午前中、映画試写『だれもがクジラを愛してる。』(原題〝BIG MIRACLE〟http://love-whale.jp/)。クジラ関係者としては観ないわけにはゆかない。1988年、アラスカのバロー沖、冬になって凍り始めた分厚い氷の下に、南下することができず閉じ込められ、動けなくなっていたコククジラ3頭の、世界中よってたかっての、救出劇を描く。実話であり、当時は「世界中に紛争が絶えない現実の前で、動物を助けるために何をやっているのか」と、ずいぶん皮肉られたりもした。じっさい、ある種の喜劇でもあり、「世界最北のメキシコ料理店」「町にホテルは一軒しかない」等、当時のロケーションについても興味を引くように作られている。私はアラスカはジュノーにしか行ったことはないが、数千年凍りつづけている氷河をはじめ、大自然は見事であった。なにしろアラスカはアメリカからすれば「カナダの向こう」にある。それでもこの映画に描かれるのは「北極圏のアメリカ」なのだ。氷もクジラも撮影用の作り物らしく、よくできているのだが、最近観客も鈍感になっていて、どんな映像を見ても「どうせ合成だろう」と思ってしまうのは困ったことである。ドリュー・バリモア演じるグリーンピース職員が奮闘するので、一瞬グリーンピースの宣伝映画のようになってしまうが、あくまでもハリウッド的に処理されている。政府、実業家、ソビエト等、全方向に対して、あたかも平等であるように描いているということだ。「クジラを殺して食べる」アラスカ・イヌイット族の人々への描写は、差別感は否定できない。だが、「油田開発で潤っている今はいいが、いずれ来る食糧難の時代に、クジラを捕り続ける技術が継承されていないということになっては困る」という彼らの言い分は説得力がある。ラスト、イヌイット族の少年が騒動を振り返って「バカ騒ぎ」と言うところでもバランスを取っている。いずれにせよ、『ザ・コーヴ』で「イルカを殺して食べる日本人」を徹底して悪役として描いたのに比べれば、ずいぶん歩み寄っている。映画としてはハリウッド的にバランス良くまとまっていて、デートにも家族向きにも対応できているということであろうが、ぎりぎりのところでクジラを擬人化する愚はおかしていないところは好感が持てる。……映画といえば、新藤兼人監督が百歳の大往生。『竹山ひとり旅』が好きだった。……午後、仙台から10-BOXのボス八巻さんが梅ヶ丘に訪ねて来てくださる。10-BOX最寄りのスーパー銭湯も津波被害で営業停止していたという話に、「そんな近くまで……」とあらためて思う。劇場のまわりに架設住宅も含めて一万人もの避難民の現実。さまざまな話をしているうちに一時間半があっという間に過ぎる。……稽古。言葉に対する集中力、身体ごと感じる力の重要性。……打合せの電話数件。いろいろなことを進める。……夜、二日あいて久しぶりに『冬眠まんざい』。いろいろとチェック。慌ただしく一日が終わる。
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