A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 218 今日はほんたうに好い日だつた

2015-12-21 23:39:49 | ことば
今日はほんたうに好い日だつた、観念的には日々好日といふけれど、実感としてはいつもさうとばかりはいへない、よつぽど出来てゐる人物でない限りは。
とりとめもない物思ひ、そこはかとない無常感、――私は弱虫、そしてなまけものだわい、強くなれ。

種田山頭火『山頭火 一草庵日記・随筆 (山頭火文庫)』春陽堂、2011年、402頁。


山頭火の日記を読んでいると、まれに「今日はほんたうに好い日だつた」という一文がでてくる。それもただ読書とか、白いご飯を食べたとか、酒を飲んだとか、たわいもないことなのである。かたや、自分は「今日はほんたうに好い日だつた」と思うことはあるだろうかと考える。自分は観念的すぎるから、日々好日と感じないのだろう。「今日はほんたうに好い日だつた」と思ったり、つぶやいたり、書くだけで、好い気分になる気がする。強くなれなれ!

未読日記1122 『宇野千代の人生相談』

2015-12-20 23:02:33 | 書物
タイトル:宇野千代の人生相談 (広済堂文庫―ヒューマン・セレクト)
著者:宇野千代
カバーデザイン:酒井みき
カバー:宇野千代小紋
発行:東京 : 広済堂出版
発行日:1992
形態:214p ; 16cm
注記:『生きて行く私 人生相談篇』 (毎日新聞社昭和59年刊) の改題
内容:
この度、私の人生相談を文庫にして頂くことになった。95歳になってあらためて読みかえして見ると、自分の解答が間違っていなかったことをうれしく思ったものである。何事でも頭で考えるだけでは、何にもしないと同じことである。どんなに傷ついても、何にも行動をおこさない人よりはましである。ただ一度の人生を大切に送ろうではありませんか。

目次
何が一番したいか
野中の一軒家ではない
動物的な本能によって
結論を急いではなりません
父母の愛は宏大無辺
前途洋々と心に暗示
ふと見た行きずりの笑顔
百万分の一の憐びんを
親の七光りを利用して
問題の本質は違うはず
花の蕾の膨らむとき
あなたは誠実な人
精神的な意味ではケチ
一番最初に感じたことを大切に
ふと光明のさす日が
あなたはうまず女ではない
デブだと思うとデブになる
バランスのとれた平和が
人生は否定と肯定だけ
あなたは色情狂ではない
無気力になる真の原因
可愛い子には旅をさせよ
あなたは転んで怪我をしたのです
それはあなたの文学趣味
あなたに賭けた私の夢
ゆっくりと考える時間
神や仏のとらえ方を難しく考えない
肺がんなども怖くない
たちまち閉口頓首するか
回り道は禁物です
あなたの前途は洋々
貯金通帳にはバンソウコウを
どこかの売笑婦と同じ行為
現地の人たちの気持ちも
あなたは暗示にかかっている
世間普通という言葉
女としての歓びを
性に対する単なる好奇心
借りたものは返すべき
娘さんの困らせ戦術
あなたを不幸にさせる道
それは能力のある人間の義務
処女捨ての相手とは何のことか
さっさと離婚届に判を捺す
男女の間の感情は動物的である
それが唯一の長生き法
このようになった原因は
家庭内の幸福は伝染する
あなたは誠実なロマンチスト
ほんの一けた格下げしただけで
人間本来の道はそれです
人間性を知る上に

購入日:2015年12月19日
購入店:Amazon.co.jp
購入理由:
 鷲田清一『「聴く」ことの力』(ちくま学芸文庫)を読んだとき、佐々木幹郎氏が「宇野さんがむかしやってた人生相談、めちゃくちゃおもしろいぞ」と薦められたとあり、相談の一節が引用されていた。なるほどたしかにおもしろく、これはもっと読んでみたいと思い購入。
 ちなみに、人生相談の問答形式はわりと好きで、いまは朝日新聞に連載されている美輪明宏の人生相談が痛快でおもしろい。来年は転機の年なので、いろいろな人生相談本を読んでみようか。


未読日記1121 『目の見えない人は世界をどう見ているのか』

2015-12-19 23:02:26 | 書物
タイトル:目の見えない人は世界をどう見ているのか (光文社新書)
シリーズ名:光文社新書, 751
著者:伊藤亜紗
装幀:アラン・チャン
発行:東京 : 光文社
発行日:2015.4
形態:216p ; 18cm
内容:
私たちは日々、五感―視覚・聴覚・嗅覚・触覚・味覚―からたくさんの情報を得て生きている。なかでも視覚は特権的な位置を占め、人間が外界から得る情報の八~九割は視覚に由来すると言われている。では、私たちが最も頼っている視覚という感覚を取り除いてみると、身体は、そして世界の捉え方はどうなるのか――?
美学と現代アートを専門とする著者が、視覚障害者の空間認識、感覚の使い方、体の使い方、コミュニケーションの仕方、生きるための戦略としてのユーモアなどを分析。目の見えない人の「見方」に迫りながら、「見る」ことそのものを問い直す。

