将棋 この絶妙手がすごい! マエストロ谷川浩司の華麗なる大円舞曲

2019年01月22日 | 将棋・好手 妙手
 将棋の妙手というのは美しい。
 
 そこで前回(→こちら)は谷川浩司九段の「光速の寄せ」を紹介したが「谷川の妙手」を思い出してたら、あれもこれも語りたくなって、キリがなくなってしまった。
 
 本来は次、森内俊之九段の将棋を取り上げる予定だったが、ちょっと予定を変更して、もう何回か谷川浩司の「光速の寄せ」を行ってみたい。
 
 詰将棋作家としても有名な浦野真彦八段は、切れ味鋭く、さわやかな勝ち方を披露する阿久津主税八段の将棋を、
 
 
 「阿久津カンタービレ」
 
 
 と称賛したが、そのノリでいけばさしずめ谷川浩司は
 
 
 「絶妙手のマエストロ」
 
 
 といったところか。
 
 谷川がそのタクトを一振りすれば、あれや不思議な、盤上には次々と妙手の雨が降る。
 
 まさに「魔法のバトン」の使い手である十七世名人の、ステキな世界を一気に放出。
 
 ふたつ、続けてどうぞ。
 
 
 
 図は1992年、第5期竜王戦第1局
 
 谷川三冠(竜王・棋聖・王将)と対するのは羽生善治二冠(王座・棋王)。
 
 
 
 
 難解な中盤戦だが、ここで谷川にすごい手が出る。
 
 局面を見ると、当然「あの地点」に目が行くが……。
 
 
 
 
 
 
 
 △57桂と打つのが、だれも思いつかないすごい手。
 
 が成れるところに桂を打つなど、私がやったら大爆笑だが、この「王手は追う手」の筋悪が、実は深い読みの入った妙手なのだ。
 
 以下、▲79玉△76歩と突いて、▲同銀△同飛
 
 先手も▲54銀と取って、△同玉に一回▲55歩とたたく。
 
 △同銀に、▲24飛と切って、△同歩、▲65角の王手飛車。
 
 
 
 
 
 △64玉に、▲76角飛車を取って、効果がわかるのはこの場面。
 
 先手玉に詰みがあるが、これが羽生をはじめ、検討している棋士も、だれひとり気づかなかった一着だ。
 
 
 
 
 
 
 
 △68銀が詰将棋のような、あざやかな決め手。
 
 ▲同玉には△69飛で簡単。
 
 ▲同金だと△59飛と打って、で合駒できないから(▲63の歩を取らない指し方が見事!)▲69銀高い合駒を使うしかなく、△同桂成と取られて捕まる。
 
 ここで△57桂が利いてくることを、すでに読んでいたのが、おそろしい。
 
 本譜の▲89玉にも、△88歩からきれいに詰んでいる。
 
 
 続けて、同じく第5期竜王戦の第6局
 
 
 
 
 先手の羽生が▲45歩と打った局面。
 
 こんなもん、だれが見ても取る逃げるしかなく、実際、羽生二冠もその後のことを考えていたらしい。
 
 だが、「前進流」谷川浩司に、そんな常識など通じないのだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 △69馬と飛びこむのが、信じられない踏みこみ。
 
 当然の▲44歩に、△58銀(!)、▲同飛△同馬▲43歩成に、△67馬(!)。
 
 
 
 
 
 なんだか、やけくそで暴れまわっているだけに見えるが、もちろん、そんなことはない。
 
 なんとこの後手玉、もう一枚を渡したうえで、金銀三枚取られながら▲32と、とされても詰みがないのだ!
 
 この将棋を振り返って羽生さんは、
 
 
 「あの玉が、詰まないなんて思わないでしょう?」
 
 
 苦笑しておられたが、たしかに笑うしかないだろう。ありえへんですわな。
 
 羽生は▲79金打と必死のがんばりを見せるが、△77飛成が、またカッコイイ手。
 
 ▲同桂△88飛と打ちこみ、▲同金上△同歩成▲同玉に、△87金と打って詰み。
 
 
 
 
 
 
 羽生もまさか、▲45歩の局面から、秒殺されるとは思わなかったろう。
 
 こういう
 
 
 「気づいたら、持って行かれていた」
 
 
 というのが、谷川「光速の寄せ」のおそろしいところなのだ。
 
 
 
 (続く→こちら
 
 
 

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