テニスの地味な選手を見ると、つい応援したくなる癖がある。
ロジャー・フェデラーやラファエル・ナダルといったスター選手の活躍もいいが、やはり玄人のテニスファンとしては、それ以外の選手も大いに語りたいもの。
なので、グランドスラム大会などで、そういった渋い選手が上位進出して皆をガッカリ……もとい大会を盛り上げたりすると、たいそう印象に残るのである。
たとえば、1996年オーストラリアン・オープンのマーク・ウッドフォード。
テニスの世界には「ダブルスのスペシャリスト」という選手が存在する。
テニスにはご存知のようにシングルスとダブルスがあるが、メインははっきりいってシングルス。
正直なところダブルスはあまりクローズアップされず、ドロー的にもルール的にも縮小されがち。ダブルス観戦も好きな私には残念なことだ。
かつてはジョン・マッケンローやマルチナ・ナブラチロワのような、単複両方でトップに立つ選手もいたものだが、昨今のタイトなスケジュールが問題化されているテニス界では、なかなか両立も大変である。
ゆえにシングルスとダブルスは分業化がいちじるしいわけだけど、ときに
「ダブルスのトップを張って、シングルスでもそこそこ上位につけている」
そういった選手が存在するわけだ。
今ならニコラ・マユとか、ジャック・ソック、イワン・ドディグあたりが思い浮かぶが(彼らも地味だなあ)、一昔前だとトッド・ウッドブリッジとマーク・ウッドフォードによる「ウッディーズ」も、そんな選手たちだった。
トッドとマークのふたりは、とにかくダブルスで強かった。
通算67勝、グランドスラム大会優勝12回。マークはミックスダブルスでも、グランドスラムを5度優勝している。
アトランタ五輪でも金メダル。「ダブルスが命」といわれるデ杯でも大活躍した、強すぎる二人。
これらはのちにブライアン兄弟があらわれるまで、テニス界に燦然と輝く大記録だったのだ。
そんな無敵のウッディーズだが、シングルスでも魅せる機会があったのが、この1996年の全豪。
ここでウッドフォードが、すばらしい進撃を披露したのだ。
準々決勝では、優勝候補の一人だったトーマス・エンクヴィスト(彼もまた相当地味な実力者であった)をストレートで沈めて、堂々のベスト4。
準決勝では優勝したボリス・ベッカーに完敗したが、地元オーストラリア勢の大活躍に会場は大いに沸いたものだった。
この2試合で見せたウッドフォードのテニスというのが、ずいぶんとおとなしいテニスだったのが意外だった。
サウスポーでダブルスのエキスパートとなれば、それこそジョン・マッケンローのごとく切れるサービスを打ちこんで、どんどんネットダッシュを見せるのかと思いきや、彼はベースラインでねばるスタイルも多く見せていたのだ。
特にバックハンドは丁寧なスライスでつないで、相手との間合いをはかっていくテニス。
ビッグサーバー全盛の時代にずいぶんと優雅というか、なんだかオーストラリアの大先輩であるケン・ローズウォールかロッド・レーバーといった雰囲気だ。
こういう「大人のテニス」が見られるのが、ダブルスのスペシャリストの味なのかもしれない。
ちなみに、相棒のトッドも1997年のウィンブルドンではベスト4に入る大躍進を見せている。
ダブルス最強で、シングルスでも魅せたウッディーズ。
特にマークの活躍は、彼のいかにも人のよさそうな風貌も相まって、たいそう印象に残っている。
私は地味な選手とともに
「シングルスでたまに活躍するダブルスのスペシャリスト萌え」
でもあるので、96年の全豪はその意味でも、大いに盛り上がったのであった。