簾 満月「バスの助手席」

歩き旅や鉄道旅行のこと
そして遊び、生活のこと
見たまま、聞いたまま、
食べたまま、書いてます。

百百家旅館 (四国遍路の旅)

2014-11-17 | Weblog


 「随分早い到着ね」
「うん、足を痛めたので、タクシーで来た」
「それならすぐに風呂の支度をするから・・」
出迎えてくれたおかみさんと、そんな会話をしながら、痛む足を引きずるようにして、
植木の町・鬼無の駅前に建つ百百家旅館に転げ込んだ。





 中々湯が入らないと思ったら、大きな浴槽である。
20分ほど待って湯につかり、両足の三頭筋群を十分に伸ばし、前脛骨筋と共に
ゆっくりと両手で揉み解す。
しかし、何時もに比べるとふくらはぎはまだまだ固い。それに抑えると痛みも残っ
ている。それでも丹念に揉み解すと、かなり柔らかくなり、痛みも和らいでくる。



 この日宿の泊り客は三人である。大広間で夕食が始まった。
残り一人は、白峰寺に向かう県道で、「一緒させてもらっていいですか?」「ゆっくり
だけど良ければ」「自分も足を痛めているので・・」と追いついて声を掛けてきた青年だ。
 見れば左足のテーピングが痛々しい。
痛み止めを飲んだ事も有ると言う足を、心なし引きずるように歩いている。
同じ宿と聞いて、「それなら飯付に変更します」と言って、歩きながら電話をしていた。





 今日で三十数日、もう三日ほどで終わらせたいとここまで歩いて来た。
長年勤めた会社を辞め、何かを求め歩き始めたと言うが、ここに来て苦悩が解き
ほぐれた様子も、心の渇きがうるおされた様子も見受けられず、「終わるのが少し
怖いです」と現実への回帰を危惧している様子だ。
この三十代半ばを過ぎたと言う、柔和で人当たりの良い好青年に、何が有ったのか
知らないが、残された道程で何かを掴んでくれることを願わずにはいられない。(続)




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