目次
まえがき
《本書に登場する主な人々》
序章 見えない世界を見る方法
第1章 空間――見える人は二次元、見えない人は三次元?
第2章 感覚――読む手、眺める耳
第3章 運動――見えない人の体の使い方
第4章 言葉――他人の目で見る
第5章 ユーモア――生き抜くための武器
謝辞

購入日:2015年12月18日
購入店:ブックオフ 京都三条駅ビル店
購入理由:
 12月のつくるビルゼミの参考文献として購入。今月のテーマは、豊田市美術館にて開催された「ソフィ・カル 最後のとき/最初のとき」だったが、展覧会の関連イベントに本書の著者・伊藤亜紗氏が講演会をししており、参考になると思った次第。
 読み始めてみると、近年まれにみる面白さで引き込まれてしまう。障害や福祉という文脈ではなく、美学や身体性という視点から、「目が見えない」ことを考察した論点がこれまでになく新しい。「目が見えない」とは欠如ではない。その例えとして、「脚が一本ないという「欠如」ではなく、三本が作る「全体」を感じるということです」という一文にはハッとさせられた。
 文体も平易で、それでいて感情的・情緒的でなく、冷静な分析や観察に基づいた記述、経験談がすばらしい。加えて、本書は目が見えない人の話を通じての現代美術入門でもある。おすすめ。

【ご案内】「うさぎと革命」図録

2015-12-18 23:14:52 | お知らせ
2015年6月に京都・traceにて開催された展覧会「うさぎと革命」の図録にテキストを寄稿させて頂きました。どこかで目にする機会がありましたら、お目通し頂けると幸いです。

タイトル:「うさぎと革命」図録
並列タイトル:The Rabbit & The Revolution: Yuko Kakehi, Chisa Ueno
編集:筧有子、大石真由美
撮影:表恒匡
デザイン:森垣賢
発行:[出版地不明] : うさぎと革命実行委員会
発行日:2015.10
形態:16p ; 26cm
注記:展覧会カタログ
    展覧会: 「うさぎと革命」筧有子・上野千紗
    会期・会場: 2015年6月6日〈土〉-6月14日〈日〉 trace(トレース)
    主催: うさぎと革命実行委員会
内容
「「今/ここ」への二つの眼差しの交差と分岐―「うさぎと革命」展に寄せて」岩陽子
「生き延びるための革命」平田剛志
図版
 筧有子
 上野千紗
出品作品リスト
出品作家経歴

頂いた日:2015年12月17日
 主催者の方よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
 出品作家の筧有子の作品はギャラリー301の個展で、上野千紗の作品はKUNST ARZTやtimelake展で作品を見ていたが、そのお二人が「うさぎと革命」なる展覧会を行うという。はたしてどんな展覧会になるのか実際に会場に行ってみると、どこにも「うさぎ」や「革命」らしき要素がなく途方にくれてしまった。はて、「うさぎ」や「革命」はどこに?
 ここから私なりに「うさぎと革命」とは何か探す行為が始まった。手始めにウィリアム・モリスのうさぎと薊文様やその由来まで遡り、日本の柳宗悦、民藝運動、柳田國男の随筆・うさぎ草を経て、上野千鶴子の女性戦士の「革命」論まで、さまざまな文献を渉猟・参照して書き上げたのが本テキストである。うさぎにあらず骨太な内容ではあるが、個人的にはとても思い入れのあるテキストになった。あらためて、企画・出品作家の筧有子さん、上野千紗さんにお礼申し上げます。


未読日記1120 『瓦の音楽』

2015-12-17 23:52:23 | 書物
タイトル:瓦の音楽 : かわらのまちあるきガイド
編集・執筆:太田明日香(オオタ編集室
撮影:上田謙太郎
デザイン・イラスト:fuuyanm(ねこのて舎)
企画制作:特定非営利活動法人淡路島アートセンター
      「瓦の音楽」プロジェクト
発行:洲本 : 特定非営利活動法人淡路島アートセンター
発行日:2015.3
形態:20p ; 26cm
内容:
瓦で音楽
どんな音がするのかな
いろいろな瓦楽器
世界をつなぐ、瓦の音楽
瓦の音楽ができるまで
いい音のひみつ
瓦のまち、津井の歴史
かわらのまちMAP

