地図上でその距離などを計算してみると、ざっと見積もってどんだけの距離があり時間を要するんだ、荒木。
荒木 そうだな、この地図と時刻表とを併せて考えれば、露は“鉛線”を使ったであろうし、その区間は「二ッ堰駅~西公園駅」であったとしてほぼ間違いなかろう。だからおそらく、
したがって、当然その当時はこの電車以外には基本的には徒歩しかないはずだから、その所要時間は
露の下宿→下根子桜(宮澤家別宅)
までの所要時間は、電車のつなぎが上手くいったとしても約2時間はかかると判断できそうだ。
吉田 ということは、露の下宿~下根子桜(宮澤家別宅)を往復するのに少なくとも約4時間はかかりそうだ。だから、もしこれを
荒木 まして、その鉛線「ふたつぜき駅」の始発発時刻は5:44、そして「にしこうえん駅」の終電発時刻は8:22だ。どうやって「一日に三回も遠いところをやってきたり」できたんだべが。
吉田 しかも、露は当時寶閑小学校の先生をしていたのだから、一日に三回どころか一日に二回であってもそこから下根子桜の賢治の許にやって来ることはほぼ不可能。よしんばそれが仮にできたとしても、そんなことをしていたら下根子桜の別宅に露はどれでけの時間滞在できたというのだろうか。
だからせいぜい、露が週末や長期の夏休みや冬休みに生家に戻っていた際にであれば、
一日に二回も三回もやってきた。
ということはあり得たかもしれないが、ただしそれは
遠いところをやってきた。
ということにはならない。露の生家と下根子桜の別宅との間は約1.5㎞、すぐ近くと言っていい距離だからな。
荒木 したがって、露が
一日に三回も遠いところをやってきた、
ということは、まずあり得ないし、
一日に二回も遠いところをやってきた。
ということさえもほぼあり得ない。
吉田 つまり、
鈴木 となってしまうと、
荒木 つまり、先の、
続きへ。
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賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』
〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました。
そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
電話 0198-24-9813
荒木 そうだな、この地図と時刻表とを併せて考えれば、露は“鉛線”を使ったであろうし、その区間は「二ッ堰駅~西公園駅」であったとしてほぼ間違いなかろう。だからおそらく、
露の下宿~約1㎞~寶閑小~約3㎞~二ッ堰駅~鉛線約25分~西公園駅~約1.5㎞~露生家~約1㎞~下根子桜(宮澤家別宅)
となるだろう。したがって、当然その当時はこの電車以外には基本的には徒歩しかないはずだから、その所要時間は
露の下宿~約15分~寶閑小~約45分~二ッ堰駅~鉛線約25分~西公園駅~約20分~露生家~約15分~下根子桜(宮澤家別宅)
となるだろうから、露の下宿→下根子桜(宮澤家別宅)
までの所要時間は、電車のつなぎが上手くいったとしても約2時間はかかると判断できそうだ。
吉田 ということは、露の下宿~下根子桜(宮澤家別宅)を往復するのに少なくとも約4時間はかかりそうだ。だから、もしこれを
一日に二回も遠いところをやってきたりするようになったとすれば、約8時間は、
一日に三回も遠いところをやってきたりするようになったとすれば、約12時間は
最低でもそれぞれかかる。一日に三回も遠いところをやってきたりするようになったとすれば、約12時間は
荒木 まして、その鉛線「ふたつぜき駅」の始発発時刻は5:44、そして「にしこうえん駅」の終電発時刻は8:22だ。どうやって「一日に三回も遠いところをやってきたり」できたんだべが。
吉田 しかも、露は当時寶閑小学校の先生をしていたのだから、一日に三回どころか一日に二回であってもそこから下根子桜の賢治の許にやって来ることはほぼ不可能。よしんばそれが仮にできたとしても、そんなことをしていたら下根子桜の別宅に露はどれでけの時間滞在できたというのだろうか。
だからせいぜい、露が週末や長期の夏休みや冬休みに生家に戻っていた際にであれば、
一日に二回も三回もやってきた。
ということはあり得たかもしれないが、ただしそれは
遠いところをやってきた。
ということにはならない。露の生家と下根子桜の別宅との間は約1.5㎞、すぐ近くと言っていい距離だからな。
荒木 したがって、露が
一日に三回も遠いところをやってきた、
ということは、まずあり得ないし、
一日に二回も遠いところをやってきた。
ということさえもほぼあり得ない。
吉田 つまり、
「昭和六年七月七日の日記」の中の、
彼女は……一日に二回も三回も遠いところをやってきたりするようになった。
という記述内容は、物理的にも地理的にもあり得なかった。
と判断をせざるを得ない。彼女は……一日に二回も三回も遠いところをやってきたりするようになった。
という記述内容は、物理的にも地理的にもあり得なかった。
鈴木 となってしまうと、
……どうやら彼女の思慕と恋情とは焔のように燃えつのって、そのために彼女はつい朝早く賢治がまだ起床しない時間に訪ねてきたり、一日に二回も三回も遠いところをやってきたりするようになった。
という記述内容全体に一体どれだけの真実が含まれていたのだろうか。私は不安が増すばかりだ。 荒木 つまり、先の、
(露は)彼女の勤めている学校のある村に、もはや家もかりてあり、世帶道具もととのえてその家に迎え、いますぐにも結婚生活をはじめられるように、たのしく生活を設計していた。
の場合にもそうだったのだが、今回の、 (露が)一日に二回も三回も遠いところをやつてきたりするようになつた。
という記述もまた、風聞か虚構であった可能性が生じてきたということだべ。続きへ。
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賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』
〈平成30年6月231日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました。
そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
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