ピート・サンプラスは全仏のタイトルだけは取ることができなかった。
テニス界では、
オーストラリアン・オープン
フレンチ・オープン
ウィンブルドン
USオープン
この4つの大会で優勝することを「グランドスラム」と呼び、たいそう名誉な記録とされている。
ロジャー・フェデラー
ラファエル・ナダル
アンドレ・アガシ
といった名プレーヤーが、その偉業を達成する一方
ステファン・エドバーグ
ボリス・ベッカー
イワン・レンドル
マッツ・ビランデル
といった「あとひとつ」で逃してしまった選手もいる。
現在だとノバク・ジョコビッチがグランドスラム達成まで、あと全仏のタイトルのみとリーチをかけている。
今年は年始の全豪を制したことから年間グランドスラム、いやリオ五輪もあることから、これを取れれば
「ゴールデンスラム」
の可能性も存在し、達成できれば大きな話題となることは間違いない。
では、ノバクはグランドスラムを完成させることができるのかといえば、それに関しては、
「充分にやれそう」
というのが衆目の一致するところであろう。
そもそも彼はクレーコートの試合が苦手なタイプではなく、ローラン・ギャロスでも3度決勝に進出しているし、他のクレーの大会でもタイトルを取っている。
優勝できないのは、ラファエル・ナダルという怪物がいることと、あとはまあ「たまたま」であり、実力的にもデータ的にも、いつ勝ってもおかしくはない選手なのだ。
ここでおもしろいのは、
「グランドスラムまであとひとつ」
となった選手の中でも、
「おしかったよなあ」
ため息をつかれそうな者と、
「まあ、無理やったんやろうな」
素直に納得させられる者に分かれるということ。
たとえば、ステファン・エドバーグはフレンチのタイトルだけ取れなかったが、一度決勝まで行っている。
相手がまだ新人のマイケル・チャンだったことを考えれば、相当に大きなチャンスであったといえる。
また、ウィンブルドンだけ取れなかったレンドルも、芝は苦手なストローカーながら二度ファイナリストになっている。
86年のベッカーはまだしも、翌年の決勝でパット・キャッシュに負けたのは痛恨だといわれている。
サーブ&ボレーヤーのマッケンローもフレンチでは一度決勝まで行き(全豪も優勝してないが、基本的に不参加だったから)、レンドル相手に2セットアップまで押して優勝目前だった。
これくらいやってくれれば、負けたとしても「おしかった感」が感じられ、評価できるところはある。
一方、「やろうな」チームの方はといえば、まずボリス・ベッカー。
彼はフレンチだけ取れなかったが、こちらは納得の結果かもしれない。
なんといっても、ボリスはローラン・ギャロスどころか、そもそもクレーコートの大会で一度も優勝したことがないという記録(?)を持っている。
象徴的だったのは、1995年のモンテカルロ・オープン決勝。
当時のクレー王者(その後全仏オープン決勝でマイケル・チャンを破って優勝)トーマス・ムスター相手にとって、すばらしいテニスを披露したベッカー。
第4セットでマッチポイントをつかみ、しかも自分のサービスというところまで追いつめる。
おお、ついにベッカーが長年の呪縛を破ってクレーで優勝するぞと誰もが確信したところ、ボリスはいちびって(というわけではないだろけど、まあ結果的に見て)時速200キロのセカンドサービスでエースをねらいにいってダブルフォルト。
なんとそこからムスターの巻き返しを食らって、見事な大逆転負けを喫してしまうのだ。
これにはガッカリするやらあきれるやらで、まあトーマスもねばりが身上のファイターだから、そういうこともあろうけど、それにしたってあんまりな負け方である。
ここまでやって勝てなければ、そりゃ本番の全仏でも難しいわなと苦笑するわけだが、それでもボリスは何気にローラン・ギャロスで3度準決勝まで進出している。
またウィンブルドンだけタイトルのないマッツ・ビランデルも、3度ベスト8入りはしている。「やろうな」といわれながらも(まあ、私が言ってるだけかもしれないけど)、それなりに結果を出しているのは偉い。
そうなると、「やろうな」チームの中で突出して「やろうな」感のある人といえば、この人にとどめを刺すことになるであろう。
そうピート・サンプラス。
彼もまたフレンチのタイトルだけは手に入れることができなかったが、その歴史を見てみると、こちらの想像以上に「やろうな」感が感じられて、もうしわけないが少々笑ってしまうのである。
果たしてピートはどのようにパリの赤土でおぼれたのか。
次回は具体的にドローを見ながら検証してみたい。
(続く→こちら)
☆おまけ ムスターとベッカーのモンテカルロ決勝の模様はこちらから