サッカーもずいぶんと様変わりしたものである。
私が少年団でプレーしていたころとは、使う単語も変わるもので、前回(→こちら)は「センターフォワード」など、今では死語となった言葉の話をした。
使われなくなった言葉といえば「バナナシュート」なんてのもあった。
カーブをかけたシュートの軌道が、曲がったバナナみたいということで、その名が付いた。
「無回転シュート」
なんていう散文的なネーミングとくらべると、なかなか愛嬌があるといえないくもない。
今でもあるのに、言葉だけ滅んだのが「自殺点」。
言うまでもなく「オウンゴール」のことだが、「自殺」という言葉のイメージが悪くて消えてしまったというのは、なんとなく想像できる。
言葉狩りかよ! と中島らもさんなら怒るかもしれないが、まああんまりいい響きではないなあ、というのも理解はできる。
でも、インパクトでは断然「自殺点」であろう。
「オウンゴール」とくらべて、「取り返しのつかないことをした」感では、こちらのほうが圧倒的に上である。
『キャプテン翼』でも、全国大会の花輪戦で、石崎君が見事な自殺点を決めてしまったときには、チームメイト全員から
「なんてことをしてくれたんだ!」
責められまくって、「あー、これは地獄やなあ」と思ったものであった。
PK失敗と自殺点は、サッカーの裏の花。
私は幸か不幸か経験はないが、文字通り「死ぬしかない」という気分になるのであろう。
今調べたら、1994年W杯アメリカ大会で、自殺点かましてマフィアに殺されたコロンビアの選手がきっかけで、「オウンゴール」になったとか。
なるほど、本当に死者が出たらなんとなく味は悪い。これはしゃあないかもしれない。
似たようなニュアンスで「サドンデス」も言わなくなった。
「突然死」。これまたインパクトは充分であろう。
うちでは私だけでなく、妹もサッカーをやっていたのだが、中学に上がって「sudden」という単語を習ったときに、
「suddenて『突然』っていう意味なんかあ、え? じゃあサドンデスって、サドン、デスで『突然死』なんや!」
なんて、ひとり盛り上がっていたのを、おぼえている。
そんな印象的なサドンデスであったが、あるときから突然
「Vゴール」
などという軟弱な名前に変わってしまったのは無念であった。
なんでや、「突然死」のほうが延長戦でもPK戦でも、ピッタリの表現やんけ!
憤ったものであるが、やはり「デス」「死」というのがイメージが悪いのだろうか。
ならば、ワールドカップのグループリーグなどで、よく使われる
「死のグループ」
というのはどうなのか。
自殺やデスがNGなら、これも
「強豪国の、順当な予選リーグ突破に不自由しているグループ」
とか呼ぶべきではないのか。
あと単語ではないけど、すっかり影をひそめたのが、あのチャルメラみたいなホーン。
トヨタカップなど、今でこそ超満員の観客で、きれいな芝とあざやかな照明のもとで行われるビッグイベントだが、私が子供のころは昼間に、特にマスコミに騒がれたりもせず、行われていたものだ。
プラティニとか、バレージ、フリット、ライカールト、ファンバステンの「オランダトリオ」といった名選手たちが、サッカー不毛の地で、世界一をかけて試合をしていた。
そこで聞こえてきたのが、「フアーン、フワーン」という豆腐屋のラッパみたいな音。
あれをなんというのか知らないが、昔のサッカーといえば、あのチャルメラホーンであった。
なんてことない休日の昼下がり、信じられないような豪華な選手たちと、対照的な世間の無関心。
そこにあの「フワーン」は、なんともいえず、もの悲しくて味があった。
当時のサッカーのマイナーさを象徴するような、地に足のついていない高い音。
高校サッカーでもよく聞いたけど、今でも使ってるのかしらん。
(次回【→こちら】に続く)