サッカーも、ずいぶんと様変わりしたものである。
テニスは昔、木のラケットを使っていたとか、水泳では水着の進化がすごくて記録にバンバン影響が出ているとか、スポーツも時代によって絵が変わるもの。
その点では、サッカーは元がシンプルなせいか、比較的昔と風景が変わらないように見える競技だが、それでも
「オレのころとちがうなあ」
と感じるのは、私が子供のころ実際に、サッカーをやっていたからかもしれない。
特にそれを感じるのは用語。
私のころは存在もしなかったポジションや戦術が、出現したかと思えば、死語と化したものもある。
そこで今回は、「浪速のベッケンバウアー」と呼ばれた私が、昔を思い出しながら、古今のサッカー用語のちがいについて語っていきたい。
というと、おいおいちょっと待て、お前のどこがベッケンバウアーだ。
あのドイツサッカー界最高のカリスマの名前を軽々しく出すんじゃないという意見はあるかもしれないが、私が子供のころ関西ではよく「皇帝」というラブホテルを見かけたものである。
小学生のころ2年間、私は隣町のサッカー少年団に所属してプレーしていたが、当時はまだ野球全盛で、今となっては信じられないことに、サッカーなんぞドがつくマイナースポーツ。
ワールドカップでいえば、メキシコ大会でディエゴ・マラドーナが旋風を巻き起こしていたころか。
『キャプテン翼』がリアルタイムで連載していた、そんな時代。
今思い返せば、なかなか熱い話題が、目白押しである。
にもかかわらず、だれもサッカーなんて見向きもしない。
なんたって、『キャプテン翼』の第一話というのが、翼君がサッカー好きというのが物笑いのタネになっていたという、そんなところからはじまるのだから、思えば遠くへ来たものだ。
そんな当時とくらべると、サッカーの地位もずいぶんと上がったというか、今では女子サッカーまで盛んになったりして、まったく時代というのはどう転ぶかわからないもの。
そこまでいけば、競技が多少様変わりするのも当然で、少年時代にプレーしていたときには、
「そんなん知らんなあ」
と思うような用語がけっこうあったりして、たとえば「ピッチ」という言葉。
いつごろから使われはじめたのかはよくわからないが、おそらくはサッカーバブルが本格化した1998年のワールドカップ、フランス大会くらいからか。
今でこそ意味はわかるが、最初聞いたときは
「え? なにそれ?」
と思ったものだ。
ピッチ。聞いたことないなあ。
というと、私が無知なようであるが、おそらくそうではなく、最初の『キャプテン翼』にも一度も出てきたことはない。
昔は普通に「フィールド」とか「グラウンド」であった。
というか、「フィールド」でいじゃん! とも思うのだが、おそらくイギリスなどではピッチといっているのであろう。
「本場」とか「欧米では」という言葉には、どこか弱いのが日本人である。
これが、違和感バリバリであった。いや、正直なところ、今でもなれていない。
なんというか、あまりにも唐突に出てきた単語、という印象があるのだ。
まあ、ピッチならピッチでよかろう。だが使いはじめるなら、まず意味を説明してから使ってほしい。
誰にことわって、そんな聞いたこともない単語を使うてるんや! オレは知らんぞ!
……なんだか
「あいさつに来ない若手芸人にヤカラを入れる、聞き分けのない大師匠」
みたいになってしまったが、いまだなれられないのだ。
特に、私と同世代以上くらいの人が、
「お、選手がピッチに出てきたぞ」
なんて言っているのを聞くと、なんだか「ひな壇」とか「回す」とか、そういった芸人用語を、嬉々として使っている若者を見るようで、いたたまれないのである。
なんや、覚えたてで使いたいんか、と。
我ながら、
「なるほど、人はこうして、頭のかたい年寄りになっていくのだな」
なんて自覚できる話だが、やっぱり使うのが恥ずかしいのが「ピッチ」である。
なんか、飼ってるインコの名前みたいなんだもの。
なので、私がサッカーについて話しているときに「ピッチ」という言葉が出てきたら、
「あー、この人無理して言うてはるんや」
と思っていただいて、まちがいがないけど、たぶん、一生なれられない気がするなあ。
(次回→【こちら】に続く)