みちのくの山野草

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3261 杉浦氏の『春と修羅 第三集』復元(#2)

2013-05-11 09:00:00 | 賢治渉猟
《創られた賢治から愛される賢治に》
 〝杉浦氏の『春と修羅 第三集』復元(#1)〟の続きである。
賢治の構想から外れた詩
 そして、昭和6年頃の賢治の構想に基づく<第三集>の復元を試みるにあたって、杉浦氏は次のように主張し、
 …<第三集>の場合、宮沢賢治による編集の<場>をくぐりぬけた詩集として全集収録の詩集は提示されているのではない。全集編集者による宮沢賢治の<第三集>なのであり、そのようなものとして全集収録の<第三集>本文は読まねばならないのである。
続けて、
 このような立場から、宮沢賢治による編集の構想を推測した結果がさきのリストである。「農民芸術概論」の理想を持って、一人の農民として、農村に飛び込んだ宮沢賢治は、農村の共同体の中に溶け込めず疎外され、周囲の農民から反感をもたれ、苦悩し、その結局農村の現実を変革しえない自らに対する絶望にいたり病に倒れていった。しかし、そのなかでも、厳しい労働の中に充足を感じ、若い農民に期待し、さらに農聖への畏敬や肥料設計の結果への喜びなどのわずかな明るい時間を持ち得た……。このようなかたちで、農民生活期の賢治像は語られることが多かった。そしてそれを語るのに「七三五 饗宴」、「一〇八二〔あすこの田はねえ〕」(旧題名「稲作挿話」)や「一〇二〇 野の師父」、「一〇二一 和風は河谷いっぱいに吹く」、「一〇八九〔二時がこんなに暗いのは〕」(旧題名「雨中謝辞」)などのスケッチが、よく引用された。
 しかし、これらの心象スケッチは、さきのリストに見られるようにこの時期の構想からは排除されているのである。
               <『宮沢賢治 明滅する春と修羅』(杉浦静著、蒼丘書林)169p~より>
と論じている。
 では、なぜこれらの詩篇は<第三集>から排除されたと杉浦氏は言うのだろうか。それに関しては、賢治の<第三集>の構想の核心を杉浦氏は続けてそこで述べているがその部分は割愛させていただき、次のような結論部分だけを引用させてもらう。
 …草稿が見直され、<第三集>の構想にそったスケッチの選択がなされていった時、性急な理想や理念を語ったスケッチや、偏狭な共同体の後進性や排外性と認識されたものへの苛立ちや、それらから感じ取った反感・悪意を書きとめたスケッチは「この篇みな/疲労時及病中の/心こゝになき手記なり/発表すべからず」と記した「未定稿」として「黒クロース」表紙にまとめられていったのであろう。そして、一人の帰農知識人の農事の中での自然との交感、農民との交流、自らの農耕生活の苦闘のコスモスとして、昭和六年の<第三集>はまとめられようとしたのである。
               <『宮沢賢治 明滅する春と修羅』(杉浦静著、蒼丘書林)177pより>
と杉浦氏は論じきっている。
 となれば、〝賢治が封印した詩稿群〟はこのリストから皆排除されるものとばかり私は思ってしまったが、実際にはその傾向はあるものの、このリストに残っているものも少なくないのでその辺りが今ひとつ私にはわからない点である。つまり、いわゆる「10番稿」の詩が全て<第三集>から除外されている訳ではないということにである。
 がそれはさておき、排除される詩として杉浦氏があの「饗宴」〔あすこの田はねえ〕「野の師父」「和風は河谷いっぱいに吹く」〔二時がこんなに暗いのは〕等をずらり並べていることの方に私はまず驚いた。
 そして一方で私は、以前〝『春と修羅第三集』の検証(#5)〟における「ちょっと暴走・私見・封印した訳」でちょっと暴走してしまったが、もちろん杉浦氏の論考と私の拙論とでは「月とすっぽん」ではあることは十分わきまえてはいるが、「野の師父」さえも含む前掲の5篇の詩を除外しているという点では拙論も少しシンクロしている点があるということを今回新たに知ったから、この「暴走」をもうちょっと棄却しないままにしておこうかな…と未練がましくなってしまった。

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 なお、その一部につきましてはそれぞれ以下のとおりです。
   「目次
   「第一章 改竄された『宮澤賢治物語』(6p~11p)
   「おわり
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