将棋放浪記と攻めっ気120% 藤森哲也vs高野智史 2017年 第89期棋聖戦

2021年04月12日 | 将棋・名局

 藤森哲也五段が、アべマトーナメントへの出場権を獲得した。

 先日放送された、第4回アべマトーナメントの出場枠を決めるエントリートーナメントは、関西ブロックから小林裕士七段が勝ち抜き。

 2枠ある関東ブロックからは、まず梶浦宏孝六段

 そしてもうひとり、藤森哲也五段が予選を勝ち抜いて、この3人が見事、最後の1チームとして本戦出場を決めたのであった。

 中でも注目なのが、藤森五段の戦いぶり。

 藤森の「てっちゃん」といえば、私の世代だとお母様の「なっちゃん」こと藤森奈津子女流四段(ステキな人なんだな、これが)の息子さんというイメージだが、今のファンには楽しい解説や、YouTubeの方が思い浮かぶかもしれない。

 そんなエンターテイナー藤森哲也だが、今回は本業でも魅せてくれました。

 もともと、てっちゃんといえば、勝負強いタイプで、三段リーグでは最終日7番手からの大逆転で昇段。

 デビュー後も新人王戦2回と、加古川清流戦でもファイナリストになっており、優勝こそ逃したものの、そのパンチ力をアピールした。

 本戦でも、頼れるチームメイトとともに、選抜されたエリート達に一泡も二泡も吹かせてほしいものだ。

 ということで、前回は昇級祝いで高崎一生七段の将棋を紹介したが(→こちら)、今回は藤森哲也五段の快勝譜を紹介したい。


 2017年の第89期棋聖戦一次予選。

 藤森哲也五段と、高野智史四段の一戦。

 相居飛車から、先手の藤森が現代風の雁木に組むと、高野は△33桂&△42銀とそなえ、専守防衛の姿勢で迎え撃つ。

 むかえた、この局面。

 

 

 藤森が4筋から歩をぶつけ、桂交換をしたところ。

 先手は、

 

 「攻めは飛角銀桂」

 「玉の守りは金銀3枚」

 

 という基本通りのフォーメーション。

 なんとも美しい形で、

 「将棋の王道

 という感じがするが、後手も金銀4枚の利きもくわえて、厳重にロックをかけ、待ち構えている。

 まさにサッカーでいうイタリアの「カテナチオ」だが、ここから藤森は華麗、かつ力強い進撃で、固い門のカギをこじ開けていく。

 

 

 

 

 ▲35歩、△同歩、▲45歩、△同歩、▲15歩、△同歩、▲45銀

 

「開戦は歩の突き捨てから」

 

 という、お手本通りの仕掛け。

 これはもう、相居飛車の将棋を楽しみたい方には、ぜひともマスターしてほしい呼吸。

 単に▲45歩は、△同歩、▲同銀に△44歩で追い返される。

 ここは景気づけで、3筋1筋をからめて行くのが、のちの攻撃のを大きく広げるのだ。

 今度△44歩は、本譜の▲34歩で攻めがつながっている。

 高野は△45歩と取るが、▲33歩成と取って、△同銀に▲37桂がまた、リズムの良い攻め。

 

 

 3筋の突き捨てがまたも生きて、▲45桂ジャンプから▲33歩が、の持駒と連動して絶品。

 

 「桂はひかえて打て」

 

 これまた格言通りの攻めだ。

 後手も△46歩、▲同飛、△44歩と、争点をずらす手筋を駆使し、しゃがんで受けるが、かまわず▲45歩と合わせる。

 △55桂と、角筋を遮断しながら反撃に移るも、▲44歩と取りこんで、△同角、▲45歩、△53角。

 そこで、われわれも大好きな▲44銀の打ちこみ。

 

 

 まさに、塚田泰明ゆずりの

 

 「攻めっ気120%」

 

 という大突貫。

 師匠のキャッチフレーズが「攻め100%」だから、その勢いは2割増しだぞ!

 △同銀、▲同歩、△同金に▲15香と走るのが、これまた居飛車党の必修科目ともいえる香捨て。

 これで貴重な一歩が補充できるうえに、香を上ずらせて、後手の守備力もけずっている。

 △15同香しかないが、そこでむしりとった一歩を使って、▲33歩が絶好打。

 


 「攻めの藤森」の持ち味が、これでもかと発揮されている。

 △22金に、俗に▲32銀と打ちこんで、ガリガリ攻めていく。

 まるで、『将棋放浪記』で紹介されている棋譜みたいだが、プロ相手に、それものちに新人王戦優勝することになる高野智史を、こんなサンドバッグあつかいできるのが、すさまじい。

 今、早めに△73銀△73桂とくり出す急戦が流行っているのは、相居飛車の後手番は、どうしてもこういう形になりやすいから。

 そりゃこんな目にあわされれば、その前に動こうと、必死になるわけである。

 そういや、羽生善治森内俊之矢倉戦とか、谷川浩司佐藤康光とか、丸山忠久郷田真隆角換わりとかって、いつもこんな感じだったなあ。

 クライマックスは、この場面。

 

 

 藤森の百烈拳が急所にヒットしまくりで、ここでは先手が勝勢

 ただ、駒の数が少なく、歩切れということもあって、足が止まると一瞬で指し切りになる恐れもある。

 後手玉が、左辺に逃げ出す前になんとかしたいが、次の手がまた「筋中の筋」という手で、勝負が決まった。

 

 

 

 


 ▲64歩と突くのが、これまたぜひとも指に、おぼえさせていただきたい好感覚。

 △同歩しかないが、▲55角と藤森流に言えばブッチして、△同歩に▲63桂がトドメの一撃。

 

 

 

 角取りだが、△62角頭金

 △53角▲32金打で、ピッタリ詰み。

 以下、数手指して高野が投了

 攻められっぱなしで一度もターンがまわってこない、典型的な「後手番ノーチャンス」という将棋だった。

 最後の▲63桂が、『将棋世界』で藤森が連載していた講座に、紹介されていた手。

 なので、これを見ていただこうと思ったのだが、今回あらためて並べ直して、あまりにもきれいな攻めが決まっていたので、ちょっとくわしめに取り上げてみた。

 てっちゃんはよく、『将棋放浪記』で、

 

 「勝つことも大事ですが、皆様が楽しんで上達できるように、できるだけ基本に忠実で、筋のいい、きれいな手をお見せしていきたいです」

 

 そう言ってるけど、これこそまさに、そんな将棋だった。

 連結のいい囲いから、の突き捨て、1筋の香捨て、▲44銀の俗筋から、最後は切れ味のいい寄せでフィニッシュ。

 ホント、この棋譜を何度も並べるだけで、アマ初段くらいにはなれるんじゃないだろうか。

 それくらい、お手本のような攻め筋なのだ。

 てっちゃん、強いぞ!

 

 (「スーパーあつし君」の終盤力編に続く→こちら

 

 


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