藤井猛九段が語る振り飛車の魅力 藤井聡太vs杉本和陽 2017年 第3期叡王戦

2019年08月23日 | 将棋・名局

 振り飛車というのは魅力のある戦法である。

 プロの世界では、なかなか王道になりきれない歴史こそあるが、アマチュアのファンには昔から大人気。

 相掛かり角換わり腰掛け銀など、鼻息プーで吹き飛ばせるほど愛されているのだ。

 そこで前回は「ミスター四間飛車」こと森安秀光九段のありえない鬼手を紹介したが(→こちら)、今回も振り飛車の熱戦を。




 2017年叡王戦、四段予選。

 藤井聡太四段杉本和陽四段の一戦は、期待にたがわぬ熱局となった。

 終盤のデッドヒートもおもしろかったが、私が目を引かれたのは、杉本の中盤戦での指しまわし。

 話題の天才相手に、いかにも振り飛車党らしい粘っこい手を連発し、最後には勝ち筋さえあったほど苦しめた。

 特に印象的だったのはこの場面。






 飛車を成りこんだ手がきびしく、先手はその前に▲44歩と突く軽妙手を披露し、△43地点を開けてあるのが自慢。

 いつでも▲43角と打つ筋が激痛で、ふつうの手ではもちそうにないが、ここでの杉本の一手が実にしぶとい。

 そう、振り飛車党ならやはり、ここに手が行きたいもの。









 △72銀打が、ただではやられないという、ねばり強い手。

 形は△51歩底歩だが、△11を取られる形なので、「底歩には香車」が相性バツグンとなってしまい、後手に苦労が多い形。

 もちろん、単に△72銀は薄すぎて、それこそいきなり▲43角もありそう。

 ここは、あと100手は行くつもりで、ガキンとを打つ一手なのだ。

 こういう形は端攻めされると、△71が詰まって逃げられないことがあるけど、先手が端歩を突いていないから、その心配がないのもポイント。

 これがいい補強で、まだまだ勝負できる。

 以下、藤井聡太も▲43角とかまわず行くが、△51飛とぶつけるのが形で、一撃では決まらない。

 ▲同竜△同金▲21飛△31歩と打つのも、おぼえておきたい小技。

 

 


 

 ▲同飛成はもちろん、△42銀飛角両取り

 将棋の強い人は、こういう局面を持ちこたえるのが、本当にうまくて感心する。

 以下、▲65角成△55角を消しながら手厚い好手だが、対する△56歩が、これまたいかにも参考にしたい軽い手筋。

 

 


 ▲同歩△57歩のたたきが、△45桂の「天使の跳躍」もあってイヤらしい。

 

 「振り飛車は左桂が命」

 

 たしか鈴木大介九段の言葉だったと思うが、まさにその通りなのだ。 

 ▲同馬には△12角と打って▲同馬△同香を除去し、ついでに取られそうなも逃げて、まーしつこいのなんの。

 杉本和陽の指しまわしが、冴えてますねえ。

 振り飛車のいいところは、こういう「なんやかやで持ちこたえる」形を作りやすいこと。

 振り飛車党の大御所である藤井猛九段がよく、




 相居飛車は攻め合いになって、そうなると、ねばれないでしょ。

 その点、振り飛車は攻めこまれても、美濃とか銀冠は固いし、▲59とかに底歩打って、もうひとがんばりできるのがいい。



 
 といったようなことをおっしゃっていて、それは振り飛車党の総意だろう。

 じっと△72銀打から△56歩までの流れ。

 振り飛車の持つ耐久力の象徴のような手ではありませんか。 



 (島朗と羽生善治の竜王戦編に続く→こちら

 


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