購入日:2015年12月17日
購入店:アートスペース虹
購入理由:
 京都・アートスペース虹にて開催された「Calendar for 2016」にて購入。本来はカレンダーが展示・販売される企画なのだが、カレンダー以外に野村誠さんのCDが並んでいるのを見たら、野村誠ファンの私はこちらを選んでしまう。瓦の音楽プロジェクトは野村さんのメルマガを読んで知っていたが、このような冊子とCDが出ているとは知らなかった。幸か不幸かこの日は自分の誕生日でもあり、ささやかな自分へのバースデープレゼントに瓦音楽を聴くのも悪くない。
 折しも「はならぁとアラウンド」というまち歩きイベントについての発表を控えた身としては、サブタイトルの「かわらのまちあるきガイド」なる言葉に必然的な偶然も感じ、ツイてる気がした。


野村誠+やぶくみこ『瓦の音楽』NPO法人淡路島アートセンター、2015


【ご案内】almanac14 "depositors meeting 13"

2015-12-16 23:04:51 | お知らせ
今年も、東京・art & river bankにて開催されるファイル・イヴェント「almanac14 "depositors meeting 13"」にセレクタとして参加させていただきます。

今年セレクトさせていただいたアーティストは、明楽和記来田広大田中秀介、吉本和樹、湯川洋康・中安恵一 (敬称略)の5名(組)です。各アーティストには本イベントに合わせて、新たにファイルをご準備頂きました。関東方面の皆さま、お近くに行かれる方、ぜひお手にとってご覧頂けると幸いです。

almanac14 "depositors meeting 13"
会期:2014年12月21日(月)~12月23日(水・祝) 14:00~21:00
会場:art & river bank

未読日記1119 『詩誌 エウメニデスIII 第49号』

2015-12-15 23:25:41 | 書物
タイトル:詩誌Eumenides III 第49号
編集:小島きみ子
発行:佐久 : 小島きみ子
発行日:2015.12
形態:104p ; 21cm
内容:

「あなたと傘のしたで」高塚謙太郎
「傘鳴ればいい」海埜今日子
「パルス」広瀬大志
「習熟祭」渡辺めぐみ
「ツリーハウス」長田典子
「駱駝のコブ 亀の腹甲への間」京谷裕彰
「シュルレアリスム日記(三)――鳥景――」漆原正雄
「“ベトナム ハノイ市午前一時に於ける繰り返される沈殿 1983 7/15 01:45”」勅使河原冬美
「あなたへの秋の長い手紙」小島きみ子

高原の朗読会作品抄
「In The Room」伊藤浩子
「『魄―はく ばつ―魃』より」生野毅

シュルレアリスム論考III・最終回
「シュルレアリスムの二十一世紀(三)」京谷裕彰
「なぜ「シュルレアリスム運動」は音楽を扱いこなせなかったのか〈三〉」平川綾真智

書評
「詩集評」漆原正雄
「高塚謙太郎詩集『memories』を読む」小島きみ子
あとがき

頂いた日:2015年12月15日
 執筆者の方よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
今号は前号から2倍の104頁となり、編集作業の苦労が偲ばれる。

 毎回楽しみに読ませて頂いている京谷裕彰氏の連載「シュルレアリスムの二十一世紀」も今号で最終回。今回の連載を読むとまだまだ連載を続けられそうな勢いとネタがたくさんあって残念だが、いつかの機会を待つとしよう。今回の連載は結論部ということもあって、刺激や知的関心・興奮を呼び起こす言葉が頻出するが、なかでも目から鱗だったのが「〈遊び〉に根ざすシュルレアリスム芸術は、その帰結として自然に《優柔不断であることの肯定》へとわれわれの意識を変位させてくれる」の一文であった。そういえば、オートマティスムやデペイズマンにしても、「優柔不断」や「肯定」の思想・技法なのかもしれない。シュルレアリスムのイメージを塗り変える鮮やかな言葉である。


memorandum 217 なかれ

2015-12-14 23:43:48 | ことば
いつでも死ねるやうに、いつ死んでもよいやうに、身心を整理して置くべし。
    なかれ三章
一、くよくよするなかれ
一、けちけちするなかれ
一、がつがつするなかれ
    べし三章
一、茫々たるべし。
一、悠々たるべし。
一、寂々たるべし。

