『週刊世界のマイナー独裁者』を読む。
エレバン放送出版局から出た本書は昨今の歴史ブームの波に乗り、なかなかの売れ行きだという。
この手の企画の先がけだったのはデアゴスニーテの『週刊世界の独裁者』だったが、ラインアップがヒトラーやスターリン、毛沢東といった王道の人選だったのに、やや物足りなさを感じた読者は多かった。
そもそも世界史好きは、独裁者といえばハンで押したようにババリアの伍長殿の名前が挙がるのにはウンザリしている。
いくら一番メジャーとはいえ、ちょっと強権的な政治家やビジネスマンが出てくるたびに、
「まるでヒトラーのよう」
「○○は現代のナチス」
とかいわれると、「他ないんかい!」とつっこみたくなる。
ましてやワイドショーの司会者やニュースのコメンテーターが、
「独裁者の末路はかならず哀れなものになる」
なんてありがちなコメントをした日には、
「いやいや、スターリンも毛沢東も、まあまあ天寿を全うしてますけど」
反論したくなるではないか。
そらナチさんがわかりやすいのはわかるけど、みんなひねりなさすぎや! 独裁者は、まだまだおもしろい人がたくさんいるよ!
それに対し、こちらのほうは、創刊号の「人食い」イディ・アミンをはじめ、「独裁者なのに安定感は抜群」と星新一も評価していたフランシスコ・フランコ(名前のゴロもいい!)。
ポルトガルのアントニオ・サラザールや、国民に質素な生活を要求しながら自分は裏で高級車や別荘を満喫していた東ドイツ代表エーリッヒ・ホーネッカー、
「口パクで歌うことを禁止」
「メロンが大好きだから《メロンの日》を制定」
とか、変な決まり事で有名なトルクメニスタンのサパルムラト・ニヤゾフ。
マリオ・バルガス=リョサが『チボの饗宴』で取り上げたドミニカのトゥルヒーリョ、地味にものすごい数の人を死なせているベルギーのレオポルド2世などなど、なかなかに味のある面子がそろっている。
私もページをくりながら、
「終身大統領って単語は、《独裁者あるある》だよなあ」
「猪木との一戦が、もし実現してたら、きっと歴史は……まあ、あんま変わらんかったかもな」
なんて楽しい時間をすごした。こういったスケールの「手の平サイズ感」が、マイナー独裁者の魅力でもある。
またこの本で人気を集めているのが、「独裁者フィギュア」など各種のおまけ。
私はコレクション趣味がなく、ガンダムや美少女を部屋に飾ろうとはあまり思わないが、
「アゴを撃ち抜かれて瀕死のロベスピエール」
「チャウシェスクが逃げるのに使ったヘリ型のミニドローン(銃殺されたチャウシェスク夫妻付)」
「一千億ジンバブエドルのレプリカ」
といったあたりのアイテムを出されると、それはぜひ欲しくなるもの。
レアアイテムとして用意されているフィギュアが「ベンツィーノ・ナパロニ」というのも、またナイスなチョイスである。
大いに楽しませてくれた本書だが、出版社もこの成功に味を占めたのか、続編もすでにスタンバイしているという。
次号の特集は『週刊世界の金の亡者』。刮目して待ちたい。