思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』 血生臭く幸福な一代記

2022-11-18 16:11:42 | 日記
『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』
ウェンディ・ムーア
矢野真千子:訳

意外と知られていないけれど、
マニアの中では有名人、という感のある
解剖医ジョン・ハンターの一代記。
(ゆる言語学ラジオの堀元さんが大好きでおなじみ)

皆川博子御大の『開かせていただき光栄です』の
モデルでもあります
(弟子に細密画の天才がいるところとか、貴族趣味の兄と
仲違いしているとか、だいぶ細かく踏襲している)。

世の中的には、『ジキル博士とハイド氏』で有名らしい。
(ハイド氏が、レスター・スクエアのハンター屋敷を、
ハンターの死後に買い取った的な設定。)

18世紀ロンドンの解剖学教室を営む上流志向の兄
ウィリアム・ハンターに呼ばれ、
20歳で田舎から出てきたのがジョン・ハンター。

解剖学への異常な情熱と達見で、外科にとどまらず、
歯科や博物学の分野にも影響を及ぼしまくった人。
20歳まで学業も仕事も大した成果がなかったというのも驚き。

人体の未知に対する探究心に、ただただ頭が下がるというか、
打ちのめされるというか、素直にすげ〜ってなります。

古代ギリシャの文献だの定説(ほぼ迷信)だのを盲信せず、
ひたすら実験と推論を重ねていく姿勢は、
近代科学者の先駆けという感じである。
ガリレオっぽい。

彼の弟子や患者、友人知人は18世紀ロンドンらしく
有名人がわんさかいるのですが。
(詩人のバイロンは赤子のときに診察されている)
弟子のひとりが、天然痘を発見したジェンナーです。
ハンターは、淋病が感染症だと検証するために
自ら淋病になるとかクレイジーエピソード満載ですが、
そんな師匠を尊敬していたジェンナーが
天然痘ワクチンを発見したのも、さもありなんと思う。
感動があるね!
仲良しさんで、しょっちゅう手紙のやりとりをしていたらしい。

当時の歯科治療として生体移植
(貧乏人から健康な歯を抜歯して金持ちに移植する。
数年は持つらしい)があったのは知らなかった。
現代の感覚だと、無理でしょ根付かないでしょ、と思うけど、
一定の間は処置されていた治療法らしい。
エマ・ハミルトン(ネルソン提督の愛人として有名なミューズ)が
貧しいころに前歯を売ろうとして友人に止められたという
挿話も良かった。

クック船長とか、フランス革命とか、
有名な歴史ワードが頻出します。

当時珍しい電気うなぎがロンドンに来た際に、
博物学の名士たちが
「はやく買って確保しないとハンターに解剖されるぞ!」
と焦ったエピソードとか、いいですね。

ハンターの死後、彼の研究や論文を低レベルな剽窃した
義弟ホームは許すまじ!と思うが、
総じてハンターはやりたいことをやりたいだけやって、
良い人に囲まれ幸せに生きたのではなかろうか。

血生臭い『風立ちぬ』っぽさがないですか?
ない?

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 【読書メモ】2016年11月 ② ... | トップ | 『猫だって夢を見る』丸谷才一 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日記」カテゴリの最新記事