種田山頭火『山頭火 一草庵日記・随筆 (山頭火文庫)』春陽堂、2011年、388-389頁。

年末年始は身心整理しよう。
それにしても、三章というのがおもしろい。

未読日記1118 『新居浜-日本』

2015-12-13 23:52:21 | 書物
タイトル:新居浜-日本: 〈工都〉の美術史と地方創生
タイトル別名:「新居浜--日本 回想の新居浜美術1890-2015」
編者:新居浜市美術館
デザイン:鈴木正道(Suzuki Design)
発行:東京 : 国書刊行会
発行日:2015.11
形態:197p ; 26cm
注記:展覧会カタログ
    展覧会名称: 新居浜市美術館開館記念「新居浜--日本 回想の新居浜美術1890-2015」
    会期・会場: 2015年11月3日〈火・祝〉-12月20日〈日〉 新居浜市美術館
    主催: 新居浜市美術館
    おもに図版
    付: 図(1枚)
    出品目録: p180-185
    40年の歩み 野間綾子編: p192-196
内容:
『坊っちゃん』野だいこのモデルといわれる高瀬半哉、黒田清輝の活動を支えた日本洋画の大コレクター住友春翠、新居浜高等工業学校で学び後に実験工房をリードした北代省三など、「住友の聖地」で育まれた美術の鉱脈をたどる、新たな美術館による挑戦の軌跡!

目次
ごあいさつ
「郷土美術館から新居浜市美術館へ」野口憲一
「開館記念展書籍の刊行に寄せて」松久勝利

まえがき「一地方都市のチャレンジ」山野英嗣

第1章 構想40年、美術館建設に向けた経緯―新居浜における事例/山野英嗣

第2章 新居浜という地で/土岐幸司

第3章 新居浜市美術館開館記念展「新居浜‐日本―回想の新居浜美術 1890‐2015」
 「「新居浜―日本」展の開催にあたって」山野英嗣
 第1部 「日本」近代洋画の原点は、「新居浜」洋画の原点でもある。
 「日本近代洋画の原点を探る」山野英嗣
 第2部 生誕150年・住友春翠が育んだ「日本洋画」の軌跡、「新居浜洋画」の軌跡を探る。
 「日本洋画を育んだ住友春翠」山野英嗣
 「近現代新居浜美術史概観」菅春二
 第3部 「新居浜アヴァンギャルド」登場
 「新居浜アヴァンギャルド 工都の前衛・その足跡をたどる」井須圭太郎

第4章 新居浜市美術館が目指すもの/山野英嗣

あとがき「地方創生、美術館を核に」山野英嗣

出品目録
関連人名解説 菅春二編
40年の歩み 野間綾子編
新居浜美術史概観(近現代編) 菅春二編、野間綾子・デザイン

頂いた日:2015年12月13日
 新居浜市美術館開館記念「新居浜--日本 回想の新居浜美術1890-2015」にお伺いした際に、美術館よりご恵贈頂きました。どうもありがとうございます。
 新居浜美術館は、愛媛県の新居浜市に2015年11月に開館した美術館である。小さい地方美術館ではあるが開館記念展となる本展では、地方の美術史を丁寧に掘り起こし、美術史として位置づけた展覧会であった。田村宗立から黒田清輝、浅井忠などの日本近代洋画、モネやジャン=ポール・ローランス、アルファオンス・ミュシャなどの海外作家、デザインの杉浦非水、今竹七郎、真鍋博、現代美術の北脇昇、北代省三まで、山野館長の実績と手腕があればこその充実の内容。また、図録となる本書では新居浜と日本の美術史の関係性が、豊富なテキストや年表などの資料によってまとめられ学芸員の地道な仕事が結実している。昨今の図録はテキストや資料類がないことが多いが、本書はボリュームのあるテキストによって地方の美術史でもこれだけの研究成果があることを明かしている。派手さこそないが、歴史やジャンルを超えた内容はとても見応えがある。今後のさらなる研究に期待したい。
 個人的には、実験工房のメンバーだった北代省三が新居浜出身であることに驚いた。北代の飛行や工学的な発想は、新居浜が源だったのかもしれない。

memorandum 216 うた

2015-12-12 23:28:57 | ことば
わたしはうたふ、わたしをうたふ、自然をうたふ、人間をうたふ。
俳句は悲鳴ではない、むろん怒号ではない、溜息でもない、欠伸であつてはならない、むしろ深呼吸である。
詩はいきづき、しらべである、さけびであつてもうめきであつてはいけない、時として涙がでても汗がながれても。
嚙みしめて味ふ、こだはりなく遊ぶ。
ゆたかに、のびやかに、すなほに。
さびしけれどもあたたかに。

種田山頭火『山頭火 一草庵日記・随筆 (山頭火文庫)』春陽堂、2011年、374-375頁。

俳句や詩を「深呼吸」して読むとき、私の体内にたまった怒号や溜息、欠伸で汚れた呼吸が入れ替わる気がする。ゆたかに、のびやかに、すなほに。言葉も深呼吸がいる。俳句や詩に限らず、批評や論文であれ、志はそういう文章を書きたい。
もちろん、ここでも「俳句」はほかの言葉に置き換えることができるだろう。