みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

「一九二八年の秋の日」の「下根子桜訪問」

2019-09-14 16:00:00 | 子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない
《ルリソウ》(平成31年5月25日撮影)
〈高瀬露悪女伝説〉は重大な人権問題だ

 それではそもそも、露に関して「あやかしでない」と思われるものとしては何がこの「下敷」に書かれているのだろうか。それは、
 彼女にはじめて逢った時の様子を『宮沢賢治と三人の女性』に森は高瀬露についていろいろと書いているが、直接の見聞に基いて書いたものは、この個所だけであるから参考までに引用しておく。
              〈『七尾論叢11号』(七尾短期大学)77p〉
と上田が同論文中で断り書きをして引用している、唯一「直接の見聞」に基づいたと考えられる次の記述、
一九二八年の秋の日、私は下根子を訪ねたのであった。…(投稿者略)…
 ふと向うから人のくる氣配だった。私がそれと氣づいたときは、そのひとは、もはや三四間向うにきていた。…(投稿略)…半身にかまえたように斜にかまえたような恰好で通り過ぎた。私はしばらく振り返って見ていたが、彼女は振りかえらなかった
。                     
             〈同77p〉
だ(そして、『宮澤賢治と三人の女性』の74p以降にたしかにこのように書いてある)。
 ところが肝心のこれが大問題となる。「一九二八年の秋」であれば、賢治は豊沢町の実家に戻って病臥していたのだから「下根子桜」にはもはや居らず、この引用文に書かれているような「下根子桜訪問」は森には不可能であり、「一九二八年の秋」という記述は致命的ミスであることが明らかだからだ。
 そこで、『新校本年譜』はこの「下根子桜訪問」についてどうしたかというと、
「一九二八年の秋の日」とあるが、その時は病臥中なので本年に置く。
              〈『新校本年譜』、359p〉
と註記して、これを「本年(つまり、一九二七年)」であるとし、「一九二七年の秋の日」と読み変えている。つまり同年譜は、「一九二八年」は森の単純なケアレスミスだったと判断していることになる。しかしながらこのような判断はもちろん安直であり、そして論理的でもない。そもそも、大前提となるそのような「下根子桜訪問」自体が確かにあったという保証は何ら示せていないからだ。
 まして上田の前掲論文中には、「露の「下根子桜訪問」期間は大正15年秋~昭和2年夏までだった」という意味の露本人の証言も載っている<*1>から、もしそうだったとすれば、「一九二七年(昭和2年)の秋」に森が「下根子桜」を訪ねたとしても道の途中で露とすれ違えるはずがないので、尚更その保証が必要となる。しかしながら、この保証もまた示せていない。

 どうやら、この「下根子桜訪問」が果たして通説通り、「一九二七年(昭和2年)の秋」に実際になされていたのかどうか危ぶまれてきた。

<*1:註> 比較的古くから露を知っていて、尾上紫舟賞の受賞者で日本歌人クラブの理事でもあった、遠野在住の歌人菊池映一が、
 「露さんは、「賢治先生をはじめて訪ねたのは、大正十五年の秋頃で昭和二年の夏まで色々お教えをいただきました。その後は、先生のお仕事の妨げになっては、と遠慮するようにしました。」と彼女自身から聞きました。露さんは賢治の名を出すときは必ず先生と敬称を付け、敬愛の心が顔に表われているのが感じられた」
と上田哲に証言したという。
             〈『七尾論叢 第11号』(七尾短大)81p〉

 続きへ
前へ 
 ”「子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない」の目次”に戻る。
 ”みちのくの山野草”のトップに戻る。

 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 葛丸渓流(9/10、アケボノソウ) | トップ | 葛丸渓流(9/10、ヒメジソ) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない」カテゴリの最新記事